夢の島熱帯植物館
熱帯雨林の樹冠に雨が降る、緑の大天蓋を濡らして
綺麗な光景です。日本では見ることが叶わないので、いつか見ることができたらと思っています。
ある大雪が降った日のことでした、小五病が治らない私は、雪が降ると、ウキウキと出かけてしまいます。
この日もそうでした。
行先は「夢の島熱帯植物館」素敵な植物館です。
長靴を持っていなかったのでスニーカーで、
… 無謀です。
未明から降っていた雪は都内を白く染め、まだ降り続いています。
最寄りの新木場駅から歩きますが、植物館につく前に遭難しそうになります。
すれ違う人もいません、視界は灰色に煙って、ジーンズの裾も凍ってばりばりです。
営業していないのでは … 不安がよぎります。
植物園は営業していました。
雪空の下、三つの硝子の天蓋、
館内は暖かく、湿った熱帯の香りがします。
誰もいません、空調の音だけが聞こえる館内に自分の足音だけが響きます。
リノリウムの床はピカピカで、こんなに雪まみれで歩いては申し訳ない気分です。
温室内に入ります。
巨大な椰子に、美しい蘭、レースのように葉を広げる羊歯類、
真ん中には滝のある池が設えられて、オオオニバスが葉を広げています。
葉の下に、ゆらりと緋鯉の魚影が消える、
ドームの外は灰色なのに、館内は極彩色で不思議な感覚になります。
この感覚を味わいたくて訪れた私の肩を叩くものがあります。
水滴です、
ドームの上の雪が空気を冷やして発生した結露が滴っているようです。
ぽつぽつと、降るはずのない雨が、
椰子に、羊歯に、タニワタリに、蘭に、落ちています。
ゆっくりと館内を廻り、
タビビトノキに話しかけます。
「よいおしめりですね」
君たちのお国のスコールは、こんなもんじゃないんだろうけど、
遠い国から来て下さって、ありがとう。
雪の日、降らぬはずの雨が硝子の天蓋の下に降る。