第三話 レンジャー集結
「てめぇか。きたねぇ靴を俺さまの頭にぶつけやがったのは?」
雄三は渡り廊下の上方の屋上からひょっこりと顔を出した男に
静めきれない怒りを言葉に込めて投げつけた。
「あ。それ俺の靴だ。さんきゅ〜。探してたんだ。こっち投げてくれ。」
男は雄三の右手に握られている自分の靴を見ると
顔に爽やかな笑顔を浮かべぬけぬけとそう言った。
雄三の癇に障ったのは言うまでもない。
「てぇめぇ。上から人にモノ頼んでんじゃねぇよ。てか、まず謝れ。」
雄三はそう言うと乱暴に靴を足元に投げつけた。
「あ!てめぇ。俺の靴だぞ!」
男は身を乗り出して言った。こちらも怒りの色が見え始めた。
「ちょっと雄三。落ち着きなさいよぉ。」
雄三の隣に立っていた法子が雄三をなだめにはいろうとする。
「うるせぇ。ホウコは黙ってろ。」雄三はそんな法子を振り払った。
「おい。お前!この靴が返してほしかったら
自分でここまで取りに来い!そしたら返してやる!」
「なぁにをぉ。てめぇ!そこでまってろよぉ!」
男は顔を勢いよく引っ込めるとドタドタという足音とともに消えた。
「もう。・・・あんたってなんでそんなに短気なのよ!信じらんない。」
「うるせぇな、あいつの態度が気に入らねぇんだよ。」
間もなく、男が雄三たちのいる渡り廊下に現れた。
男が急いで駆けつけたのは、彼が肩で息をしていることから明確だった。
「だぁ、はぁ、ほら、きたぞ、はやく、その靴、返せ、はぁ。」
「そんな息切らすほど急がなくてよかったのに。」雄三は嘲笑しながら言った。
「はぁ、てめぇが、こいって、いったんだろ、が。」男はまだ息をきらせている。
「・・・まぁいいや。ほれ、謝れ。」雄三は足元に落ちている靴を拾い上げて言った。
「・・・ぐぅ。・・・まぁ頭に俺のくつが当たったのは事実だしな。・・・すまん。
・・・でも俺もわざとなわけじゃないんだ。いきなり大声が聞こえたもんだから。」
「い?」雄三はびくっとした。
「ん?今お前びくっとしなかった?」
「い、いや、なんでもねぇ。ほ、ほれ、靴な。ほれ。」
雄三は平静を保とうとしながら歩み寄って男に靴を手渡した。
「あ、お、おう。さんきゅ。」
「まったく。雄三、あんた自業自得だったんじゃない。」
「ホウコ!しっ。」雄三が慌てて言う。
「ん?自業自得?それって・・・」
ぴりりりりり。ぴりりりりり。
「あ、電話。桃田君からだ。」法子はポケットからケータイを取り出しながら言った。
ぴっ。
「はい、もしも〜し。
どうした桃田君。まさかレッド見つかったの?」
『ううん。まだぁ。法子ちゃんたちはどうかなって思って。どうかなぁ?』
「こっちもまだ。はぁあ・・・。
もう時間ないよぉ。どうしよう。」
「何か探しものでもしてるのか?」男が電話をする法子を見ながら雄三に尋ねた。
「ものじゃねぇ。人だ。」
「人?」男は怪訝な顔を雄三に向けた。
『今法子ちゃんたちどこにいるのぉ?
僕達、今さっき中庭あたりについて二人で歩いているんだけどぉ。』
「うそ。じゃぁわたし達のそばだよ。
えっと・・・・。あ!いた!桃田君たち見えたよ〜。ほらここ〜。」
法子は渡り廊下から身を乗り出して中庭を見下し桃田たちの姿を見つけると
おおきく手を振った。
しばらくしてあたりをきょろきょろ見回していた桃田たちも法子の姿を確認する。
「人ってなんで?」男は雄三になおも尋ねた。
「あ?エテコーに命令されたんだよ。俺らは今日中にそいつを探さなきゃやばいの。」
雄三は面倒くさそうに応えた。
「エテコー?・・・あぁ江口教授か。
なんで?ってか誰探してるわけ?」
「ったく・・・面倒くさい奴だな。
いいか。俺たちは名前の頭に『赤』がつく奴を探してるんだよ。
だからお前にこれ以上かまってる暇はないの。わかったか?」
「今から桃田君と由美ちゃんここにくるって。」法子がケータイをしまいながら雄三に言った。
「ん、おう。・・・やっぱあいつらも見つけられなかったのか。
・・・ったく。使えねぇな。」雄三は頭をかきむしった。
「わたし達も見つけてないんだから人のこと言えないでしょ。」法子がすかさず言う。
「赤・・・?」男は一人でそうつぶやいた。
「そう。あなた赤がつく人知りませんか?わたし達今ピンチなんです。」
「おぉ〜い。」
間延びした声を出し、両手をあげながら駆け寄ってくる桃田と、
その桃田になんとか置いてかれないようについてくる由美が渡り廊下に姿を見せた。
「お疲れ様。桃田君。由美ちゃん。」法子が駆け寄ってきた二人に労いの声をかける。
「お、お疲れ様ですぅ。」由美が少し息をきらせながら応えた。
「雄三君たちもまだ見つけてないんでしょぅ。どうするのぉ?」桃田が雄三に言う。
「しらねぇよ。もう無理だろ。あきらめようぜ。
だいたいめちゃくちゃなんだよ。
期末試験期間も終わってるから、そのレッドの野郎が学校来てるかもわかんねぇってのに。
名簿見せてもらうにも学校の職員たちももう休み入って大学にほとんどいないしよ。」
「学校には来てるよ。」
「は?」
「いや、だから、そいつ学校には来てるよ、って。」男は涼しい顔で言う。
「なんでお前がんなことわかんだよ。」雄三は言った。
「あなた知ってるのね!?その人に会わせてくれませんか?」
「え?別にいいけど・・・。」
「ほんとぉ、やったぁ!」桃田がガッツポーズをする。
「よかったぁ。」由美も胸をなでおろす。
「・・・マジなのか?なら早く連れてってくれよ。どこにいんだそいつは?」
雄三は疑りぶかそうにそう男に言う。
「いや。どこって・・・ここ、だけど。」
「は?」
「俺だよ。その赤がつく男。
俺の名前は赤川連子。以後よろしくぅ。」
第四話につづく




