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第十四話 虚

「えっとぉ、関口教授って今度僕たちの大学の学長選挙に出馬するんですよね?」


桃田はマイクを握ると、満面の笑みを浮かべて関口に質問をした。


どっと会場が沸く。


「はは、桃田君。質問っていっても今は僕の発表についての質問を行って欲しかったのですが。・・・ふふ、でも、まぁいいでしょう他にもう質問者もいらっしゃらないようですしね。はい。たしかに僕も出馬します。僕のようなまだまだ未熟者が出馬するなんて、なんともおこがましい行動だと我ながら思いますが、僕がこの大学をよくしようという志は他の出馬者に負けていない自信があります。もし、今日のこの発表会で僕に少しばかりでも好感を抱いていただいた方がいらっしゃったら、どうか、応援をよろしくお願いいたします。」



ぱちぱちぱちぱち。



誰からともなく拍手と歓声が会場に沸く。



(ははは。確実に今日の参加者の心を掴んでいる。これで今日来た数百にも及ぶ人びとの票を僕は欲しいままにしたのだ!予想以上の働きだよ桃田君。あとで何かしらの褒美を与えてもいいくらいだ!)



「あ・・・あのぉ・・・」



そこで、かすれんばかりの微かな声が会場のスピーカーから漏れた。


会場ではその声に徐々に気がつき拍手が鳴り止んでいき、その視線は会場前方部に立つ、緊張した面持ちでマイクを握り締めるひとりの少女に向けられる。


「あぁ、まだ質問の途中でしたね。すいません。

黒崎さん、あなたの質問をどうぞ。」


関口は得意の笑顔をうっすらと嫌味がない程度に顔に浮かべ、黒崎由美に質問を優しく促す。



(もう君たちの役目はすんだ。あとは社交辞令的にことを進めるのだ。)



「えっとぉ・・・最後に、先ほど関口教授が言ったIPCCについて質問なんですけど・・・」



「はい。なんでしょう?」


(残り時間もあと5分ちょい・・・このコーナーが終われば発表会も終了・・・あとは・・・)





「先ほど言ったIPCC発表の海面上昇の論文、教授はその内容を偽装して引用してるんですけど、ど、どうしてですか?」




(!?)



ざわざわざわ・・・。



再び騒然とする場内。



「ど、どういうことですか?僕は間違ってなど・・・」


(な、なんだ?いきなり何を言い出すんだ?)



「さ、先ほどの質問の時に、きょ、教授がちょうどスクリーンに表示したところです。

ほら、そこには海水面上昇という部分が、あ、ありますっ。」


由美は小刻みに震えながらスクリーンを指を差す。


「え、えぇ。確かにあります。先ほどの青山君の質問の説明の為にスクリーンに映したところですね?」



「そ、そうです。」



(なんなんだこの娘は。おろおろしているわりに・・・)



「そ、その部分のあとに続くところに、い、意図的といわざるを得ない悪質な偽造が、あ、ありますっ。」



(まるで台本をただ読む三流役者のように棒読みの台詞が次々と・・・)



「ど、どういうことですかぁ?」



(・・・まさか・・・)



























−四日前−


「桃田順平・・・と・・・黒崎由美か・・・」


桃田たちのいきなりの訪問のあと、関口はソファに腰を下ろしながら呟いた。


「はは。これはまた都合のいいように僕の賛同者が訪れたものだな・・・」





・・・いや。いささか都合が良すぎやしないか?



!?


まさか・・・青山雄三らとグルなのか!




関口は立ち上がると、自分のデスクの引き出しから、大学内の教授たち全員に配られている生徒名簿を取り出す。



(疑うに越したことはない・・・)




桃田順平。



黒崎由美。






(ふむ。それといって変わったことはないようだな。桃田順平に関していえばスポーツ推薦で入学してきた、まぁ所謂あまり学業が芳しくない学生・・・というくらいか。まぁこのスポーツの全国大会での記録にはすごいの一言だが。・・・黒崎由美に関しては・・・ホントに特に何もないな。真面目ではあるみたいだ。どの成績も人並みをキープしている。特に文型の教科が得意なようだな。まぁこれも真面目だけがとりえの生徒にありがちなことだが。優等生とまではいかないが、まぁ教鞭を振るう身として言えばなんとも好感がもてる生徒だな。)



関口は名簿は閉じる。



(まぁどちらも恐れるにたらんな。もし、彼らが青山雄三、緑川法子と内通しているとしても・・・恐怖となるはその二人。そのほかはなんとでもその場で応用が利く。・・・まぁ彼らが二人と繋がっている可能性もそもそも低いがな。)


関口はそう思い直し、青山雄三、緑川法子への対策に頭をシフトする。




































(まさか本当に繋がっていたとはな。)


関口は舌打ちをしたくなる衝動を抑える。


油断させておいて打つ。・・・ふ、青山雄三の考えそうなことだ。


動揺してしまったのは認めよう。


しかし、それだけじゃダメだろう?


せめて君がこの役をやるべきであったんじゃないのかい?


せっかくの虚をついた攻撃でも、切り札がこの真面目だけがとりえの、今にも泣き出しそうななんとも頼りないこの少女じゃ、勝負にならんだろう?


どうせ、言うべき質問内容をただ叩き込んだだけなんだろ?



それじゃ応用に弱いだろうが。



口頭でいじめてやればすぐ黙りこむ。






「・・・確かにIPCCは海水面の上昇を、で、データから認めています。

で、でもそれは陸地の膨張率より海の膨張率のほうが大きいからで、その差分だけ海水面は上がってはいますけど、ほんの少しで、人間が気が付かない程度・・・だと続くはずです。しかし、教授はそこの部分を隠蔽し、つ、都合のいいように、その事実を地球温暖化に結び付けていますっ。こ、これはどういうことなんですか?」


黒崎由美はおろおろしながらも「質問」名義の攻撃を続けている。


(これはもう確定だな。こいつらは青山雄三らと繋がっていて、僕に故意に攻撃をしかけてきている。)


関口は確信し、


(・・・やるか・・・)


行動に移す。




「はは。なんだか僕が意図的に皆さんにウソの情報を流しているみたいな言い方をされるんですね、黒崎さん。」


関口の少しトゲのある発言に由美はびくりと身体を動かす。


(やはり、応用的場面まで対応できないようだ。軽くひねってやる。)



「でもそんなことは決してないんですよ。確かにIPCCの論文にそのように続くのは知っています。しかし、別にそれを僕の都合にあわせて削ったのではありません。僕は発表の中で、そのような事実もあるけど、それ以上に、今、世界中を騒がしている『北極、南極の氷が溶けて、そのせいで海水面が上昇してしまっている問題』に論議をシフトしただけです。・・・そのような事実はあなたもご存知でしょう?それともご存知ない?僕はこの手の研究についてはプロです。ちょっとやそっとのつけ刃的な知識で、どうこう仰って欲しくはありませんね。さぁ、時間ならあげますよ。どうぞ、反論はありますか?」



(この展開は予想できまい。そのような質問を選んだんだんからな。・・・これで終わりだ。・・・正直、先ほどの質問で会場の人びとの心象が多少落ちてしまったことは認めざるを得ない。・・・が、このやり取りでさっきの僕の情報工作の印象も限りなく薄くなる。・・・ぬるいんだよ黒崎由美。君じゃ僕の脅威にはなれやしない。)




黙り込む由美。



ざわついていた場内も、関口の落ち着いた態度に徐々に落ち着きを見せ始める。



(やはりな、所詮はただの学生に過ぎん。・・・勝った!)



関口が心の中で、果たして何度目だろうか、勝利のくす球を割ろうかと手を伸ばしかけた



その時。




「そ・・・」


(!?)


「そ、それは一般にはそうと信じられていますが、お、大きな間違いです。北極の氷は海に浮いています。アルキメデスの原理、浮力の原理から考察すると、それでは絶対に水位は変わるはずがないのですっ。」



(な、なに!?)


ざわざわざわ。



「そ、それに、南極の氷は物理学的には気温が上昇すると増えるはずです。そもそも南極大陸にはもともと氷はありませんでした。氷とよく勘違いされるあの物体は『雪』の集まりです。雪は南極大陸の周りの海から蒸発した海水、そこから生まれます。それなら気温が上がり、たくさんの水分が蒸発したほうが雪が増え、つまりは氷は増え、結果的に水が蒸発した海水面は下がることになるのです。」



ざわざわざわ。




(な・・・・)




ざわざわざわ。




(そんなばかな・・・こいつはこんなことをスラスラ言えるほどの頭脳を持っているわけがない!もしただ質問内容を覚えただけだとしても、こんな風に応用的な問いに即興で答えられるほど覚えられるわけがない!・・・な、何者なんだ・・・こ、こいつは・・・。)



ざわざわざわ。




場内は本日一番のどよめきをあげる。

第十五話につづく

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