春死に虫
ただ、ただ白に埋め尽くされ、生き物の息が消え果てた頃。
ようやく私達は目を覚ます。
私達は、静寂に包まれた世界の中で、出会い、恋をし、そして死ぬ。
ただ、ただその為だけに生きる。
常しなえの時の中、私達の父も、そして母も、同じように生き、
やがて飛ぶことを止め、食べる事を止め、
ただ、ただ恋する為だけに生き続けた。
そして今、
私は白く優しい雪の上を歩き続ける。
鳴く術さえ無くした私達にできることは、
ただ、ただ歩き、
ただ、ただ探し、
そして巡り会う事だけ。
それが私達の生き様なのだ。
或る人は云う、
短い生が可哀想だと。
私は笑う。
私達は、恋の為に生き、そして恋に死ぬ。
どこが可哀想なのだと。
天敵のいない冬の最中、一期一会の為だけに足掻き、もがき、苦しむ。
だからこそ巡り会えた喜びは何事にも代えがたい。
白く愛しい雪を割り、緑が顔を出し始めた頃、私達は次代に望みを託し、その生を終える。
他の生き物達がようやく動き出す頃に、生涯の悔い無しと勝ち誇って死んでゆくのだ。
息子、娘達への望むことは、
ただ、ただ一つだけ。
私達のように身を焦がす恋をし、満足し、勝ちを誇って死んで欲しい。
命萌ゆる春に死にゆく私達の死に様。
それこそが“生きた”ことの証なのだから。