第四話 使命
「さて。彼らはどうなりましたかね。」
江口は壁時計を一瞥した後で窓際の自分のリクライニングチェアーに腰掛ながら
今にも沈みそうな太陽を見るでもなく眺めながらつぶやいた。
手元に開いていた本を静かに閉じ、その本を目の前の机に置く。
「プロパガンダ・・・」
江口は本の表紙に書かれたタイトルをぼそりと読み上げる。
「さて・・・」
「お前が赤!?」
「やったぁ見つけたぁ」
雄三の怪訝な顔とは対照的に桃田は笑顔で喜びの声をあげた。
「赤川・・・連子・・・君・・・。」法子が連子に言う。
「そ。でも何で江口教授が俺を探してるわけ?」
「わからない。わたし達もあなたを探してこいってしか言われてないから・・・」
「こんなやつが赤で大丈夫なのか?
・・・まぁいいや。とりあえずメンバーは揃ったんだ。
江口のとこに行こうぜ。」
雄三が面倒くさそうに言う。
「おい。こんなやつってなんだよ。
そんなこというならお前らに協力しないぞ。」
そう言うと連子が雄三にそっぽを向いた。
「あぁ!?お前はガキか。さっさと行くぞ。どうせ暇だったんだろうが。」
「はん。暇だからってそんなこと言う奴に協力するほど暇でもお人よしでもないね。」
連子は口をとんがらせてそっぽを向く。
「なろぉ!!」
「ちょっと!!二人ともやめなさいって。」
またケンカになりそうな二人にあきれながら法子が止めに入る。
「あの・・・。」
その時、由美がとことこと連子に近づくと小さくつぶやいた。
「な、なに?」連子はうつむき顔の少女の方を振り向いて少し戸惑いながら言った。
「きょ、協力してください。・・・わたし達を助けて・・・ください。」
由美は真っ赤な顔をあげながら連子の目を見つめると
精一杯声を出してそう言った。
緊張で目は涙ぐんでいる。
「!!」
由美の涙ぐんだ瞳を見た連子の胸にいかずちが落ちた。
(か、かわいい・・・・。)
「お願い連子君。わたし達ホントに困ってるの。
雄三のことはわたしの方からあやまるから。・・・お願い。」
法子も由美に並んでお願いをする。
「・・・・・・・・・わ、わかりました。俺、協力します。」
「ホント?やったぁありがとう!」法子が歓喜の声をあげる。
「やったぁ!」桃田も続く。
「あ、ありがとうございます。」
由美はほっとしたような笑顔を浮かべて連子に頭を下げた。
「い、いえ。暇だったし、そんな・・・。」
連子は照れながらそう言うと、あたふたと頭を下げる由美に顔を上げさせた。
「たく。・・・うぉ!ホウコ!じ、時間!」
雄三は自分の腕時計を見るとそう大声をあげた。
「え?・・・あ!!!もう、期限の時間まであと5分しかないわ!」
「えぇ?」由美が困惑の声をだす。今にも泣き出しそうだ。
「とりあえず走るぞ!お前も!ほらいそげ!」
「お、おう!」連子も未だに事態がうまく掴めていなかったが雄三の声に戸惑いながらも従う。
「エテコー!!まってろ!!」
バタン!!
「はぁ、はぁ・・・」
江口の部屋の扉を勢いよく開けた雄三は息をきらし、ひざに両手をついた。
「はぁ、雄三、一人で、つっぱしん、ないでよ・・・」続けて法子が部屋に入ってくる。
「はは。部屋まで皆でかけっこ。楽しかったぁ」桃田は息ひとつ切らさずピンピンしている。
「はぁ、はぁ、だ、大丈夫ですか?」連子が由美を気遣う。
「はぁ、はぁ、う、うん、なんとか、大丈夫、です・・・」由美は誰よりも息を切らしてそう言った。
「騒がしいですね。」
江口は静かな笑顔を口元に浮かべながら雄三たちに言った。
彼は窓際のイスに腰掛けながら机の上で手を組んで微笑んでいる。
「まったく、マナーがなってないようです。」
「時間は?」
雄三が顔を上げ江口に言う。未だ肩で息をしている。
「・・・期限時間5秒前・・・ぎりぎりセーフです。」
「よかったぁ。」法子がヘタヘタとその場に座り込む。
「ふにゃ。」由美も糸が切れるように倒れる込む。
「わ!だ、大丈夫ですか!」とっさに由美を受け止める連子。
「じゃぁ僕達単位もらえるのぉ?秀ぅ?」
桃田が笑顔で江口に聞く。
「いいえ。・・・残念ながらそれはまだできません。
メンバーを集め、やっと私からの課題のスタート地点にたっただけです。」
「なんだと!きたねぇぞ!」雄三が大声をあげる。
「この間もちゃんと言ったはずです。
やってもらうことはメンバーを集めた後に言うと。」
「あ。たしかに言ってたぁ」
桃田が思い出したように言う。
「・・・じゃあ・・・何をさせる気なんだよ。」雄三は不機嫌そうにそう言った。
江口は雄三の言葉に静かに微笑むと、また意味深な間を空ける。
ごくり・・・。
全員が息を呑む。
充分な沈黙の後、江口が口を開き、沈黙が破られる。
「君達には・・・プロパガンダを阻止してもらいます。」
第五話につづく