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第十二話 勝負開始

関口は鏡の前でネクタイをもう一度確認すると、控え室からホールの舞台へと続く廊下に出る扉をくぐった。


あと5分で彼の発表会が始まる。



今日が自分にとってどれだけ意味を持つ日になるか、彼は重々承知していた。


しかし、足どりは軽やかである。なぜなら自信に満ちているからだ。



今日を抜かりなくこなす。


そうすれば次は学長選挙だ。


今日の出来次第では、充分に勝機はある。


いや、僕が他の候補者の中から抜きん出ることも、かなりの確率で可能ではないか。


関口は考える。


表向き用の研究もしっかりやりとげた。


データも整え、これに非を投げかけることなど出来はしない。


完璧だ。




・・・完璧・・・?




関口は先日の青山雄三と緑川法子の顔を思い出す。


そして、雄三の言葉を。



『証拠?あるよ。』



ふん。ばかばかしい。


いかに彼が天才と言えど、国家のトップの頭脳をバックに備えている僕に勝てるはずがない。


それに・・・万が一のための手も、すでに用意した。


完璧だ。


関口はまた考え直し、そう結論を出す。


僕を邪魔することなど、誰も出来やしない。



『絶対逃げたり汚い手はつかったりすんなよ。』



また雄三の言葉が蘇る。



「フッ。」


関口は小さく笑い声をもらすと、自信に満ちた足取りで舞台へ続く廊下を進んだ。































発表会は関口の考えたとおり、滞りなく進んだ。


彼の発表内容に非の打ち所はない。


・・・ように誰が見たって見える。


当然だ。


データは全て国の環境省名義。誰も疑うことすらしないのだから。



発表会の3分の2である1時間半が終了した。



あとは・・・。



関口はちらりと壁に張られた発表会の進行表に目をやる。



出席者質問のコーナー。



(さて、どうくる?)



関口は質問コーナーの開始をマイクで高らかに宣言をしながら心の中でつぶやいた。



「質問のあるものは挙手をどうぞ。」関口はにこやかにマイクで言う。


思ったとおり挙って手を挙げるような事態にはならない。


発表会なんてそんなものである。


特に、今回の発表会で関口は発表内容を説明する際に、後々質問ができるだけでないように詳しく、わかりやすく説明することに務めていた。


その甲斐あってか、彼の思惑通り手は挙がらなかった。


ただ・・・。




「はい!」




(まぁ、そうだろうな。)


大きな声と共に手を挙げる青山雄三と緑川法子の姿が見えた。


彼らはホール席のほぼ中心に座っていた。そこはどの席からも見えやすい、このコーナーの主役を買うにはうってつけの席に思えた。


やはり、そこまで考えて仕掛けてきている。関口は顔をゆがめ、あきらさまに嫌な顔を向けたくなる気持ちを水面下で抑えた。



質問コーナーで設けた時間は30分。


質問者がいる場合は最低でもそれだけの時間をこのコーナーにあてないわけにはいかない。


つまりは、このままでは青山雄三、緑川法子にコーナーに設けた時間のまるごと30分間の時間を、僕を非難し、陥れるための対抗時間を、やすやすと与えてしまうことになる。


30分・・・。


何かを起こそうと思えば、それを実行するのに充分な時間に思えた。


彼らが言わんとする内容はどうであるにしろ、避けられるなら避けたい障害だった。





その時。






「は〜い!!」




もうひとつの声があがった。







「フッ。」


関口は小さくニヤリと笑みを浮かべた。


ゆっくりとマイクを握りなおす。


そして、彼は笑顔をつくり会場全体を見回すように顔を左右に動かすと、


何食わぬ顔で最初の質問者を指名する。

第十三話につづく

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