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桃色ノスタルジィ  作者: ぬー
第誤怪〜現実に救いはあるか〜
15/30

夢を見たら、たーくさん「幸せだなぁ」って言うんだ

知りたいことが沢山ある、知らないことが沢山ある、知ってしまったことがある、これから知りゆくことがある、今まで信じてきたものが瓦解して、新しい日々が始まる、古き日々は想い出になって、またいつの日にか出会うだろう


窓の外の朝の日を、四人で我先にって見て、エネルギーチャージ完了!パワーがみなぎってきた、さ、今日はどんなコトが起きるかしら、起こせるかしら、すうっと息を飲み込んだ、そしたら遠くに音がした、地響き、もう慣れっこになった鬼の進軍、今のフルパワー叉姫ちゃんに挑んでくるとはいい度胸ネ!


「行くよっ、ユキカゼ!」


「おう!」


鞘を投げて跳ぶ、一蹴りで空の中、雲がグーンと近づいて、一振り、斬撃空を切り、見上げてきた鬼を真っ二つ、デタラメに振って飛ばした斬撃が、烈火の如く鬼へと差し迫る


「おいおい、ムチャクチャするなよな」


ふと耳元で声がした、いつの間にやら私に抱きつく令奈ちゃんが、流石は暗殺者、気配消すのは上手い上手い、それじゃ共闘仲直り、やたらめったらに切り撃ち倒す、138COMBO!フルコンボで一気に殲滅、なんだかコレ、ストレス解消になるかも、そんな鬼退治の新しい楽しみ方を見つけて、朝陽に投げキッス、帰途につく


「二人だけで全滅させてしまうとはな、もう立派な鬼になったものだ」


ノマちゃん感心感心、令奈ちゃんと私はトーゼンでしょって得意顔


「ええ、ホントに、もう一人前ね」


背後から声、えっ、振り返ると閻魔将軍が、いつの間に⁉︎って驚いて少しバックステップ、やっぱり只者じゃないな


「アナタが令奈さんですか、ふふ、よろしくね♪」


モノホンの迫力の前に、引き金引くことさえならなかったのか、目には驚愕の色をたたえ、口は固く一文字、ふふっと笑う閻魔の顔には、ただならぬ圧力が、恐怖におののき三千里、この無言空間の内で、私はへこたれそうになる


「……よろしく、お願いします」


それだけなんとか絞り出すように、令奈ちゃんは嗚咽ともつかぬ声、やっと口にして目に見えるほど震えてた、私も震えが止まらずに、呼吸荒くして視界不明瞭、助け求むようにノマちゃんを見る、凛、口元に笑みを浮かべて直立してた、なんて肝っ玉の坐った人なんだろう!この圧倒的な圧力の前で、凛として立つ一人の少女、この圧倒的な圧力の前で、ガクブル泣きかけの一人の少女、これが格の違いかしらん、こりゃ敵わないわ、自分勝手に負けを認め、ぐってりとなったお昼前、またも皆を解き放つのは


「ご飯にしようよ!」


って声、食欲は万物の頂点で、号令かけたゆ鬼ちゃんに連なって食卓へ、閻魔将軍は踵を返してどこかへ行く


「あっ、ンマンマも食べようよ一緒に!」


それに気づいてゆ鬼ちゃん


「ンマンマって誰だよ、まさか……」


この予感は悪い予感かはたまた、ノマちゃんの質問


「そのまさかだネ、閻魔将軍も一緒にお昼するんだよ!」


キョトンとする閻魔将軍、朗らかに手招きするゆ鬼ちゃん、オンナはいくつになっても女子会に集い、さあさ恋バナ押しのけカロリーを貪ろう、お昼、にっこり笑った閻魔将軍の顔には、さっきの圧力なんて微塵もなくて、私も気づけばにっこり笑ってた、いざ、女子会昼の陣の幕は切って落とされた



食後のデザートには甘い雑談を、ゆったりとした時間の中で、今日もまた日暮れを待っていた、少しだけオレンジがかる光に五人包まれて、目に映る全ては穏やかな流れの中にいた、こうしてノンビリとした平和な日々は永遠に私を迎えに来るのかな、こうして戦う運命を背負ったのに、むしろゲーム感覚、おもったよりも鬼は弱くって、これくらいならエクササイズみたいな気分、それよりも一日を、愛する仲間と共有できる幸せに、この酔いよ永遠たれ、深まるオレンジ色、夕焼けが徐々に私達を抱きしめてゆく


「最後の晩餐は楽しめたかな?」


人の殴られる音、吹き飛ばされて壁にぶつかる音、時が止まった、目に映っていたのは、ゆ鬼ちゃんが閻魔将軍を蹴り飛ばしている情景だった


「……ゆ鬼、何をしているんだ…………⁉︎」


おもわずノマちゃんが声をあげた、恐怖におののく姿、初めて見るノマちゃんだ


「ンマンマ、見下ろされる気分はどうだい?ん?」


ノマちゃんには構わず横たわる閻魔将軍に足を乗せるゆ鬼ちゃん、閻魔将軍といえども神器であるブーツで不意に頭を蹴飛ばされて立つこともままならない、動けなかった、親友が裏切っている現場を見て、どうやって平常心を持てばいい?


銃声


令奈ちゃんがゆ鬼ちゃんを撃っていた、血が飛び散った、胸を貫通していた、なのに倒れることもなく、微笑みながら令奈ちゃんの方を振り返った、胸からはとめどなく血が流れているのに、意に解することもなく、ゆっくりと令奈ちゃんの方へ歩いて行く、ワァーーーーッ⁉︎恐怖に声をあげた令奈ちゃん、銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声、何発の火が飛んだろう、全て着弾、なのに近寄る歩調に変わりはない



真の鬼を見た、もう震えはこなかった、生に対する諦めからか、体にもう力は入らなかった、令奈ちゃんもへたれこむ、ゆ鬼ちゃんが不意に令奈の髪をつかんで乱暴に立たせる


「いい度胸じゃないか、果たして令奈っぺは何発耐えられるかな?」


ぺろっと令奈ちゃんの顔を舐める、恐怖に呑まれたのか、令奈ちゃんは嗚咽を漏らして泣き始めた


「いい度胸してんのはお前の方だろ」


ユキカゼが言った、私ももう恐怖に呑まれてた、でも涙は出なかった、ユキカゼを握って立っていた、ユキカゼがゆ鬼ちゃんを挑発した、夕焼けのオレンジが、飛び散った血の色を誤魔化していた、心臓は自身の鼓動で爆発しそう、何が何やら何なのだ、訳もわからないまま、ユキカゼを振りかざしていた


「……サッキー、よく泣かないでいられたね、良い子だ」


にこっ、ゆ鬼ちゃんは笑った、令奈ちゃんの髪を離した、令奈ちゃんは泣き崩れた、夕焼けのオレンジの中でゆ鬼ちゃんが消えた


「えっ、どこn蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り


少し声を漏らしたその刹那、私の体は数え切れないほどに蹴られてた、ユキカゼが手から飛ばされる、立てない、意識が朦朧として、口を閉じることさえままならない、開いた口を塞がせて、突然の事ばかり、もう理性は停止したっきり動かない、ゆ鬼ちゃん、どうして……そう言ったつもりが、もう声も出なかった、痛みももう感じなかった、ただ、どうして、そう声にならずに繰り返すばかり


「サッキー、今まで楽しかったよ」


嫌、嘘なんでしょ?これからもあの楽しい時間が続くんでしょ?今まで、なんて言わないでよ……


涙が今になって流れた、悲しくって悔しくってわけがわからなくって、苦しみの嗚咽も出なかった、ただ泣いてた、涙だけが唯一動く「私」だった、私を見下ろすゆ鬼ちゃん、ゆ鬼ちゃんに見下ろされる私、夕焼けのオレンジは、彼女の微笑みを染めた、南無阿弥陀、南無妙法蓮華、アーメン、ひたすらおもいつく限りの救いを求めた


「ゆ鬼ィィ……目を覚ませよォ…………」


ノマちゃんがゆ鬼ちゃんの後頭部の髪を掴んでた、涙を流して赤くなって目で、祈るように睨んでた、唇を噛み締めて、涙がとめどなく流れてた


「……サヨナラ」


ゆ鬼ちゃんが振り向いた、一瞬姿が消えた、ノマちゃんが吹っ飛んだ


「ぐはっ……ゆ鬼、ゆ鬼、ゆ鬼ィ…………」


ノマちゃんは求めるようにひたすらゆ鬼ちゃんの名を唱えてた、夕焼けのオレンジは一層濃くなって、この部屋の凄惨さをより一層派手にしてた


地獄


真の地獄を見た、ああひどく体が重い、もう一寸も動かぬ体と意識、眠い、おやすみなさい、夢を見たら、たーくさん「幸せだなぁ」って言うんだ

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