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第十五話 黒崎由美

関口教授の研究発表会の1週間ほど前。



由美は自宅の自室でいっこうに来ない江口からの指令を待っていた。



ぴろりろり〜ん♪ぴろりろり〜ん♪



「あ、メールだ。あれ?・・・青山くんからだ。・・・なんだろぅ。」



由美はケータイを開く。



『黒崎。さっそくだが、お前の特出した能力を教えてくれ。

エテコーいわく、俺たちは何らかの能力を買われレンジャーの一員とされた。気にくわねぇが、俺らはこれから協力して奴の指令にしたがわなきゃなんねー。だから今後、いろんな作戦を立てていく上でもお互いの能力を知っておいたほうがいい。たぶんエテコーが第一の指令までにこんなに時間を空けているのも、そのお互いの能力の確認とコミュニケーションの為の準備期間として使えってことだろう。この内容のメールはメンバー全員(ホウコのことはもうしってるから送ってないが)に送ってる。おそらく俺は今後、任務の作戦参謀になることを期待してメンバーに入れられた(気にくわねぇが)。だからみんなの能力を知っておきたい。教えてくれ!  青山雄三 』



エテコー・・・ってのは、たぶん江口教授のこと・・・だよね。


「わたしの・・・能力・・・」


由美は少し考えたあとで、雄三にメールを返した。



『ごめんなさいっ(><;)

考えてみたけど・・・わたし、そんな能力ないと思ぅ。。

何をさせても人並み以下で・・・だから多分青山くんの力になれないと思います(x_x;)』



わたしにそんな何か人より優れた能力があったら・・・。


もっと誰かから必要とされる人間になれるんだろうなぁ。


由美はそう思い、沈んだ気持ちになってくる。


わたしはすごく地味で・・・いっつも誰からも相手にされなかった。


だから・・・大学でもあんまり友達ができない・・・。


自分から話しかければいいかもしれないけど・・・恥ずかしいし・・・。


たまに男の人からはなぜか遊びに誘われたりするけど・・・

男の人となんて二人で何を話せばいいかわからないもん・・・。


それに・・・わたしに寄って来てくれる人たちに・・・わたしに何もないってわかって、去っていかれるのが・・・怖い・・・。


・・・だから・・・そんなわたしに特出した能力なんて・・・。





ぴろりろり〜ん♪ぴろりろり〜ん♪



「あ・・・青山くんから返信・・・。」



『そんなはずない!!何かしらの特技、または特殊能力があるはずだ!

も一回考えてくれ!どんな些細なことでもいいから!!』



「そんなこと言われても・・・」


由美はもう一度頭をひねる。


わたしの・・・特技・・・能力・・・?


能力・・・特殊能力・・・・・・・・・・・・!!



あ。



由美はあることを思い出す。


まさか・・・あれのことかな・・・。


でも・・・このことは・・・あまり・・・言いたくないなぁ。


だってそうしたら・・・また・・・。



・・・でも・・・うん。



由美は決心してケータイを手に取るとメールを打った。



『もしかしたらだけど・・・

ていぅか、たぶん青山くんの言ぅわたしの能力と違ぅと思うけど(^▽^;)

わたし・・・一度見たものをすぐ記憶できる特技があるんです(*・・*)

でも、でも・・・やっぱそれじゃなぃですよね(_ _。)』



「でも・・・たぶんこれじゃないんだろうなぁ。

・・・う〜ん・・・他にわたしに・・・何かあったかなぁ。」


由美はまた考え込む。



ぴろりろり〜ん♪ぴろりろり〜ん♪



『それだよ!!あほ!!そんなすげぇ能力あるじゃねぇか!!

自覚を持て!それは超人的すげぇことなんだよ(`Д´)

今思えば、エテコーは授業中に、俺たち生徒の能力を試すようなことをさせてたんだ。その中にお前の持つその瞬間記憶能力の結果をしるすテスト結果がきっとあったんだ。そして、江口はそのことに気がついた。だから、エテコーはお前をメンバーに選んだ!その能力が使える時があると見込まれたからだ!』



「す、すごいこと・・・?」


すぐにメールを打ち返す由美。



『だってだってぇ(>O<;)

青山くんはIQ200っていぅので選ばれたんだし。。

それと比べられる能力なんてわたしにないよ(x_x;)』



ぴろりろり〜ん♪ぴろりろり〜ん♪


『あほ!まだ言いやがるか(`Д´)

俺なんかのより充分すげぇっての!!

まぁいいや・・・黒崎の能力はわかった。サンキュー!

じゃ、また指令があったときな〜』


う〜ん。


由美はケータイを自分の机の上に置くと、ベッドに倒れこんだ。


すごい・・・こと・・・わたしの?


由美はまだぴんと来なかった。




小学生の頃、由美はその能力を友達の前で見せたことがあった。


自分から見せたのではなく、ある授業でたまたまその機会があったのだ。


そのときの友達の反応を今も由美は忘れられていなかった。



『うわぁ〜黒崎って超能力者だぁ〜化けもんだぁ〜』


『きゃ〜こわ〜い!きもちわるい〜』


『変だ変だ〜もうあいつには近寄らないどこ〜ぜ〜』



ぐすん。



由美は当時、まだ小さかった自分の気持ちを思い出し、泣きそうになった。


それ以来、由美はこの自分の変な能力を誰にも言ってこなかった。


また、気持ち悪がられたくなんてなかった。


だから由美はその能力を暗記もののテストなどでしか、極力使用しないようにまでしていた。


江口教授は知ってたんだ・・・。


青山くんにも・・・教えちゃった・・・。


嫌われ・・・ちゃった・・・かな。






















関口教授の研究発表会の3日前、図書館。



「・・・とまぁ俺の立てた『作戦』はこんな感じだ。関口に宣戦布告した以上、あとはやるしかねぇ!『作戦』を成功させるカギは・・・黒崎。お前だ。俺の『作戦』は関口を困惑させ、慌てさせ、あれこれと余計なことを考えさせることで成功の確率がグンとあがるからな。俺とホウコをオトリにして、お前が関口を刺す。そのことで奴に困惑を与える!そして、その困惑を使って奴に俺の『作戦』の真意に最後まで気づかせない。そうすればこの『作戦』は8割方成功する。・・・黒崎・・・どうだ?いけそうか?」



由美は雄三から作戦を聞いて驚いた。


自分に与えられた役割が想像以上に大きかったからだ。


青山くんや法子さんをオトリに使う・・・そしてわたしが関口先生と・・・。


(わたし・・・自信ないよぉ・・・だって・・・)



とんとん。



肩をつつかれて由美は振り向いた。


桃田の笑顔がそこにあった。


「ねぇねぇ由美ちゃん、その特技やって見せてくんない?」


「え?・・・でも・・・」


「ねぇお願い〜!!」満面の笑みで由美にせがむ桃田。



(だって・・・そんなことしたらみんなにまた・・・)



そう思った由美だったが、結局は桃田を断りきれずにうなずいてしまった。


他のみんなも好奇の目を向けて頼んできたのだ。



「じゃ、僕がこれを1分間見せるから覚えてね!」



桃田はそこにあった本を1冊手にとると、由美に言った。


「せぇ〜の・・・はい始め!」


桃田は適当にページを開くと、そう言いながら由美の前に本を掲げた。


由美はさっと目を通す。


その本は数学の本だった。


見たことのないような難しい公式がずらずらと並んでいる。


「・・・・はいおしまい!」桃田はそう言うと、本を由美の前から取り上げる。


「じゃ、問題だすね!う〜んと・・・じゃあフーリエ級数係数を求める式を書いて〜」


フーリエ・・・級数・・・あ、あった。


由美は先ほどの目の前に広げられたページを頭に思い浮かべ、その中から桃田の言う項目を見つけ出した。


そして、目の前の紙にそのまま書いていく。


「うぉ・・・」連子が驚きの声をあげる。


「・・・すっご〜い」法子も同様に唸る。


「・・・桃田・・・どうだ?」雄三が桃田に尋ねる。


「すごいよぉ!記号や、数字はもちろんのこと、改行の位置まで全く一緒だよ!」桃田が応える。


あぁ・・・やっちゃった・・・また・・・みんなに・・・。


由美は後悔をしていた。


また、みんなに怖がられる・・・嫌われちゃう・・・。


由美は顔を伏せてしまった。


その時。




「すっごいね!由美ちゃん!」




「え?」由美は桃田の明るい声に顔をあげた。


「うん!すごいよ由美さん!これは絶対作戦成功できますよ!!」連子も言う。


「由美ちゃんがこんなすごい能力を持ってたなんて〜!!仲間でよかったわ〜!」

法子も興奮気味に目を輝かせている。


みんな・・・喜んでる・・・?


気持ちわるく・・・ないの・・・?


「黒崎。その記憶力、限界の量とか覚えられる期間ってあるのか?」雄三が尋ねる。


「量は・・・やろうと思えばいくらでも大丈夫だと思う。

・・・でも、い、一度は絶対目を通さなきゃだけど・・・。

期間も・・・今から本番までくらいだったらきっと大丈夫っ。」


由美は遠慮がちに応えた。



「よし。いける!あとはホウコと俺らで資料をあさってできるだけ早く記憶用のノートを作る。だから黒崎はそれを本番までに全部覚えてくれ!俺の考えでは関口は、俺とホウコがフェイクだと気がつくと、お前に応用問題を出して揺さぶりをかけてあしらおうとしてくる。宣戦布告の時があからさますぎたから、もしかしたらお前の存在を疑っているかもしれないが、おそらくデータから、俺やホウコよりは警戒されないだろうからな。簡単に言えば甘く見られてるってことだ。そこで、奴の揺さぶりにずばっと応える!そうすれば奴を動揺させられる!」


雄三が由美に説明をする。


「ちょっとまって。なんで覚えさせる意味があるの?そのノート見て答えりゃいいんじゃないの?」連子が頭をひねって雄三に言った。


「それじゃダメなんだよ。さっきもいったが今回の黒崎のこの役目は『関口を動揺させること』だ。ノートを見ながら応えるより、何も見ずに応えたほうが何倍も動揺が煽れる。それに時間も問題だ。どんな質問が来るかわからない今の状況では、考え付くあらゆる質問に応じた答え方を記したノートを作る必要がある。だから、そのノートは莫大な量になるんだ。本番の限られた質問コーナー内で、それをいちいち調べるのには時間が足りないだろう。俺の考えでは、関口は俺に挑発を受けた手前、黒崎たちよりも俺とホウコを先に指名するはずだ。だから黒崎に残された時間はきっと少ない。」



「なるほどね。」法子が納得する。


「すごいなそりゃ・・・でも、由美さんならきっとできる!」連子が興奮して言う。



本当に・・・わたしに・・・できるかな・・・。



皆、わたしを気持ち悪がるどころかすごいって言ってくれてる・・・。


それどころか・・・皆、わたしを信頼してくれてる。


わたしに期待してくれてる・・・。


その期待に応えたい・・・。



でも・・・。



やっぱり自信がない・・・。





「由美ちゃん。」



桃田の声に由美は彼の方を向いた。



「僕が本番そばにいるから。応援するから。がんばろ。ね?」



桃田はそう言うと、いつものように笑った。


桃田君・・・彼の笑顔を見てるとなんだか元気がでるなぁ。


由美はいつのまにか自分も笑顔になってることに気がつく。



「桃田君・・・。うん。わたし、やりますっ。一生懸命、やってみますっ。」



一斉に沸き立つほかのメンバー。


桃田君・・・みんな・・・ありがとう。


わたしなんかを信頼してくれて・・・。


わたしは・・・誰の役にも立てないって思ってた。


誰にも必要とされないって思ってた・・・。



でも、わたしはこの皆の力になら・・・・なれるかもしれない。



いや・・・なりたい。



由美はそう心に決めると、さっそく関口に対抗すべき証拠やデータを集めようと、気合を入れて莫大な書籍や論文と向かい合う他の4人たちを見つめた。


「よぉし。」


由美はそう小さく呟き、自分も本を手に取ると、仲間の輪の中に意気揚々と加わりにいった。

第十六話につづく

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