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第6話

 いったい、何を頼まれたというのか・・・。

 朝になって登校中、小百合はぼんやりしていた。まだ眠気が頭の中に残っている。

 朝霧高校は質的には人数が多く、もっとも地域で一般的な高校で名が通っている。朝霧高校の制服を着た学生で溢れる界隈で、学生達が陽気に歩いていく。初夏の暑さにも負けぬ笑い声や喧騒が絶えず聞こえてくる。今日も新しい一日が始まっていく。

「おはよう」

「おはよう」

 同学年の声が聞こえふと、学校が見える通学路で、小百合は立ち止まった。

 何だろう?

 この先に・・・・?

 石を積み上げた高い建物が見える。

 何だろう?

 あれは・・・あの建物は、何だろう?

 あれは・・・

 ふと、前を見ると、彼が通っていた。

 小百合の胸がどきりとする。

 通学路の生徒に混じって、体格の良い彼の白いシャツの背中がきらっと光っている。

 室町君が振り向いた。色白の肌に、濃い黒髪、黒い瞳が切れ上がった形良い目の中で、生き物のように覗いている。

 小百合は気づかぬ間に、彼の顔を穴の開くほど見つめてしまったかもしれない。

 室町が疑問に思い始めたようで、ハッとなって小百合は目をそらした。

 くすっと、背を向けながら彼が笑ったのが分かった。

 何を見たというのか。ものすごく、胸の中がじんじんするほど・・・

 朝っぱらから、しゃんとしない。

 寝ぼけたせいか、遠慮ない目で彼のことを見ていた自分が恥ずかしい。

 小百合はぶるっと頭を振った。

 あのことを聞かなくちゃ・・・。

 と、突然横に人影が現れた。

「室町君は、仮面の紳士なんだ」

 気がつくと、同学年の三大寺寛二が来ていた。

 三大寺君は同じ年で、小百合も良く知っている。

 黒髪で、色白でメガネをかけていて、普段は目立たない。

「僕なんか、彼に見られただけで、身がすくむよ」

 そう言った三大寺君の顔は、朝陽でメガネが光っていた。

「おはよう、小百合」

 後ろから、一穂も来た。

「北川君」

 同じ生物部の部員である一穂と三大寺君は当然見知った仲。

 一穂のことを君付けで呼ぶ。女の子の前では、いつも黙っているというのに。

「何の話?ねえ」

 一穂は三大寺君とは気安いので、遠慮なく声をかけるが、どこからどうみても、オタクよりで女子とは普段話さない三大寺君は、常のことのようにそっぽを向く。

「彼はそういう人なんだ」

 メガネの奥に、三大寺君の知性に溢れたただならぬ光が宿っている。

「あいつ、後でとっちめてやんないと」

 何でも物事をはっきり言う性格の一穂からは、三大寺君もその対象から逃れるはずはなく、あとで本当にとっちめられる構造が思い浮かぶ。理路整然とした物事の考えを好む一穂には、はっきりしない事柄をそのままにする三大寺君も気に入らないはずだ。

 何だろう?どういうことだろう?

 小百合の頭の中は、室町君でいっぱいになる。

「あれ、入野さん、あれどうなった?」

 と、よりにもよって今日一番出会ってはいけない相手、問題の総会長が、校門の前で門番をしていて、顔を合わせた。

 げ、当の本人が!

 小百合は言い訳することも出来ず、思いつくこともなく、口をどうあけていいのかも分からず、慌てた。

「まだ、早いかな」

 と、総会長は忙しそうに、生徒達を見送るので、小百合は安堵した。

 小百合はそそくさとその場を離れた。

 現段階、問題は解けないまんまだ。

「おはよう」

 教室の中に入り、室町君にいきなり声を掛けられちゃったものだから、落ち着かない小百合の心がますます落ち着かなくなる。

 室町君がにっこりと、笑顔を浮かべている。

 小百合はわなわなと体が震えそうになった。突然って、不意打ちって、絶対駄目。笑顔はドキッとするだけでは済まない。

 おかげで、聞くことを忘れたのは、無理からぬことか。

 総会で、小百合が何を頼まれたか、すぐ聞こうと思っていたのに。

 いつ声をかけようか、小百合は脳が茹で上がりそうになる思いをしながら思った。

 そもそも、聞けば良いと思っていたが、自分がそんな簡単に声を掛けることが出来るのか。いざ本物を前にすると、本物の威力は凄まじいものがあって・・・・これはかなり大変な問題だわよ。


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