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第七話  緑川法子 

小さい頃、法子は日本が晴れれば『日本晴れ』なのだと思っていた。


でも調べて見れば、その言葉は海外の天気を表現するときにも使えることがわかり、

さらに調べると正式にはそのような言葉はないということもわかった。


しかし、イメージから言うと今でもたまに耳にするその言葉は

日本のあのシンプルな国旗のように、空に太陽だけが浮かぶような天気のことを指すのだろうし


さらに言えば、それはまさに今日のような天気のことを言うのだろううな、と

法子は自分の部屋からぼんやりと窓の外を見つめながら思った。







江口教授の大学内の自室に召集されたのが1週間前。

法子たち5人は、その時江口の授業の単位と引き換えにある使命を言い渡された。



レンジャーを結成する。



理由はまだ余り明かされていない。


わかったのは、今度ある大学長選挙に出馬する何人かの教授が行わんとしている

プロパガンダを阻止するのがそのおおよその概要らしいということくらい。


あれから、今後の詳しい指令は後ほど連絡をすると言っておきながら

江口からの連絡は未だにきていない。


あの日以来、ケータイが鳴るたびに身体中に緊張が走る。

夜中に鳴ったときなどは、そのせいで翌朝まで眠れなくなった日もあったくらいだ。

まったく健康によくない。



数日前に法子は連子と由美からそれぞれ一日違いでメールをもらっていた。


内容はどちらも大差はなく、その内容は共に江口からの連絡が来たか?というものだった。

やはり彼らもあの日以来ケータイを固唾を呑んで見守っているのかもしれない。



今日は日曜日。

窓から眺める外は雲ひとつない晴天だ。


法子の家の前にある公園からは、子供達の楽しそうな騒ぎ声が聞こえてくる。


しかし、法子はとても遊びに出かけようなどという気になれなかった。


「どれくらい待たせる気なのかしら・・・。」法子はひとりごちる。



その時、部屋にノックの音が響いた。



「あ、はい?」


「法子さん。ちょっといいかしら。」クメさんの声だった。


クメさんとは法子の家でお手伝いとして働くおばあさんだ。

彼女は広い緑川家の豪邸に使える数人の使用人の長で

主に、法子の身の回りの世話を担当している。

法子は彼女のことを、亡くなった祖母の代わりに、本当のおばあちゃんのように慕っている。


法子は窓際からドアのところまで行ってクメさんの為にドアを開けてあげる。


「どうかしたのクメさん。」


玲子れいこさんがお呼びです。」クメさんは応える。


「お母さんが?・・・わかった。すぐ行きます。」


クメさんが用件をすませ、ドアを静かに閉める。


お母さんが私を呼んでいる。

呼び出しをくらった理由はわかっている。


大学の成績の件だ。


法子の他に緑川家には3人の子供がいる。

法子の他の二人は共に国内随一の有名大学を卒業し、

一人は医師として有名大学病院で働き、もう一人は弁護士として自分の事務所をもっていた。


末っ子の法子には当然のごとく、それらと並ぶ将来が期待されている。


そのために常に成績はトップであり続けることが母親から要求されているのだ。


「はぁ・・・。」法子はため息をつく。


まだ母親に成績のことは話せない。

江口の授業の単位がまだ出ていないからだ。

それどころかその単位が永遠に剥奪されようとしているなんてことを言えるはずがなかった。


「なんて言えばいいんだろう・・・」



その時。



ぴりりりりりりり。




法子は強張った身体を動かしケータイに手を伸ばす。


光るディスプレイを覗き込む。




メール受信 江口 教授







法子はゆっくり息を飲み込んで、メールを開く。

第八話につづく

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