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濡れ場血濡れ場



 ところで呪いって何?――ときいた俺に、女の子は「奇妙な呪いでして」とため息をつく。俺がみた限りは女の子はぴんぴんしているし、さっきの濡れ場――ただし“血”濡れ場――の様子から見れば、この女の子は呪いをかけられているどころか絶好調だと思うんだけれども。


「非常に訳の分からない、妙な呪いでして――」

「妙な呪い?」


 はて、と俺は首を傾げる。妙な呪いって何だ? 頭から腕が生えてくるとか? ……なんかカブトムシみたいだ。もしかしたらかっこいいかもしれない。

 でも、目の前の女の子の頭には腕なんか生えてないよなあ――。黒くてつやつやした髪の毛があるだけだ。見た目は一般的に言う“可愛い”タイプ。一般的、っていうのは、俺には人の顔の美醜は分からないからだ。分かるのはひよこの雄、雌の違いとかそれくらいだな!

 でも、あの黒髪は将来禿げなさそうでいい感じ。女の人が禿げるなんて話はあんまり聞かないけど、俺の父さんをみるあたり俺もいつかは……頭に砂漠地帯を築き上げるのだろうか……イヤだなあ。


「はい。ええと――動物が近づかなくなる呪いです」

「チェンジ」


 思わず口をついで出てきたのは、親父に教えて貰った“現状が好転する”呪い(まじない)の言葉――意味はよく分からない。が、この言葉を口にすると女性が怒るってのを俺はすっかりさっぱり忘れていた。


「なっ……!」


 女の子は信じられない、といった顔でぱくぱくと口を開け閉めし、それから無言で俺をたたいた。どうもありがとうございます。

 どうやら物事が好転するというこの言葉は本物らしい。これはよいものだ! と一人うきうきしていた俺に、女の子も相棒もドン引いた目線をよこしてくる。――重ね重ねありがとうございます!


 ――そうだ、そんなことに恍惚としている場合じゃない。

 この女の子の“動物が近寄らなくなる呪い”って俺にとってはかなりの大問題だ。獣使いにとって動物とはイコールで相棒、人によっては戦力だったり命綱だったり。その獣使いのところに何故敢えてやってきたのか……理解に苦しむ。


「あのなあ、俺、獣使いだぞ。動物が近寄らなくなるなんてダメだ。絶対ダメだ」

「――存じ上げております。だからこそ貴方のそばにいようと思いました。貴方と――いえ、“この鳥”の力ならば、この呪いを解くのも夢ではないだろうと思っております」


 この鳥、と口にしたタイミングで女の子は俺の相棒をじっと見つめた。なかなかの熱視線。そいつは俺の相棒なんだからな……。

 相棒は相棒で女の子と見つめ合ってるし。やっぱりむさ苦しい男より女の子の方がいいのかなあ。結構見た目には気を使ってたんだけどなー。

 とかなんとか思っていれば、女の子は俺の相棒に向かってスッと手を伸ばした。危ないって、と止める間もない。

 女の子は躊躇うことなく相棒の翼もどきをきゅっと握った。握ったといっても力一杯ではないし、手のひらでそっと包み込むような、柔らかいさわり方だった。まるで、動物のことを思いやるような。――でも、どこか怖がるような。


「――やっぱり」


 女の子はちょっと安心したように笑って、それから少し潤んだ瞳で相棒の翼もどきを放す。嬉しそうに微笑んで、相棒の頭をそっと撫でた。


「……呪いをかけられてから、今までいろんな動物に避けられてきたんですけど――この子は、この子は……私に触れられることを拒まないんですね」


 動物が好きなのに触れることすら叶わなくなった――そう言って瞳に涙を浮かべる女の子に、やっぱりパーティーを組むことを取りやめる――だなんて言えやしなかった。

 仕方ないな、とあきらめて俺がふと息をつけば。


「い、痛っ!」

「あっ、おいこら! ペッしなさい! ペッ!」


 ……触られるのに耐えきれなくなったらしい相棒が、女の子の手のひらをがじがじと噛んでいた。


 ――感動的だった空気を返せよ……。


 とはいえ、これでこそ俺の相棒だ。痛いと涙目になっている女の子の手を取って、俺は治癒術をかけはじめる。女の子はありがとうと感謝の言葉を述べ続けていたけれど、俺としては嘴についた赤い血を翼もどきで拭い始める相棒の方が少し気になった。


 ――嫉妬なのか? なあなあ嫉妬なのか? 俺がこの女の子にちょっと優しくして嫉妬したのか!?


 そんなことを頭の片隅で考えてしまってにやにやと顔が緩むが、そんなことはあり得ないとよく分かっている。俺だってべたべた触るとかじられるか翼もどきでの強力な一撃を食らうのだ、女の子がこの程度の怪我ですんでいるのは相棒なりの配慮といっても良い。出来れば噛むなら俺にして欲しいけど。



 治癒がすんでから、俺たちは当初の目的地である西の沼地へと向かうことにした。……はずだったのだが。



***


 今現在、俺たちはよく分からない男たちに周りを囲まれている。びっくりだ。至る所で動物たちと築いてきた友情はあれど、見知らぬ男たちに囲まれるほど親しくなったわけでも、有名になった覚えもない。

 何の歓迎かなと俺が首を傾げるよりも前に、男たちに護られるようにしてそこにいた一人の女性が歩み出てくる。


 いわゆる“出るところは出ていて、引っ込むべきところは引っ込んでる”、抜群のプロポーションだと言われるような体型の女性だった。だが、俺はそんなでこぼこした身体よりは豚みたいにもっちりした身体の方が好みで――とかそんなことはどうでもよかった!


 その“俺以外の人の目から見たら抜群の体型の女性”は、ゆったりと歩みを進める。男たちが女性に道を譲ろうとなんとなく女性の前を開けていき、俺と相棒、女の子の前に女性は仁王立ちをした。

 派手な顔つきの美人という奴だ。赤く染められた唇は人でも食ってきたの? と聞きたくなるほど毒々しいし、俺はちょっと苦手な感じ。ばちばちとした睫はラクダのそれににていて、その辺はまあ好感が持てるけども。


 目の前の女性は故郷にいる母親を思いださせて、何となく身震いする。小さいときにみた母親の写真――俺を生む前の、親父と知り合ってちょっとした頃の母親がこんな感じだったのを思い出した。俺の母さんは獣使いとしての勲功云々と、その見た目の派手なところ……簡単に言えば美人なことでわりと有名だった。鞭を持つために生まれてきたのか? ってくらい鞭を持つのが似合ってる見た目――といえばちょっとはどんな見た目か通じると思う。今やその面影はなりを潜め、北国ではすっぴんで獣たちの面倒を見ている母親だけれども。


「ちょっとぉ、アンタどこに高飛びしようっての?」


 いい男捕まえたじゃない――と女性は女の子に話しかけている。知り合いと言うには何だか険悪な雰囲気だし、何より俺はこの子に捕まえられた覚えなどない。勘違いしないでくれ!


 女性のすらりとした足が、大きくスリットの入った葡萄色のぴったりしたローブから見え隠れしていた。何となくだが“同業者”かな、と俺は思う。俺が操るのが獣なら、この女性が操るのが男ってだけで。職業(クラス)的には妖術士とかそんな感じだろうか。妖艶な魔女――みたいな感じだ。


「高飛びじゃないですよ――」

「じゃあ尻尾巻いて逃げるって? 愛しい愛しい子猫ちゃんをおいて?」


 ――子猫ちゃん?


 ちらりと女の子の方を見てみる。女の子は悔しそうに女性を睨みつけていた。


「あなたにかけられた呪いのせいで、あの子は……あの子は、私にも寄りつかなくなってしまったし……それなら、私以外の人を主人に置くしかないでしょう」

「アッハハハハ! それはそうでしょうよお! あんたと子猫ちゃんが仲良くしてたからってちょっかい(呪い)かけたらこのザマよお! 所詮獣との絆なんてそんなもの」


 ぐっ、と女の子は唇を噛みしめている。

 胸くその悪い話だと思った。話の全容は全く分からないが、話だけ聞く分にはこの女性が女の子に“動物に避けられる呪い”をかけて、その結果女の子は仲良くしていた子猫に嫌われた……ということだろうか?


「安心しなさいよお、アンタがこの町から出ていくならそれはそれで好都合ですもの。あの大きな子猫ちゃんは私たちが責任もって始末してあげるわあ。あの毛皮、売ったら幾らになるのかしらねえ」


 うふ、とほほえんだ女性は――次の瞬間、鼻に思い切り鉄の塊を受けていた。


 ――銃だ。思いっきり銃だ。女の子が持っていたはずの銃がぶん投げられていた。


 ガンッ、と悲惨ながら爽快な音を立てた鉄の塊は、女性の鼻から血を流させることに成功している。こうなれば美人も形無しだよな。顔から流血してるせいで唇の赤さが余程怪物らしいや。


 な、何よこの女――と女性は怒りに歪んだ顔を見せ、女の子を睨みつけてから、銃を放り投げたのが女の子ではないことを理解したらしい。


 女性が困惑のまなざしで見つめて居るもの。

 それは、ほかならない俺の相棒だった。


 ――思わず俺は口にしてしまった。


「ナイスシュート!」


 だって本当に見事に鼻に当たったからさ……。

 

これからは一週間に一度の更新頻度になります。

更新予定日は毎週日曜日ですが、場合によっては月曜日や土曜日に前後するかもしれません。これからもどうぞよろしくお願い致します。


勢いで始めてしまった話故に プロットが存在していないのです……

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