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第十六話 奥の手

ざわ・・・ざわ・・・ざわ・・・


会場のざわめきは更にいっそうの盛り上がりを見せ、収拾の兆しもなかった。

席を立ってその場を去ろうとする者までもいる。


(うぐ・・・なぜだ・・・黒崎由美・・・まさか・・・そんなわけは・・・)


関口はこのとき雄三の思惑通りに混乱の中にいた。


(!?・・・くっそ・・・そういうことか・・・。青山雄三と緑川法子は最初からフェイク!!・・・僕がまんまと騙されたってわけか。・・・しかし・・・もしそうなら、あの僕に宣戦布告しに来たときに、なんで2組の関連性がバレバレのタイミングで僕を訪れたんだ?あのタイミングじゃ間違いなく疑われるだろう?・・・僕は青山雄三ならそんなバレバレなことはするわけないと思って、その疑いは薄いという考えに到ったが・・・まさかその裏をかかれたのか?・・・それとも・・・青山雄三のことを僕が買いかぶりすぎていた・・・のか?)



ざわ・・・ざわ・・・ざわ・・・ざわ・・・。





このざわめきはもう僕にはどうすることもできないかもしれない・・・。


というよりも今僕がいくら何かを訴えたとしても逆効果にしかならないだろう・・・。


きっとどれも言い訳くさく聞こえてしまう・・・みんなの疑心感をさらに煽る結果になる・・・。


ただでさえマイクの声もあまり聞こえないくらいのざわめきだ・・・。


声を揚げて話す姿には何の説得力がない・・・。



しかたない・・・。



奥の手を使うしかない。



















「由美はよくやってくれた。」


青山雄三は周りで戸惑いの声をあげている会場の人びとに囲まれながら、隣で同じように笑みを浮かべている緑川法子に話しかけた。


「えぇ・・・。あの質問、たしか私がギリギリで暗記ノートに付け加えたものだったわ。危なかった・・・。まさかあんな角度から質問をしてくるなんて・・・。」


法子は安堵のため息をつきながら言う。


「でも応えられた。これはでかいぜ。・・・しっかしお前は最後まで粘ってたもんな。食事も忘れてアホみたいに文献にかぶりついて。努力家だねぇ。」


雄三が冗談で法子を小ばかにしたように言う。


「・・・天才のあんたにはわかんないわよ。・・・私には努力するしか・・・それしかできないから・・・。」


しかし法子は神妙にそう言うと、どこか悲しげな表情でうつむいた。


「・・・・・」


けんか腰で言い返してくると思っていた雄三は、法子の予想外の態度に拍子抜けをしてしまった。


その時、会場で関口がなにやら動きをみせた。


「!?おい、ホウコ!関口の奴動いたぜ。」


「あ・・・ホントだ。」


舞台の脇に逃げるように駆け足で退散する関口。


「ここまでは作戦通りにいってるわね。あとは・・・」


「アイツだな」























「こうなったら奥の手・・・お前らに見せてやるよ。俺には『国』というバックがついてるんだってことをな。」


舞台の袖口に引っ込んだ関口は携帯電話を取り出しダイヤルを押した。


青山雄三と緑川法子の対策として、一応事前に電話をいれて、もしもの時はと頼んでおいていてよかった。でも、まさかこの奥の手まで使うことになるとは・・・。


5度目のコールで目的の相手が電話先に出る。


『はい。』


環境省の環境副大臣である杉原幸三すぎはらこうぞうだ。

この発表会にも来賓席に招き、出席してもらっている。


「すいません。やられました。このまえ申しました手はずどおり、どうかよろしくおねがいします。」


『・・・この騒動ではラチがあかんな・・・。たっく、あんなガキどもにまんまとやられおって・・・・。私の出番はもしもの時だと言っておったのに・・・まさか出る羽目になるとはな。』


騒々しい会場をバックに杉原の嫌味が関口の受話器からこぼれる。


「すいません・・・。しかしこうなってしまっては・・・どうかお力をお貸しください。よろしくおねがいします!!」


電話ごしなのに深々と頭を下げながら関口が言う。


こうなってはプライドもくそもない。


負けるくらいなら・・・なんでもやってやる!


『わかった・・・まぁお前には国もちょくちょくお世話にならせてもらってるしな。・・・今から舞台袖まで行く。』


「ありがとうございます!お待ちしております!!」


やった!これで形勢はまた俺に傾くぞ!


くっくっく・・・環境省の環境副大臣の言葉だぞ?その言葉を誰が信じないっていうんだ!


彼からのお墨付きだと言えば・・・僕の研究内容の全ての疑いは晴れる!


一般人なんてそんなものだ。


青山、緑川・・・お前らがどんだけ策を練ったって、この人の一言で無残にも散っていくのだ!


ふふふ・・・やはり勝つのは・・・この僕だ!



























15分ほどの退席の後、関口が杉原と共に舞台上に戻ってきた。


杉原の姿に気づき、会場はさらなるどよめきをあげた。


テレビなどのメディアでも露出の多い杉原、その登場に会場は沸いたのだ。


席を立って帰ろうとしていた者たちも立ち止まり舞台に視線をやる。


(さぁ、見ろ!環境省環境副大臣だぞ!)


関口は得意の微笑みを浮かべ舞台の中心に立った。


マイクを掴む。


「皆さんお待たせいたしました。ご静粛にお願いします。

ではご紹介いたしましょう。環境省環境副大臣の杉原幸三さんです。」



ざわ・・・ざわ・・・ざわ・・・。



(ふふふ。そう沸き立つな。そうだ、杉原さんだ。これからありがたいお言葉を授かろうぞ。だからちょっとは静かにしたらどうだ。)



「では、お言葉をもらいましょう。」



ざわ・・・ざわ・・・ざわ・・・。



「・・・すいません。少しご静粛に・・・。」



ざわ・・・ざわ・・・ざわ・・・。



(な、なんだこのざわめきは・・・なんかおかしいぞ・・・)



マイクを使ってもう一度会場を静めようとしたその時、関口は気がつく。




「!?」



マイクが・・・つながっていない!!


声が・・・マイクの音声がスピーカーから出ていないぞ!!




ざわ・・・ざわ・・・ざわ・・・。




慌てたようすでマイクをいじる関口。

しかし、どうやっても音が出ない。



「ったくなんだよ〜まだ待たせる気かよ!」


「もぉ帰りましょう。」


「このウソつきが!」


次々に会場から野次が飛びだした。


先ほどの関口の長い退席、そしてやっと帰ってきたと思っても一向に再開しないそのぐだぐだな会の展開に、会場の人びとはついに痺れを切らしたのか、続々と席を立ち、会場の出口へと向っていく。


「待て!・・・待ってくれ!!くそっ・・・なぜ、なぜマイクが入らない!!」


慌てて、代わりのマイクを使って声を出そうとするが、どれも繋がらない。



「ち、ちくしょう!なぜだ!!」



「おい君!何をやってるんだ!みんなが帰ってしまうぞ!」


杉原も次々に出口から出て行く会場の人の波を見て、慌てた声で関口を叱咤する。



「わかっています!わかっているんですけども・・・」



(ちくしょう・・・何が・・・何が起こってるんだ・・・こ、これもあいつらのせいなのか・・・?くそ、くそ!!!)







この原因を作った男のことをもちろん関口は知る由もなかった。


水面下での行動を強いられ、任務を成功させたその男は人知れずガッツポーズをしていた。


「よっしゃ!どうやらうまくいったみたいだな!」



話はおよそ30分ほど前にもどることになる。

第十七話につづく

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