表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/18

プロローグ 錬金術師と悪魔召喚師


 この世界には沢山の『神様』が居る。


 神様達から愛され『ブレス』と呼ばれる恩寵を受けて『アビリティ』を得た冒険者達は、『魔物』と呼ばれるモンスター達を倒し戦闘能力を高め、様々なダンジョンに赴き戦いを挑んでいた。


【広大な森】【古代遺跡】【集団墓地】【古い塔】

【放棄された要塞】【地下にある迷宮】

【魔物に占拠された市街】【海底の沈没船群】

【アースガルドのグラズヘイム】


 ダンジョンは魔物が潜む冒険者達に与えられた、自らの物語を紡ぐ為の舞台だ。


 神オーディンが地上で初めて作ったとされる、神話的なダンジョンまであるとされている。


 世界にはまだまだ多くの未知が潜み、日々新たなダンジョンが生まれていた。



 ーー迷いの森シュヴァルツヴァイト地下大迷宮。


 この地下大迷宮は、マグノリア王国シュヴァルツヴァイト領南西部に位置し、南北百五十km/総面積七千㎢以上にも及ぶ広大な大森林、通称『迷いの森』ほぼ中央あたりに昏く大きな口を開けている。


 大昔から『魔女が棲む』と言われるこの大森林は、大樹が幾重にも重なり更にその樹間の欝蒼と茂った樹々が太陽を覆い隠す、昼間でも常に薄暗く濃霧と瘴気が充満している森だ。


 そんな大森林を抜けた先に存在する地下の大迷宮は、全三十階層あるC級ダンジョンで、地下十階層、地下二十階層、そして最深部の地下三十階層に【階層主】と呼ばれている他の魔物とは群を抜いて強力な魔物が棲む。


 現在、この大迷宮の最深部である地下三十階層の階層主【漆黒の首無し騎士 デュラハン】に挑む少年と少女の影があった。



 齢十六歳白い髪をした少年はリュカ・シュヴァルツヴァイト。彼は『魔力を使わず神秘を起こす』錬金術と呼ばれる術を巧みに使い、魔物を牽制しながら一瞬の隙を見つけて、対象の首を刈り取る『アサルトスタイル』の錬金術師だ。


 目に掛かる黒曜石の様な美しい黒髪を右手で優美に流して、長いまつ毛の大きな瞳で鋭く魔物を見つめる少女はクロエ・シュヴァルツヴァイト。彼女は義理の兄であるリュカに導かれ【ソロモンの魔導書】と契約し、悪魔召喚師として冒険者となった。


 ◇


 彼我十m程の距離で、階層主デュラハンと睨み合った白い髪の少年リュカは、頃合いを見計らい『補助魔法』の魔法石を使用する。宙に横一閃に右手を振り抜くと、彼の前に5種類4色の魔法石が浮かび上がる。


「"Physical Up"第二位階:身体能力向上」

「"Magic Counter Field"第三位階:魔法反射」

「"Anti Death Magic"第三位階:致死魔法回避」

「"Fairy Ling"第四位階:状態異常耐性向上」

「"Mirage"第二位階:攻撃回避」


 すかさず魔法石の名前を呼称すると、彼の前に浮かんでいた様々な魔法石が弾け、石に封印されていた補助魔法が発現し少年と少女に魔法効果が及んだ。


 少年は紅い瞳を爛々と躍らせると、巨大な黒馬に騎乗した【漆黒の首無し騎士】の懐まで一気に距離を詰め寄り、黒騎士本体に切り掛かる。

 勢いに乗ったリュカは通常の人間の目では追えない程の速さだ。


 (あぁ、気持ちが昂ぶる……いけるかっ?)


 幾つもの白い残像を残しながら、少年は『ウンネフェルのナイフ』で横一閃に斬り付け、更に左手にミスリルのナイフを鞘から抜いて斬り付けるが、巨大な黒い騎士は大剣でナイフを受け止めては、黒い霧に姿を隠し、少年の背後に転移し切り結ぶ。


 呼吸を止めた少年の脈拍が高まり、紅瞳が鋭さを増すと、白髪の冒険者は更に斬撃速度を上げる。


 激しい斬撃と驚異的な反応速度の撃ち払いで、戦闘空間に無数の『白銀の火花』が舞う応酬でも、漆黒の騎士に傷を付ける事は出来ず、その大剣で全ての斬撃が防がれてしまう。


 (流石だなぁ、最後は八連撃だったんだけど……流石にデュラハンの防御は抜けないか……非実体化と実体化に隙が無くて、まるで転移してるみたいだ)


 少年は身を翻し、デュラハンを蹴り付けた反動で背後へ大きく飛び退くと、一旦距離を置いて攻撃目標を変更する事にした。


(一人では崩せないならっ!)


 少年は一瞬連れの少女を見やり、目で合図を送ってタイミングを計ると駈け出す。


 もう一度風に乗り、漆黒の首の無い騎士の足元に潜り込んだ少年は、今度はデュラハンが騎乗する漆黒の巨大な馬の前脚に狙いを定め、両手のナイフで無数の斬撃を見舞う。


(あと一息……よしっ、効いてる!)


 黒く巨大な体躯を誇る騎士の愛馬が、前脚をもたげ斬撃を躱そうとするが、一閃、二閃、その巨体に斬撃が撃ち込まれ、黒紫の体液を散らせながら黒馬はその体躯を前傾させ始める。


「デュラハンの体勢が傾いた。クロエ!」


「ん、ソロモンの書序列六十六番目の悪魔 地獄の勇猛な戦士 戦う力を与える者 キマリス!」


 少女がキリマスを召喚すると、闇を裂く様に黒く巨大な体躯の馬に跨った、悪魔の騎士が顕現する。


 ーーキリマスはソロモン七十二柱の悪魔の一柱で、二十の軍団を率いる序列六十六番の地獄の侯爵だ。召喚すると黒く巨大な馬にまたがった勇猛な騎士の姿で現れる。どんな弱者をも一瞬のうちに勇猛な騎士へと変えてしまう程の、『戦闘能力』を召喚者に与える。



 デュラハンの体勢が前屈みになった次の瞬間、クロエが弧を描く様に漆黒の騎士の前に踊り出て、しなやかな動きで右足で踏み切ると、彼女の柔らかくも引き締まっだった身体は、絶妙なバランス感覚を以って重量を置き去りにした。


 (速いっ!ーー身体の使い方が上手くて、デュラハンは捉え切れてない。この一撃は入るっ!)


 空を仰ぐ様な体勢から、身体の縦回転に捻れを加え、黒い騎士に向いた彼女は、白銀に輝くミスリルのソードを袈裟斬りに振り抜いた。


『ぐぅおおおおぉぉぉぉ!』


 デュラハンの胸に斜め一閃の傷が浮かぶと、首が無い漆黒の騎士は何処からとも無く咆哮をあげる。


(良い一撃だったけど、やっぱり武器の性能差かな?ーー今ので終わってもおかしくない一撃だ)


 まだ右手に残る魔物を斬った鈍い感触をクロエが確かめていた時、『ビリビリッ』と大気と地面が悲鳴めいた振動を始め、ふいに彼女は足元を崩されてしまった。


 白髪の少年は一瞬背中に冷たい汗を感じ……


 「クロエ!ーーまだ終わってないっ!」


 その隙をデュラハンが見逃さす事は無く、漆黒の馬が前脚を上げ嘶く姿を見せると、馬上から大剣をクロエに向けて横に薙ぎはらう。


 少女の回避行動は間に合わないと悟ったリュカは、左手に握った金貨に意識を集中させ、錬金術で土の障壁を錬成する。


「クロエは殺らせないっ!」


 次の瞬間、凄まじい爆風を伴う大轟音と、土煙を巻き上げながら、障壁を崩したデュラハンの大剣はその勢いを殺した。


「油断しちゃ駄目だ。すぐにデュラハンの右に周り込んでアモンを召喚してっ!」


 少年が錬成した障壁を身体を回転させながら擦り抜けたクロエは、大剣を止められたままの姿のデュラハンの右前方に躍り出ると、すかさず二体目の悪魔を召喚する。


「これで終わりだから……ソロモンの書序列七番目の悪魔『豪炎の侯爵』アモン!ーー灼き尽くして」


 瞬く程の淡い光を放った直後『蛇の尾に梟の頭を持つ狼』の姿を持つ、悍ましい悪魔が顕現する。


 ーーアモンは、ソロモン七十二柱の悪魔の一柱。四十の軍団を配下に置く序列七番の大いなる地獄の侯爵。口からは豪炎を吐き「豪炎の侯爵」の異名を持つ。 七十二柱の悪魔中で最も強靭で高い火炎属性の火力を誇る。


 ーーグゥン……ミシッ……ミシミシ…………


 頭を垂れぬ者全てを地に這わせ、磔にする様な重い衝撃がフロア全体を支配し、怯えた大気と大地が一斉に振動を始める。


 その振動を伴う大轟音は、仄暗い地の底から数万の死人の軍勢が、地上に這い上がろうと押し寄せる地響きを思わせ、徐々に大きくなる切迫感と恐怖感を迷宮最下層に撒き散らせた。


 周囲一帯の岩や大地に深い亀裂が走っている。


 (なんだよこれっ!……やばいだろ。重圧とか、威圧とかそんなレベルじゃ無く、本能的に脚が竦んでしまうっ! 早く射線から逃げないとっ!)


 あまりに圧倒的な存在感、臓腑を握られた様な重圧感と悪意の奔流に、抗う術も無くリュカは呑まれ足が立ち竦む。


  顕現した梟の様な頭持つ悪魔の口が、大きく邪悪に歪み開いた瞬間、正に地獄の豪炎全てをここにぶち撒けたかの様な、真黒い油煙をあげる毒々しい程の、赤黒い炎の濁流が、地下三十階層に解き放たれた。


 ーー轟轟と炎の音が響きわたり、大迷宮の最深奥『黒騎士の間』は、地獄の炎で火の海となった。


 炎の濁流に炙られた大気が、火の粉を舞い上げながら極度に乾燥し、肌の水分を急激に奪いヒリヒリと痛み出す。

 少年の紅い瞳が、薄い唇が、白く細い喉が乾き、肺を焼かれる様な痛みが彼の大脳に生命存続の危険を訴える。


 空間が揺らぎ大地が蒸発する様な、紅蓮の濁流から紙一重で転がり、逃れる事に成功したリュカは、それでも全身から煙をあげて悲鳴をあげていた。


「熱っ!……ああああああああああぁぁぁ!」


「ふふ、リュカ可愛い」


「ホントに熱いっ、うわっ、あ、髪が焼けたっ!」


「ごめんね?……ポーションを出すから少し待って」



 デュラハン討伐の成功を疑わない黒髪の美しい少女は、笑みを少し浮かべながら白髪が少し焦げた少年に駆け寄ると、「何処か痛くない?」と白くすらりとした指で、まだ少し熱を帯びた肌をペタペタと触診し、火傷の程度を確かめた。


「うん、何とか大丈夫……みたいだ。クロエは熱く無いの?」


「ごめんね、召喚者だから私は全然熱く無いの」


 未だに少年は「くぅぅ」と、高い唸り声をあげている。


 ややあって、炎が消えた跡には未だ冷める様子が無く、赤黒い光を放ちながら、柔らかな水飴の様にドロドロに溶けた地面と、至る所で燻る炎が残っていた。


 リュカが紅い瞳を凝らすと、溶岩の熱で揺らぐ視線の少し向こうに、紫を帯びて黒く鈍い輝きを放つ大きめの魂晶が転がっている。


 (間違いないデュラハンの魂晶だ)


「ねぇ……魂晶、まだ熱そうだから少し休も?」


 戦闘が終わり緊張を解いた少女は、壁際に向かい歩きながら、振り向きざま無邪気に少年へ訴えた。


 ーートクンッ


 振り向いた可憐な彼女の妖精の様に整った顔は、少年の心臓が一瞬に跳ね上がる程に可愛い表情だった。


 「あ、……うん。少し休もうか」


 言葉を飲んだ少年に、微笑んだ少女は嬉しそうに白く透き通る頬を、少し桃色に上気させている。


 (……君は、ほんとに可愛くて綺麗な人だなぁ)


 地下二十八階層から小さな戦闘を重ね、最深部まで駈け降りて来た少年にも異論は無く、両手に握られたままだった『ウンネフェルのナイフ』と、『ミスリルのナイフ』を鞘に戻しながら、彼女の後に続くと、待っていた彼女の華奢で柔らかな身体を抱き寄せてお祝いをする。


「クロエ、初攻略おめでとう!最後の悪魔が出た時なんか、僕一瞬足元が完全に竦んじゃった。あれは本当に凄かったよ」


「ん、ありがと。でも……リュカは三年前に単独で初攻略したでしょ?それに比べたら全然」


 白髪で紅瞳ーーアルビノの少年は、十三歳とハヶ月でこの大迷宮を単独踏破し、地元グランツァーレ市で一躍注目を集める存在になっていた。


「そうだね。でも、あの時は二ヶ月以上掛かったしさ。地下二十九階層で野営をしながら、デュラハンの攻撃パターンと防御の弱点を探してたら、時間が掛かっちゃって。情報を集めて、十六回目のアタックでやっと倒せたんだよ」


「ちょっと、十六回目って。普通なら諦めるそうなのに。あの時、私、リュカが返って来ないから心配してたのよ?」


 クロエは小さく呆れた様な声でため息を吐くと、白くすらりとした小さな手をその額に当てた。


「でもさっ、なかなか勝たせてくれない魔物のデータを少しずつ集めて、分析して、命懸けで魔物に挑む時って『冒険してる』って感じがして、凄く怖いんだけど、最高に楽しいんだよっ!」


「そうね、今日はありがと」


 冒険が大好きなリュカが、興奮気味にその楽しさを語りだすのを、何処か微笑ましい物でも見る様子で、少し笑みを浮かべたクロエは、リュカの手を取り少し指を絡めて恥ずかしそうに言った。


 リュカは頬を紅に染め嬉しそうなクロエの頭を優しく撫でると、ダンジョンから離脱する事にした。



「"Teleportation"低位階:瞬間移動」


 ーーややあって、『デュラハンの魂晶』を回収した少年と少女は、二週間ぶりの帰路に就くため、アイテムポーチから灰色の魔法石を取り出し砕いた。

登場人物紹介


リュカ・シュヴァルツヴァイト

主人公の少年。"愚者"。賢者ニコラス・フラメルに導かれ錬金術師となる。


クロエ・シュヴァルツヴァイト

主人公の義妹。神ハデスの恩寵を受け不幸な幼少期を過ごす。リュカと出会い悪魔召喚師となる。


シャルロッテ・シュヴァルツヴァイト

主人公の実妹。何者かに殺害されるがリュカの錬金術にて魂のみ賢者の石に留める。


マーニ・バーシニア

幻獣フェンリルの血を引きながらもノーザンブリア王家に滅ぼされた"銀狼族の国バーシニア"王家の幻獣騎士。


エリンツォ・アルベルティ・デュオニソス

主人公の幼馴染である鍛治師のドワーフ。"失われた大陸ヘリオポリス"の鍛治神プタハの恩寵を受け、ヘリオポリスの鍛治技術の復刻を目指す。


ジョルジャ・アルベルティ・デュオニソス

シュメールのエルフ族でエリンツォの妻。シュメールの鍛治・工芸神エンキの恩寵を受けエリンツォの元で修行を積み裁縫師となる

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ