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刃の転界者  作者: 利々 利々
第四章 刃術師は幕を斬る
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第17話 ReRise <1> :対峙

 双陽は中天高く。

 地平の果てまで見通せるような、広い草原のド真ん中。


 王都の北側、()だ見ぬ五大都市(ヴァスキュラーズ)へ続くという大街道を少し外れた場所に、そいつはぽつんと立っていた。


 こちらからも向こうからも、いつでも狙える位置。

 しかし当然、人数はこちらのほうが多い。


 矢で射抜いてもいいし、大魔法を展開してもいい。

 なんだったら王国軍の援護を――


「待って。接近が優先」


 思考を遮ったのは、ユミナの声だった。


 ……接近する? この状況で?


 流石に承服しかねる――そう告げようとした俺の言葉を、さらにユミナが遮る。


「遠くから攻撃しても効果は薄い。あなたを戦力に加えられる近距離が望ましい。それに、王国軍と一緒に戦うのは悪手。全員が強靭な精神力を持っているとは限らないから。……あまり殺到されると魔法や奇跡が使いづらくもなる」


 ああ、なるほど。言われてみれば先制(それ)は悪手だ。

 遠く後ろに――余分も含めて偽りの伝心の奇跡アナザー・センド・マインドの対策にと、かなりの距離をとって包囲している王国軍の面々を振り返る。

 確かに彼らを頼るのは危険だろう。


 どうして気付かなかったのかと不思議に思えるほどに。


「……もう戦いは始まっているってわけか」


 だとしたら完全に肉薄する前に、一つくらいは魔法や奇跡を放ってくるかもしれない。

 用心すべきだろう。


 ちっ、と。


 舌打ちの音が、聞こえた気がして――


 遠いマクスウェルのシルエットの上に、光の球が形成された。


 奇跡。

 魔法。

 あるいは俺たちの知らない何か――(よぎ)りそうになった実のない思考を捨てて、飛来する攻撃を見る。


 大きさはバスケットボール大。

 速度は投げた石ほど。

 回避は可能。


 光球の投射線上から距離を大きくとって、マクスウェルへ走る。


 ちらりと横を見れば、アルキスも追従するように動いている。ユミナも木っ端魔族(デーモン)を使って、同じく。

 シズカとヴァレットくんだけは動いていないが――判断は二人に任せるとしよう。少なくともユミナが口を出していないなら大丈夫、のはずだ。


 着弾。


 膨張した光闢(こうびゃく)が、景色を白く染め上げる。

 爆風に煽られて身体が空を舞う。


「ぐっ……おぉ……ッ!!」


 半ばは風に流されながら。

 だがもう半分は決して委ねず、空中で姿勢を制御する。


 それを可能にしているのは、カエデから受け取った新式装備――『風精(アーマー・オヴ)の鎧(・シルフィード)』。

 カエデから、大切に使ってやれという言葉と一緒に渡されたものの一つだ。


 俺の身体にぴったりフィットするとか、説明書っぽいものの中でアルキスのことをお嬢と呼んでいたから、おそらく辺境の街(マキネシア)裁縫(さいほう)妖人(ピクシー)、ジャーグレムさんの作だろう――というのは分かる。分かるんだが……どうしてこんなピンポイントでプレゼントされたのかまでは分からなかった。


 わざわざ王都に、それもアルキスじゃなく俺用の装備を届ける理由に心当たりがない。


 ――っ。

 また思考が脇道に逸れた。

 全力(ガチ)で使われると心底厄介だな偽りの伝心の奇跡アナザー・センド・マインド!!


「おやおや。あなたの頭の中の責任まで僕のせいにされるのは心外ですね」


「そういう能力だろうが、お前の奇跡は!」


 着地。


 睨みつけた先には金髪の優男。肌は天人(デイヴァ)の読心を顕示するように淡く光っていて、黒い瞳が俺を()ていた。


 後方の爆発で吹き飛ばされたおかげで距離が詰まる。

 彼我は二十メートル。

 だがあちらは奇跡を放ったばかり。

 弓のあるアルキスと違って、すぐに肉薄できるはず――


「――『太陽神の慈雨ヴァニティ・フレイヤー』!!」


 ――なんて美味(おい)しい話はないか!


 迫る光弾を(かわ)して進む。

 偽陽神の十八番、幻術系の奇跡はアルキスが無効化してくれている。

 俺はひたすら進めばいい。


 下級のものなのか、小さな奇跡が連発されている。

 が――

 ほとんどはアルキスの弓撃と相殺だ。むしろマクスウェルのほうが、矢の回避に時間をとられているほど。


 ……やはり金属でないと溶解(とか)すことはできないらしい。世界樹の弦から生まれる木製の(やじり)を、マクスウェルは通常状態の沸鉄剣で弾いている。


「剣も、鎧も! また劇的に良い装備(もの)に! お替えになったようで!」


「お前の奇跡も大概面倒だけどな!」


 俺も既に『永世(えいせい)斬徹(ざんてつ)』を取り出している。天人(マクスウェル)相手に、手札を隠しておく意味はない。


 それにマクスウェルが気付いた通り、『風精(アーマー・オヴ)の鎧(・シルフィード)』はただの革製(レザー・)の鎧(アーマー)ではない。


 風の精霊シルフィードの力によって俺の動作を補助してくれる優れものだ。

 一つの動作をより精密に行なえる。二つの動作をときに強引に繋げられる。

 風精の(ウィンド・)森人(エルフ)――風の精霊(シルフィード)に愛されたアルキスのそばにいれば、さらに効果そのものの上昇も見込める。

 俺のためにあるような鎧だ。


 光の弾丸を斬り払う。

 何合耐えたか数えていなかったが、左手に握った細剣(レイピア)が限界を迎えたので放り捨てた。


 鍛冶神の(シージング・)御手(シース・)の剣(ブレード)のような一撃死ではないとはいえ、偽陽神の奇跡とはすなわち熱量の塊だ。

 ただの細剣(レイピア)では厳しい。


 そして剣を持ち替える隙を埋めるのは――


「――『暗獄神(クルーエル)の慈雨(・マーシー)』!」


「……『蒼炎(フレイム)の鏃(・ボルト)』」


 ――後衛二人の支援攻撃だ。


「ふはっ! まるで示し合わせたような連携ですね!」


「白々しいんだよ読心野郎!」


 キッチリ最初から示し合わせてんだよ! 俺が接敵するまでは援護に徹するってな!


 雷撃と蒼炎が、マクスウェルの放つ光弾とぶつかって()ぜる。

 ……二人が同時に攻撃したのは失敗じゃないか?

 余剰をマクスウェルが回避しようとして、少し距離が開いてしまっている。


「悠長に考え事とは余裕ですね! ではもっと、(はん)(げき)(てき)にいきましょう! ――『光差す地よ(シャイニー・)来たれ(アセンド)』!!」


「っお!?」


 地面!


 足元が光り、一瞬の(のち)光線(レーザー)が空へ向かって放たれた。

 相手の足の下に地雷を放り込むような所業だ。


 目印の光を見逃さないようにしながら、走る、走る、走る。

 最短の直線を巧妙に封じられるせいで、絶妙に距離が縮まらない。


 この――


「何やってんのよ、ジン! しっかりしなさい! ――『黄昏(リーパーズ)の釵(・ディール)』ッ!!」


 七つの雷槍のうち、三つが敵へ向かい、四つが地面へ落ちていく。

 マクスウェルが盾の奇跡(シールド)準備し(かまえ)たのが見えた直後、雷が地面を穿ち、煙が立ち昇った。


 土煙の中へ身体を滑り込ませる。


 疾走と、風。

 閉じた視界はすぐに開けて――


「年貢の納め時だ――マクスウェル!!」


 ――液体状の(ヽヽヽヽ)剣身を(ヽヽヽ)裂いて(ヽヽヽ)、『永世(えいせい)斬徹(ざんてつ)』の刃がマクスウェルの鎧を斬りつけた。

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