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混ざるな危険

《翼がついてようととかげはとかげ!》


 ばりばりと鱗をむしり取り、容赦なくばしばしと翼を当てていく僕のご主人? に、しばし呆然としてしまう。海で出会ったときからこのひとは変だなあと思っていたけれど、ここまで遠慮がないとは思わなかった。

 ドラゴンととかげを一緒にするなんて、暴君虎(タイラントタイガー)とその辺の子猫を一緒にするようなものだ。なんなら、小魚とメガロドンを一緒にするようなものだといっていい。確かに見た目はちょっとにてるけど、とかげとドラゴンじゃ釣り合わなさすぎる。


 ……それこそ、この太った鳥のような生命体と、ただの鳥を一緒にするような、愚かしい判断だと思うんだけど。


 短い足だというのに、鋭い足の爪を駆使してドラゴンに上っていくのは歴戦の登頂者(クライマー)を彷彿とさせるくらいにたくましい。飛べなくても高いところには余裕で行けそうだ。なんでこんな生物(化物級)が僕以外に存在しているのか、一瞬考えてしまった。この世の理から外れたような、そんな印象すら受ける。


 少し前まで熊だった僕の体は、今はうでの部分だけタコやイカに似せた、元の【クラーケン】の形に戻している。吸盤でぺたぺたとドラゴンによじ登れば、吸盤があるならのせてもらえばよかった! と太った鳥はドラゴンに頭突きと言う名のくちばしアタックを決めながら叫んでいた。


 ……あのくちばし、結構鋭くていたいんだよね。


 ドラゴンは必死に僕らを振り落とそうと身をよじるけれど、僕は吸盤をつかっているし、太った鳥は身をよじるくらいじゃ落ちやしないだろう。小癪な! と叫びながらばりばりと景気良く鱗を剥がし始めているから、むしろ逆効果だ。無駄毛処理のノリで鱗を剥がすのはどうかと思うんだけど。


《図体でかいとめんどくさいな……! 四つくらいに分割しないかなあ!》

《そんな、バースディケーキじゃないんですから》

《え? ケーキってホールまるごといくんじゃないの? 誕生日なんだよ?》

《いやいやいやいや》


 誕生日でもケーキは分けてください。


《地味に削るのは好みじゃないんだけど、ここで目を潰したらこの辺すごいことになりそうだし……》

《あれはもう痛いとかそういう問題では……》


 痛いを通り越して熱いという感じだったし、文字通り目の前が真っ白になった。あそこであの変な人間が僕の目を癒してくれなかったら、僕はもう……。


 ちょっと昔のことを思い出して遠い目になった僕に全く気もかけず、太った鳥はガツガツとくちばしを打ち付けている。キツツキもびっくりな早さだった。これはバンギャのヘドバンより激しい。激しすぎる。ロックンロールだ。


 ここでそのヘドバンで目を潰して暴れられようものなら、この森はどうなるかわかったものじゃない。

 ――先程まで森林破壊をやってのけていたのはこの際棚に上げるとしよう。森林の危機より生態系の危機の方がたぶん重要なはずだ。森がなきゃ動物も生きられないだろ、という突っ込みは存在しないものとする。


《どこか……海辺りに釣り出せたら思いきり叩けるんだけどな!》

《ホームグラウンドですもんね……》


 この太った鳥は、見た目に似合わずかなりのスピードで泳ぐ。飛べない鳥だからこその泳ぎの速さなのかもしれないが、水の中を自由に泳ぎ回るその姿は、まさしく“飛んでいる”。


《ドラゴンてエラ呼吸? 肺呼吸?》

《溺死ですかっ!》


 てっきり水中で動きが鈍ったところを仕留めるのかと思っていれば、もっと直接的だった。突き落とす気だ。二時間サスペンスも真っ青な東尋坊だ。ちなみに東尋坊で飛び込んでも海に落ちる前に岩に当たるらしいから気を付けたい。海の藻屑になる前に肉片へとクラスチェンジだそうだ。

 ドラゴンがエラ呼吸なのか肺呼吸なのかは僕のあずかり知るところではないけれど、直接的かつ確実に、そしてじわじわと死に至らしめる方法をとろうとしているこの太った鳥に、さすがにちょっと無理があるのでは、と僕は口にするしかなかった。


《どの辺が無理?》

《水に突っ込んでも翼で飛べちゃったりしませんかね……》

《……あ?》


 飛べちゃったり、と僕が口にした瞬間、太った鳥の雰囲気ががらりと変わる。ふふふ……と薄暗い笑い声まで披露し始めた。まずい、これは主人公に痛め付けられたラスボスが第二形態を披露するときの笑い声に似ている!!! 本当の姿をお見せしよう! とかいう前フリだ!!!


 まさか本来の姿が……!? と期待してしまった僕の目の前で、太った鳥は大きく叫ぶ。


《飛べない私への当て付けかこのやろー!!!》


 魂のこもった叫びだった。ソウルフルな絶叫だった。

 聞くものの感情を揺さぶり、胸を熱くする台詞だった。

 もしこの場を見ているものが他にいたなら、きっとこういうと思う。

 

 ――被害妄想だー!! と。


 まさかドラゴンも羽を持っていただけでいちゃもんをつけられるとは思っていなかっただろうし、その代価が個人的な恨みのこもったヘドバンだとも思わないだろう。……僕が飛べちゃったり、とか言わなきゃこんなことにはならなかったのかもしれないけど、運命とは時に残酷なものだからそういう方向でふんわり納得してもらうことにする。


 しかし、あの前フリから本来の姿(第二形態)ではなくコンプレックスの披露に終わってしまったときのこの残念感。何とも言えない。誕生日プレゼントに大きな袋をもらったぞ! わーい! とかやってたら中身がただのクッションだったときくらい肩透かしだ。クッションも素敵ですけど!


 ……もはや全自動ドラゴンえぐりマシーンと化した太った鳥を見つつ、ある意味ではこれも本来の姿か……と遠い目になってしまう。コンプレックスの刺激は時にひとを獣に変えてしまうのだと僕は学んだ。授業料はドラゴンが体で払ってくれている。やったね! ただで学べました!


 とはいえ、気にしていたんだなあ、と僕はしみじみしてしまう。わかる。僕も散々『タコかイカかわかんねえ見た目しやがって!』と海のなかで散々苛められていた身だ。そんなこというやつは全部食べたけど。


 個人的恨み丸出しで攻撃し続ける太った鳥に声をかけることもできず、僕はそれを呆然と見つめる他なかった――あ、この鱗案外きれい。


 鱗をフリスビーがわりに投げて遊んでいた僕は、暴れまくるドラゴンの近くにやって来た一人の青年に、おや、と目を丸くした。


「お前らー! そこで何やってるんだよ!」


 集団で亀をいじめていた悪がきたちに声をかけるような調子で声をかけたのは――あの、変な人間だ。


「俺も混ぜろよ!」


 あわよくばドラゴンに踏まれたい! と目を輝かせながら突撃してきたのは、さすがだなと感心してしまった。


 

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