ヒプナゴギアの幻覚
入眠時に見る幻覚。 起きていた時間の記憶や 脈絡の無い記号の羅列 もしかしたら 未来を予見する予知夢だってあるのかも。 映画大好きな ワタシが 見る夢は?
ヒプナゴギアの幻覚
仕事から帰ってシャワーを浴びて
食事をして 観たかった映画を
配信サービスで観て
ああ満足。
寝る前の甘い甘いホットミルクでいい気分。
ハッピーエンドの映画にチョッピリ涙して
だんだん ネムネムな気分になってくる
うつらうつら 泡沫の夢
ああ このままだと ソファで寝ちゃうよ
ダメダメ 風邪ひいちゃうし
いつもこのパターンなんだよね
がんばって がんばって
ベッドへ行かな zzzzzzzz
「待って」
その時 私は誰かに腕を引かれていた
え?
私、階段を登ってる
駅だ 駅の階段だわ。
階段の後ろを歩いてる男の人に腕を引かれたみたい
「これ 落としましたよ」
そう言った男の人の手には
ワタシのヴィヴィアンウエストウッドの
パスケースが握られていた。
「あ どうもありが⋯⋯ 」
言おうとしてる途中でパスケースを渡されて
追い抜いて行っちゃった。
「⋯⋯ とう」
パスケースを受け取った位置のままの右手を見ると
あれ?
パスケース違うよ
これワタシのじゃない
おおーーい さっきの人〜〜
このパスケース 男物だよう〜〜
えー あの人自分のと拾ったパスケース
間違えて渡してない???
い、急いで さっきの人追いかけないと
走って ワタシ。
⋯⋯ 走ってワタシ。
ああ 脚が重い
全然前へ進まない
呼吸が
呼吸がなんだか苦しいわ
⋯⋯ 身体が重いよ
そこで目が覚めた
⋯⋯ あれ ソファで寝ちゃったんだ⋯⋯
大変、風邪ひいちゃう
ベッドに行って寝ないと。
明日は午前から大事なプレゼンがあるんだもの。
翌日は
プレゼンもうまくいって
ワタシは上機嫌。帰り道に同僚たちとちょっとだけ
(かなり)お酒を飲んで来ちゃった。
マンションの鍵を開けると
パンプスを蹴っ飛ばすように脱いで
暖房のスイッチいれると同時に
急いでトイレ。
間に合ったわ。
洗面所の照明がすごく明るくて気に入ってるので
私はここに椅子を持ち込んで 音楽かけながらゆっくりとアレコレやっちゃう。
三面鏡だし この図画工作みたいなメイクには
時間がかかるのよ。
暖房が効いてきて 暖かい。
座っちゃおう。
コンタクト取って
クレンジングシートで メイクを落としてっと。
アイメイクを擦らずに上から押さえて落とすと
そのままハンコみたいに シートに移動するのが
おもしろくてお気に入り。魚拓だよこれ。
すぐにゴシゴシ落とすんだけどね。
右目が綺麗に魚拓取れた!
すごく満足。
ああ なんかすごく眠い⋯⋯
まだ半分してかメイク落としてないよ⋯⋯
「お待たせ」
肘の辺りを 軽く引かれた。
彼が静かに笑って ポップコーンとジュースを2つ入れたトレーを持って私を覗き込んでる。
あれ?
ん???
ああ 映画館、
そうだデートだった。
え?今時デートで映画??あれ?あれ?
「怖くないの?大丈夫?」
え?は?なんのハナシ?
彼はニコニコ聞いてままの表情
あ 怖い映画観にきたんだっけ?
おかしいなワタシ、ホラーダメなんだけど。
でもなんだか 彼のニコニコした穏やかな顔を見たら
大丈夫な気がしてくるから不思議。
ーシアター3 のお客様 間も無く入場ですー
「呼ばれたよ 行こうか」
暖かいニコニコ笑顔がそう言ってる。
なんだかとっても安心してるワタシ。
彼は自然にワタシの手を握って 館内に歩いていく。
手、握られちゃった
どうしよう なんかすごくドキドキする。
この人すごくスマートだ。
あれ?でもこの人名前なんだっけ?
思い出せない おかしいな
付き合ってるんだよね?
あれ?
あ 待って
急に 脚が重いの
前に 進まない
なんだか息苦しいし
待って 置いていかないで
ワタシも一緒に映画観たいよ
⋯⋯ そこで目が覚めた
鏡には半分スッピン 半分ガッツリメイクの
ワタシが居た。
ああもう 洗面台に伏せて寝てるよもう!
そんな飲んでないのに(うそ)。
あーまた眠気が
お風呂は朝入ろう。
お酒に暖かい部屋って最強ね
もう限界。
朝にはお酒も抜けて
良い目覚め。
今日もお仕事がんばろう!
駅のホームに向かう階段で
ワタシはヴィヴィアンのパスケースを落とした。
慌てて拾ったけど
あれ?なんだろう
このシーン
見たことあるような。
ま いっか 急がないと遅刻しちゃうわ。
今日は 取引先から ひっきりなしに電話がかかってきて目が回るほど忙しかった。
電話で即答なんて出来ないよ〜。
今日「確認して折り返しいたします」って
何回言っただろう??
18回までは数えてたけど
その後はもう数えるのをやめた。
疲れたよう〜〜〜。
ああもう こんな日は イケメンの彼氏が
手作りディナーで待っててくれる、とかじゃないの?
この玄関ドアを開けたらさ、
サプラーーイズ!!!!って言って
スパークリングワインと グラス2つ持って
玄関先で乾杯とかしてさ
⋯⋯ なんの記念日でもないけど
⋯⋯ ⋯⋯ それどころか 彼氏いませんけど⋯⋯
ああ虚しい 虚しいぜ
ワタシこんなに頑張ってるのにさ。
とりあえず コンタクトとって
メイクも落としてメガネにしよう
もう目がしばしばするよう。
夕飯も作る気がしないから
コンビニで買ってきた サラダとスープスパ。
疲れたよ
ご飯食べながら 子供の頃から好きなアニメ観よう
ひみつ道具でるやつ。
オトナになっても ずっと癒してくれる大好きなアニメ
ああスープスパに顔突っ込んで寝ちゃいそう⋯⋯
「乾杯」
彼氏くんが また穏やかに笑って
カクテルグラスを鳴らして乾杯した。
はーい乾杯 チンッと。
あ ヤダなちょっと
考え事してたみたい。
高層ビルのラウンジからは
すごい夜景が見える。
視線を動かすと180度くらい
夜景が見える。
すごいすごい 遥か彼方まで
星が敷き詰められてるみたい。
キラッキラ。
彼氏くん オシャレすごい気合い入ってる
かっこいいな。
いい匂いがする。
彼氏くんの匂い大好き。
あれ?
ワタシもすごい胸元開いたドレス着てる。
こんな高そうなお店で
2人正装して⋯⋯
彼氏くんが コソコソとお店の人に何か合図してる。
なんだろう サプライズかな⋯⋯
急にお店の照明が落ちて
ワタシと彼氏くんの席の上だけ灯りがついた。
お客さんみんなこっち見てるよう
ああこの音楽なんだったかな
ラブストーリーの映画の有名な曲⋯⋯
やだな彼氏くん
すごく真面目な顔してる。
ドキドキするじゃない。
えー膝ついたし!
王子様じゃん!!
「駅の階段で 君のパスケースを拾った時から
一目惚れだったんだ
心臓が破裂しそうにときめいて
君と話すきっかけが欲しくて
間違えたふりして自分のパスケース渡したんだ
もう頭真っ白で そんな事しか思いつかなくて」
そういうと彼氏くんは ポケットから
小さな箱を取り出して パカっと開けた。
綺麗で華奢なリング
ああワタシの誕生石だよねコレ。
きゃーーーーーーーーーー!
コレはアレですか!
そのアレですか!
プププップッププププププ
落ち着けワタシ!
プロポーズってやつですか!
もちろん OKだけど
でもでも
彼氏くん あなたは だあれ?
⋯⋯ そこで目が覚めた。
やだな もう またソファで寝てる
観てたアニメはもう終わってた。
ここのところ 夜はずっとこんな感じ
毎日寝落ちしてる。
疲れてるのかな
いや疲れてるよー!ワタシ今日頑張ったもん!
サッとシャワー浴びて寝ちゃおう。
朝になったけど
めちゃくちゃ寝坊してしまった。
えーなんでアラーム鳴らないの!
いや鳴ったと思うんですけど
無意識に止めましたねワタシ。
もう絶対間に合わない。
具合悪いって電話して有給休暇使って休むよ
そーする。
ベッドに寝転んだまま
ゴホゴホと嘘の咳をしながら
鼻をつまんで会社に電話入れて今日はお休み。
二度寝だよ二度寝。
この眠りに入っていく
クラクラする感覚 大好き
なんて言ったっけ
「ヒプナゴギア」
だったかしら
眠りにつく10分間に起こる
入眠時の幻覚。
この特別な幻覚の世界で見る夢は特別。
でも全然覚えていられないの。
ワタシは ヒプナゴギアで
どんな夢をみてるんだろう?
ああクラクラしてきたわ。
「映画配信には無かったからさ
一緒に観たくて ディスク買ってきたよ 」
彼氏くんは そう言って古いラブストーリーの
ディスクを取り出した。
「1番最初に 感動した ラブストーリーなんだ」
わざわざ 彼氏くんのルーツを
ワタシに伝えようとしてくれてるのね。
うんありがとう
そういうところ大好き。
一緒に観よう、あなたが感動した映画。
一緒に。
ああ ここは2人の部屋だ。
そういえば一緒に暮らしてるんだったっけ。
ドラマティックなプロポーズから
婚約して 入籍は式の後でってことにして
今は健全に同棲中 うふふ。
そうだ もう彼氏くんじゃないんだ
旦那様だわ。
ワタシの好きな旦那様の匂いがする
これなんの香りなんだろう?
香水かなぁ
ベッドでゴロゴロしてるワタシに
旦那様が くすぐり攻撃をしてくる
あははは やめてー。
不意に旦那様が言った
「君はまだ 眠っているんだね」
え?何を言っているの?
起きてるじゃない
でも そうね起きなくちゃ
ずっと寝てるわけには行かないの
でもでも起きたくないの
ずっと一緒に居たいの。
だってあなたと一緒に
あなたの好きな映画観るんだもの。
起きたくないの。
あなたと一緒に居たいのよ。
⋯⋯ そこで目が覚めた。
ワタシは泣いていた。
なんだろう この夢
名前も知らない旦那様
意識が戻ってくると
逆にどんどん 夢の記憶が薄れていくのがわかった。
覚えていられない。
忘れちゃう
切れ端に 旦那様が持っていた
映画のタイトルを書いた。
ハッキリ思い出せないけど
たしかこんなタイトル。
起きたら昼すぎだった。
どうやら三度寝したみたい。
ベッドサイドに
映画のタイトルを書いた切れ端が落ちてた。
なんだろう?
これ夢の中で出てきた映画かな?
会社サボっちゃったし
ショップに探しに行ってこよう。
そう思って ショップで探したら
結構簡単に見つかった。
なんだろうこの古い映画
なんだかすごく大事な気がして買っちゃった。
映画のディスクを手に駅の階段を登る。
家に帰って この映画観ようかな。
⋯⋯
⋯⋯ ⋯⋯
あれ?
観ちゃダメだ。
だって約束したもの
「一緒に観よう」って。
階段を登りながら頭がクラクラしてくる
あれ
何言ってるんだワタシ。
誰と一緒に観るの?
1人の部屋に帰って
仕事に追われてるワタシ。
誰と約束したんだっけ。
でも でも
やっぱり観ちゃダメ
約束したんだもん
一緒に観るって。
どうしよう
観たいけど
観れないよ。
一緒じゃなきゃ観れないよ
ああクラクラする。
「待って」
不意に後ろから 声をかけられた。
「これ 落としましたよ」
どこか聞き覚えのある声。
ワタシこの声
聞いた事があるの。
頭の中に
ネットで見たウンチクが浮かんでくるよ
ヒプナゴギア
入眠時に見る夢
瞼の裏の幻覚
きっと
きっと
この声の人
ワタシの好きな匂いがするはず。
クラクラするけど
起きてなくちゃ。
振り返ると
穏やかな
笑顔の男の人が
ワタシのパスケースを持っていた。
でも
きっと
あなたはワタシに
あなたのパスケースを渡すのね。
これはヒプナゴギアの幻覚なの?
彼はワタシにパスケースを渡して
スタスタと歩き出す
⋯⋯ やっぱり男物のケースだ。
「まって」
ワタシは声をかけた
うん
これワタシのパスケースじゃないよ
そう言うつもりなのに⋯⋯
「一緒に観たい映画があるの」
え?え?
何言ってんの?ワタシ。