第二話 靴が誘うファーストコンタクト
「何がレンジャー結成してもらいますだ。」
雄三は一週間前の回想を一通り頭の中で終えるとそう悪態をついた。
「たしかにね。
・・・でも、江口先生はレンジャー結成させて何をやらせたいんだろう・・・。」
法子も江口が言った不可解な言動を思い出し頭をひねる。
「きっとこの大学の平和は君達が守るんだ!
とか言い出す気だろ。あいつ危ない戦隊ものオタクだったりして。」
雄三が江口のサル顔を目に浮かべ「うん。ぽいな。」とつぶやいた。
「もしそんなことで私達の単位を賭けて遊んでるなら許せないわね。」
法子は雄三の冗談に便乗しながらも、
もし本当にそうなら笑えないな、と思った。
「しかも俺達を選んだ理由のひとつが苗字って・・・。なんだよそれ。」
「『青』山雄三。『緑』川法子。『桃』田順平。『黒』崎由美。
・・・この苗字に生まれたのをこんなに呪った日はないわ。」
そう言って法子は大げさなため息をついた。
やっぱり教授遊んでるだけだったりして・・・。
不安になってくる。
「しかも何だ。赤は私の授業名簿にはいなかったから大学中から君達で探しなさい。
名簿を調べたところ、この大学には一人だけ赤の資格をもつ者がいる・・・って。
ただ、赤が苗字に付くやつが一人しかいないってだけなんだろ。」
雄三は渡り廊下で先ほどまで背をつけていた壁を思いっきり蹴った。
「あぁ〜めんどくせぇ。名簿で調べ付いてるなら自分で呼び出せよな。」
「たしかに。私達のことは呼び出しておいてそれはないわ。」
二人はだんだん腹がたってきた。
「もうやめないか?俺もうなんかバカらしくなってきたわ。」
雄三が法子に言う。
「私もこんなこともうやめたいわよ。
でも教授は一週間後、つまり今日までにその人を見つけなければ
その時点で任務は果たせなかったとみなして単位を剥奪するって・・・。
あの単位だけは絶対必要でしょ・・・。やるしかないよ・・・。」
「だぁ〜!!やりかたがきたねぇぞエテコー!!」
雄三が渡り廊下から大声で叫んだ。
その下の中庭にいた人たちが数人、何事かと雄三たちの方を振り向いた。
そしてその大声は雄三の頭めがけて靴を降らせることになる。
「今なんか雄三君の声しなかったぁ?」
桃田は斜め後ろを小さな歩幅でついてくる由美を振り返りながら言った。
例のごとくいきなりの自分への質問に少し驚きながらも由美は応える。
「え?・・・えっと・・・そ・・・かなぁ。
ごめん。わたしぼぉっとしてたからわかんないや。」
陽だまりのような笑顔をうかべながらそう恥ずかしそうに言った由美に
桃田は笑って応える。
「そうかぁ。僕もぼぉっとして歩いてたから聴き間違えたのかもぉ。
てか、もう約束の時間まであとちょっとだよねぇ。
雄三君と法子ちゃんたちレッドみつけたかなぁ?」
「う〜ん。そうだね。電話して聞いてみようか。
あの二人ってすごくしっかりしてそうだからもう見つけちゃってるかも。」
「おっけ〜。」
桃田はポケットから自分のピンク色のケータイを取り出すと
この前江口に呼び出されたとき教わった、法子のケータイのダイアルを押した。
「・・・・・・・・たがきたねぇぞエテコー!!」
「ぬわぁあ!!!」
屋上で昼寝をしていたその男は中庭中に響いた馬鹿でかい大声で目を覚ました。
大勢のバニーガールと浜辺のビーチで追いかけっこしている
それこそ夢のような夢の世界から、一気に現実世界に引っ張り戻された。
「だぁ〜ちっくしょ〜。いいとこだったのにぃ!!」
男は未だにまぶたの裏に浮かぶバニーガールたちを思い浮かべた。
が、それは男の意識が回復していくのに伴って、向こうの世界に面影すら消えていった。
「なろぉ・・・。だれだ?この俺の安眠を妨げるバカやろうはぁ。」
男は身を起こしながら見えない大声の主に悪態をついた。
そして自分の足に片方靴を履いてないのに気がつく。
「あれ?なんで?」
もう片方の足にはかかとを踏み潰した汚れの目立つスニーカーがつま先に引っかかっていた。
男は、おそらく大声に驚いて飛び起きたときに片方の靴は脱げたのだな、と推測した。
「あぁあ。下に落ちちゃったんじゃねぇかぁ。
踏んだり蹴ったりだなぁこりゃ。」
そう愚痴りながら恐る恐る足を向けた先の屋上の端から
靴を探して校舎下に広がる中庭を覗き込んだ。
「よっこらせ。」
その時。
真下の渡り廊下から、頭をさすりながら、するどい目つきでこちらを睨む男と目が合った。
第三話につづく