北風と太陽(もうひとつの昔話7)
そこは荒涼とした荒野でした。
太陽が照りつけています。
北風が吹きすさんでいます。
そんななか、一人の旅人がもくもくと歩いていました。
「あの旅人のガイトウ、どちらがぬがせることができるか、勝負をしようではないか?」
北風が太陽に戦いをいどみます。
「ああ、いいとも」
太陽は北風の挑戦を受けて立ちました。
さっそく勝負が始まります。
まずは北風。
ピュッーと、冷たい風を旅人に吹きつけました。
旅人がブルルルとふるえます。
けれどガイトウはぬぎません。
北風はさらに強く吹きつけました。
旅人はそれでもガイトウをぬぎません。
「ダメだったか」
北風はがっくりと肩を落としました。
続いて太陽。
ギラギラと、強い陽射しを旅人めがけてあてました。
旅人がまぶしそうに空を見上げます。
けれどガイトウはぬぎません。
太陽はさらに強い光を送りました。
旅人はそれでもガイトウをぬぎません。
「ダメだったか」
太陽はがっくりと肩を落としました。
「なんてガンコなヤツなんだ」
北風があきれ顔で言います。
「ああ。これではだれも、アイツからガイトウをぬがせるなんてできないぞ」
太陽は大きくうなずきました。
旅人が荒野を歩き進んでいると、遠くに一軒の旅館が見えました。
「おっ、旅館だ!」
おもわず声が出ます。
無理もありません。今日はずっと、冷たい風と強い日射しのもとを歩き続けてきたのです。
ですが、旅で一番お金がかかるのが宿泊代。
これからの長旅を考えると、嵐でもない限り旅館に泊まることなどできません。
――いや、ダメだ。
旅人はすぐに思い直し、今夜も野宿でがまんすることにしました。
ところが……。
旅人は旅館の前まで来ると、そこでいきなり立ち止まりました。入り口の貼り紙を見て、つい足が止まったのです。
――よし、今夜はここに泊まるぞ。
旅人はうれしそうに、いそいそと旅館の門をくぐりました。
旅人が旅館の裏で服をぬぎ始めました。
「いったい、どういうことなんだ? あれほどたやすくガイトウをぬぐとはな」
「しかも着ているもの、みんなぬいでるぞ!」
北風と太陽がおどろいて、旅人の様子をうかがい見ていますと……。
丸裸になった旅人は、タオルを手に岩がゴツゴツ並んだ部屋に入っていきました。
「そういうことだったのか」
「なるほどな」
北風と太陽がうなずき合います。
そこには露天風呂(混浴)のプレートが貼られてあったのでした。