新しい朝は24時間おきに来る?
昨日は二人寄り添いあって寝た、夢を見た気がした、二人同じような夢を、目を開く、暗がりだけがある、窓辺へ顔を向ける、窓枠の中、暗闇が絵画みたいにスッポリはまってる、まだ夜なのか、いや、ゆ鬼ちゃんと二人朝陽を見て、その後に寝たんだった、そっか、昼夜逆転少女いまだ酔い、頭の回転各駅停車、ふとゆ鬼ちゃんの方へ顔を向ける、すぅ、っと寝息を立てて、いまだに夢の中、私が見てた夢の続き、後で話してくれるかな、なんとなく夜風に当たりにドアを開けた
「私も連れてってくれ」
ぴょんぴょこ跳ね来るユキカゼ、うん、小声で応えて手の内へ、金属的な冷たさで、腹をくくったあの日のドアノブ、ふと脳裏に蘇る、ふぅ、ってため息が出たのはなんでだろ、なんとなく、気だるい予感が届いたんだ
火の海だった
火に包まれてた、あの円卓で夜食でもつつこうかなっておもって、ドアを開けた、火が飛び出してきた、電光石火火の粉が降りかかった、チリチリと少しだけ髪が食べられた
「うわぁぁぁ⁉︎」
ユキカゼを抜いた、振るって起こした風で火を迎え撃つ、息が荒い、どんどんと燃え広がる炎の手、熱さか焦りか汗が出る、くっ、また一振り風を、火の奇襲にあって奪われ残る体力雀の涙、誰かを呼ぼうにも熱が喉に張り付き声にならない、呼吸音、自分の呼吸音だけはやたらに大きく聴こえた、膝が落ちた、立てなかった、今際に臨んで涙すら出てこない、遺言でも残そうかユキカゼを見る、声はもう出なかった、遠くで軽い爆発音がした
波を見ていた、一人の少女がその流れの中にいた、私はただ見てた、少女は沈んでいった、見たこともない少女、波の中で、必死に口を動かしている、ふと頭上を見上げた、少女の首から上が私の鼻先30cm、私を見下ろしてた
「見つけて……アナタが…………私を……」
綺麗な声だった、それだけ告げて、首はぐにゃりと曲がって空に溶けてった、視線を戻すと波の中を遠く流されてく胴体が、ふと振り向くと岸があって、そこへ上がろうとした、ゆっくりゆっくり泳いで、あと少しのところ、不意に後ろにぐっと引っ張られた
はっ、って少し声が出た、あの世にしてはなんだか慣れ親しんだカンジ、暗い部屋、今横になってるのは私のベッドで、こんなに懇切丁寧なお迎えだなんて、私は生前なんて素晴らしい人間だったのかしらん、でも何一ついいことも悪いこともしてないナ、あ、でもそれが逆に好印象だったのかも、そんなたわごとを頭の中で走らせる、ふわぁ、あくびまでできるなんてあの世も捨てたモンじゃないわね、二度寝してるうちに成仏も済んでたりするかしらん、まだまだ終わらぬ言葉遊びのなりそこない、眠気がこないけれど食欲はわいてきた、よいしょ、何か冷蔵庫にあるかなあ
「……お、おい!ゆ鬼、令奈、起きろ!あと叉姫はフツーに立ち去ろうとするんじゃない!」
「んぇ?」
変な声が出た、変な声がした、というかノマちゃんの声がした、振り向くと私の部屋の床で雑魚寝してる三人がいて、どうやらノマちゃんを起こしちゃったみたい、いやあ、こんなにも生前をリアルに反映してくれるとは、あの世はサービス業界でもトップに立てそうねえ、感心感心
「んぇ?じゃなーーーい!何すっとぼけてるのサ!」
叫ぶノマちゃん、うんうん、声もしっかりノマちゃんだ、ふとある好奇心が芽生える、きっと触感もノマちゃんなんだろな、ずんずん近づく、えっ?って顔したノマちゃん、表情もノマちゃん、うんうん、すごい再現度、まるでそのまま持ってきたみたいネ、怪訝な顔したノマちゃん、私の鼻先30cm、ぽけえっと開けてるお口、ふにゅ、ほっぺに指を当ててみた、これはすごい!まさしくノマちゃん、人肌まで再現してるなんて、もう死んでよかったとまで思えてくるわ!
「んォイ⁉︎何してるんだ!怖いぞ、ハッキリ言って今の叉姫は怖いゾ!」
焦ってわたわたノマちゃん、リアクションまでノマちゃん、ああ、案外死ぬのっていいもんだねえ、ほのぼのとしたら、ぐぅ〜っ、お腹が鳴った、そうだ、夜食夜食、踵を返してドアの方
「だーかーらー!なんなんだよォー!」
ぐいと引かれる袖口、おろろってバランス崩して後ろに倒れ込む、ノマちゃん下敷き私は上に、地獄の夜にどしんって二人分の地響きが鳴った
「いやー!よかったよかった、サッキーが丸焼きになってたらそれはそれで久々に焼肉が食べれたけど、ネ、とにかく生きててよかったよ、はっはっ」
「でもおかげさんで私は叉姫の寝ぼけにサンザンな目にあったんだぞ」
豪快に笑うゆ鬼ちゃん、私はそんなブラックジョークに少しおののき、やれやれ顔のノマちゃん、私は大層申し訳なくおもって、四人分の箸は飛び回り、どんどんと減ってく皿の上
「まあ、叉姫はあの時令奈に助けてもらってなかったら今頃墓の下だな」
「あら?令奈ちゃんが助けてくれたの?」
「……なんだよ、助けないほうがよかったかい?」
「ううん、ありがとね」
命の恩人にこんなに軽く接するなんて、ちょっと無礼だったかしらん?でも、また軽く接することができるようになって、嬉しいなって素直に想えたナ、ふふーっ、笑顔を令奈ちゃんに向ける、また、仲良くできるかな
「……なに笑ってるのサ、私は敵だろう」
「うーん、そうとも言い切れないような気がしてね」
あの日以来、ずっと少しだけ悲しい顔した令奈ちゃん、きっとウラがあって、お互いに腹を割って話せたら、もしかしたら分かり合えるかも、楽観的なのはイマドキ女子の必須事項、私も随分と丸くなったものね
「まあ、いいじゃないか、今日もメシがうまい!それだけで希望が持てるだろ?」
ゆ鬼ちゃんもニッコリ、一瞬、ふふっ、っと笑った令奈ちゃんの顔、私は見逃しませんでしたからねっ!
想えば朝の光もひかさたぶり、ごちそうさまって快活に言って、窓に走り寄って、窓の外を眺めたら、絵の中には朝があったんだ、長い長い夜を過ごした気がする、ふぅ、って息を吐くと、朝空へと飲み込まれていった、狭い窓枠に四人身を乗り出して、重い重い!とか言いながらも、四人で一つの空を眺めてた




