第六話 天才
「IQ・・・・」
「200・・・!?」
法子と連子は驚きの表情で口を開き、
なんとかそれだけの言葉を発すると、それ以上声が出せなかった。
まだ何か驚きや疑いの言葉を羅列したくて口をぱくぱく動かすものの
あまりの驚きでそれ以上、言葉がでなかったのだ。
「へぇ〜雄三君ってすっごいんだねぇ〜!!」
桃田はいつもどおりの笑顔で雄三に言う。
「すごい・・・。」
由美はそれだけを言うと雄三の方を見る目を輝かせた。
「・・・・・・」
雄三は居心地が悪そうに押し黙って頭をかいている。
「すごいって・・・ふふ・・・」
そう言ってまた少し可笑しそうに微笑むと
江口は驚きの顔を浮かべている面々の方を向いて言う。
「君達も彼に劣らずすごいと思いますがね。」
「そうなの!?僕もIQ200なのぉ?」桃田がうれしそうに言う。
「ハハハ。それは違いますよ。
・・・でもあなた達も青山君の頭の良さにも匹敵するものを皆さん持っているでしょ?」
「・・・・・?」
「・・・・え・・・・」
「・・・・・んん〜、なんだろうなぁ・・・」
「まぁ、いずれわかるでしょう。今はこれだけは言っておきましょう。
私が君達をレンジャーに選んだのは・・・・
何も君達の名前に色が付いているからという理由だけではない・・・ということを。」
「おい、天才〜。」
「・・・・その呼び方はやめろ。シメルぞ。」
「いいじゃん、ホント天才なんだろ、あんた?」連子は嫌味に口を尖らせて言う。
「ねぇ、あんた、それ・・・ホントなの?」法子も真相が聞きたかった。
江口の部屋から解散し、今、雄三たち5人は大学の校門までの道をまとまって歩いている。
「しらねぇよ。・・・ただ・・・。
なんか高校のIQ調べるテストした時、後から俺だけ呼ばれて先公の目の前でもう一回解かされたりしたな。
・・大学入るときも妙にいい待遇を色んな大学から提案されたりしたしな。」
「じゃ、じゃあ、なんでお前この大学入ったの?
もっといいとこはまだあるだろ?」
雄三たちが通うこの大学は国立大学の中では上位に位置する偏差値を誇るものの
IQ200といわれる雄三が入る大学にはどうにも不釣合いなように思えた。
「だって、近いから。」雄三はさらっと応える。
「おまっ・・・」
「・・・・バカよあんた。」法子は呆れる。
「あぁ?馬鹿じゃねぇよ。」雄三は法子にかみつく。
「そおだよぉ。雄三君は天才なんだからバカじゃないよぉ。」桃田がさも得意げに言う。
「・・・桃田ぁ。俺を天才扱いするなって言ってんだろ!」
雄三は桃田の襟首を掴み桃田を強引に引き寄せる。
「俺はバカでも天才でもねぇ。・・・わかったか?」
「・・ひぃっ・・ご、ごめんなさいっ。も、もういいません。」
さすがの桃田も雄三の鬼のような形相にはたじろんだようだ。
「・・・ったく。」雄三は苛立ちを沈めると掴んだ桃田の襟首を荒々しく離した。
「それにしても・・・最初の指令は後で連絡するって・・・。」
連子が江口教授の部屋でのことを思い出しながら言う。
「連絡用のメールリストまで作らされたしな・・・なんなんだよ全く・・・」
雄三も思い出したのか不機嫌そうに頭をかく。
「なに・・・・させられるんだろ・・・わたしたち・・・」
由美が不安そうに下に視線を落とし言う。
それを見た連子がやさしく声をかける。
「だ、大丈夫っすよ由美さん。一緒にがんばりましょう。」
「はん。お前は単位がかかってないから気楽でいいもんだな。」雄三が言う。
「そうね・・・。
連子君は何も失うものはないのにわたし達に巻き込ませちゃって・・・。
本当にごめんなさい・・・。」
法子が本当に申し訳なさそうに連子に言う。
「い、いえ。そんな、やめてくださいよ。
俺は好きで一緒にメンバーに入るって決めたんですから。
それにこれから長い春休み。どうせ暇ですしね。」
連子は顔の前で両手を左右に振って笑顔で応えた。
「あ、ありがとう・・・連子くん・・・。」
由美は連子の方をしっかり向くと
頭をちょこんと下げてお礼を言った。
(今・・・由美さんが・・・連子くん・・・って・・・)
ボン!!
連子は顔を真っ赤にして倒れた。
(あぁ・・・・死んでもいい・・)
「あぁ!ちょっと・・・・大丈夫ですかぁ?」由美が心配そうに連子に駆け寄る。
「アホはほっとけよ。」雄三は面倒くさそうにスタスタ先に行く。
「ははは〜連子君真っ赤ぁ」桃田は大声で笑っている。
「はぁ〜・・・・連子君。起きて、ほらぁ」法子は呆れながら由美と一緒に連子を起こしに行く。
いつのまにか、先ほどまでの曇り空は綺麗に晴れ渡っていて、
彼らの頭上には綺麗な茜色の空が広がっていた。
しかしこの時彼らは
目の前の透き通ったそのキレイな空とは対照的な薄暗い渦の中へと
自分達が巻き込まれてしまおうとしていることに
まだ気がついていなかった。
第七話につづく