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何も変わんないから

作者: 紅花椛

「今日でこのクラスもおしまいか~」


「なーんか、実感わかないね」


今日は修了式の日。

大きな問題もなくて団結力の強かったうちのクラス。

今日で終わっちゃうと思うと、少し胸が苦しくなっちゃうな。


「んな、辛気臭い顔すんなよ。卒業ならわかるけど、たかがクラス替えだぜ? 来年も同じクラスなるかもじゃん」


突然現れたクラスメートの佐々木が、バカにしたように笑う。


「いいよね、佐々木はお気楽で。私はそんなかんたんに割り切れないの!」


「おまえ何でもかんでも思いつめすぎだっつーの」


「これが私なんですーっ」


佐々木の言う通り、確かに私は考えすぎたり思いつめすぎたりする癖がある。

でも、なんでそれを佐々木こいつに言われなきゃなんないのよ。



「みんな一年間でよく成長しました。入学したての頃はおどおどしていて危なっかしいところもあったけど、今では頼もしいです。このクラスは先生の誇りです!」


終礼前、先生からの言葉を聞いて少し潤っときちゃった。


「この後校庭で写真を撮ります。遅れないでね。これが最後のあいさつです。さようなら」


「「さようなら」」


最後の日もそろわないあいさつ。

この終わり方はうちのクラスらしいっちゃらしいな。


河野かわの? 校庭行かねえのか?」


「佐々木……。ちょっと名残惜しっくってね」


「後ろ向きなやつだなぁ」


「悪かったわね」


一発背中に平手打ちをお見舞いしてやった。

とはいえ、私の非力じゃかゆいぐらいにしかならないんだろうけどね。


「まだ、思い出にしたくないな~」


「なにそれ」


佐々木はそう言って笑った。

そんなに変なこと言ったつもりはないんだけど……。


「思い出にしたら忘れちゃうじゃん。思い出っていつまでも残んない」


私が言うと、佐々木の目が急に真剣になった。


「忘れんのか? 思い出にしたら、おまえは忘れんのか?」


「それは……」


私にかまわず、佐々木は話をつづける。


「そんぐらいのものじゃねえだろ? 俺は、思い出にしたって忘れねえ。忘れらんねえ。おまえだってそうだろ?」


佐々木の言葉が、一つ一つ心の奥に突き刺さっていく。


「ありがと。……私間違ってた。忘れらんないよ、この一年。それに……、佐々木とのことも」


私が言い終えると、佐々木は照れた後ふきだして私を安心させるように言った。


「大丈夫。何も変わんないから」


「佐々木、春奈はるな。写真撮るから、校庭来て~」


クラスメートの一人が、私たちを呼びに来た。


「はーい」

「今行くー」


二人の声が重なった。

私と佐々木は顔を見合わせて笑いながら、教室を飛び出した。

佐々木の言葉で世界は変わって、思い出はキラキラして。

私、こんな幸せでいいのかな?


「も~。遅いよ春奈」


「ごめん、ごめん」


「二人きりで何してたんだよ」


「なんもしてねえよ(笑)」


「写真撮るよ~。3・2・1ハイ、チーズ」


写真の中の私は、君の隣で笑っている。

写真の中の君は、私の隣で笑っている。

君は、まだあの日のことを覚えてるかな?



『160324 校庭にて』


写真の裏に書かれた言葉。

4月からも、変わらないよね。

同じ学校の生徒だよね。

今日が終わって、明日が来ても、私と君は、何も変わんないよね。


『何も変わんないから』


君の言葉を信じて、新しい日々の幕を上げるんだ。


「行ってきます」


ふいに写真の上へ、桜の花びらが舞い降りてきた。

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― 新着の感想 ―
[一言]  はじめまして、葵枝燕と申します。  「何も変わんないから」、読ませていただきました。  修了式、懐かしい響きです。大学にはない言葉なので。  でも、たかがクラス替えなのに、寂しいというか名…
[一言] 作者さまが私と同い年? のよう? ですので、 思わず興味を惹かれて読んでみました。 私自身、修了式は淋しくなってしまう気持ちはわかりますので、 このきらきらした日々……そういうものを表した…
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