人魚、別れと始まり。
私は暗闇に立っていた。
何も無い暗闇をキョロキョロと見渡すと一つだけポツンとあった小さな光が近くに寄ってきた。
「さっきの魚…」
お風呂にいたはずの魚が目の前に来て空中を漂っていた。
(ごめんなさい…)
声が聞こえた途端、魚が夢に出てきた女性に変わった。
そして何度も何度も謝り続けた。
「なんで謝るの?貴方夢に出てきた人だよね?」
そう言うと彼女は涙を流しながら話始めた。
(私はウンディーネ…水を司る精霊。私のせいで貴方を巻き込んでしまった。でもこうするしか無かった…。世界を救うにはこれしか…。
ごめんなさい。貴方の帰る場所を勝手に無くしてしまった。)
彼女はウンディーネという精霊らしい。いきなりファンタジーなのが来て頭がクラクラしたが彼女の顔の真剣さに本当なのだと分かった。
そして、私がもう帰れないという事も…。
「ねぇ、ウンディーネさん。帰れなくなったのは理由があるんでしょ?教えてくれる?」
ウンディーネさんはこくりと頷き静かに話始めた。
ウンディーネさん、その他の精霊が存在する世界で突如雨が降らなくなり、水が汚れ段々減っていき大地は枯れ始めていた。ウンディーネさんも自分の力で何とか大地が枯れるのを防いでいたが間に合わず、自身の水の力まで枯渇しようとしていた。
そこで他の世界から助けて貰おうと残り少ない力で見つけたのが私だった。
「私は普通の人間だよ?なんの力も持ってないし…」
(いいえ。貴方は水に愛された子、世界に存在することで水が蘇り、浄化されるのです。勝手ですが私の世界を助けて欲しいのです。世界を捨てさせてしまった私を恨んでも構いません。お願いします。)
確かに帰れないのはショックだ。両親にも友達にももう会えない。せめて別れを言いたかった。
でもそれだけ危険な状態なんだということをウンディーネさんを見ていて思った。
「…わかった!存在するだけで世界が救えるなら行ってあげる!だからもう泣かないで…」
私の言葉に余計ウンディーネさんが泣き始めてしまった。私を抱きしめごめんなさいとありがとうを何度も言い続けた。
何とか落ち着いたウンディーネさんはこれからの事を話し始めた。
(貴方がこれから行く世界は魔法も精霊も存在します。この世界で不自由なく暮らせるようにしますし、危険がもしあった時のために私の加護を…。
あ、あと…たまにでいいので…私と会って下さいますか?)
ウンディーネさんがチラリとこちらを見ながら不安そうに聞いてきた。
「もちろん!やっぱり寂しいから会ってくれると嬉しいな。よろしくお願いします、ウンディーネさん!」
ウンディーネさんは花が咲いたように初めて綺麗な笑顔を見せた。
(はい!呼んで頂ければいつでもすぐにでも会いに行きます!それに名前に敬称はいりません。貴方は助けてくれた恩人なんですもの!)
ウンディーネさんもといウンディーネが言うには私は水に愛されてるから全ての水の魔法が使えるそうだ。(なにそれすごい!)ついでにウンディーネをいつでも召喚できるそうです。もちろん詠唱とか無しで。
取り敢えずは基本の事だけ教えてもらって、細かいことは現地でという事になった。
寂しいのもあるが新しい、しかも魔法がある世界にわくわくしている自分がいた。
(では、よろしいですか?転送いたします。また後でお会いしましょう。)
足元に魔法陣が現れて光に包まれた。