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第4話

 ここに小百合の生涯初と言っていいほどの悩ましい問題が生じた。旅の思い出は恥のかき捨てでもないが、自分に不利なことは忘れてしまう小百合のこととて、以前にも、もちろんわけの分からない、人生を棒に振りそうな問題はあったかもしれない。

 遠足のバックをどこかに忘れて、バスが遅れたとか。幼稚園のときのことだ。最近も会った気がするが、気のせいか、思い出せないだけか・・・?

「小百合って人の話聞いてないときがある」

 親友の一穂が、憤懣やるかたない様で言っていた言葉を思い出した。

 確かに、子供の頃から本を読んでいたり、クレヨンで絵を描いていたりすると、世界に入り浸って還って来なかったらしい。

「聞いてないと、話しているときの小百合って、ちょっとずれてる」

 そりゃあ、聞いてなくて悪かったわね。

 最大の大ボケをかました小百合には、反論が出来ない。

 何度も何度も、小百合は総会から帰るまで考えた。

 今まで、これで生きてきて、問題がなかったから、良かったものの・・・ここに来て、問題が起こった。

 自身ではこれで良いと思っていたけれど、人の話を聞いていない、聞かないというのは、こういった問題が起きるのか。

 後悔は先に立たじ。いくら反省したからって、取り返しがつかない。

 ああ、どこかがひっかかっているのに、分からない。

 だから、余計に気になるではないか。

 気になれば気になる。

 小百合は何か、無性に知りたくなってきた。

「あんたなんかに、教える宿題はない」

 以前、久住鈴花に言われたことを思い出した。

 風邪で休んだ次の日のこと。

 教室の移動があって時間がなく、直前になって次の英語の授業で宿題を提出しなければいけないと知って、つい、前の席にいた久住に聞いてしまった。

 分かっていて情けなかった。

「なにお・・・この・・・」

 と心の中では思った。

 とはいえ、聞いた小百合も悪かった。

 聞く相手は選ばねばならない。

 あの時思い知った。

 どんなときでも、久住には聞くな。

 これは同様に、他の事例にも当てはまる。

クイズ番組で、司会者がにんまり笑っている映像が浮かぶ。

「さあ、答えはそれでいいんですか?」

 小百合は考えると、煮詰めてしまうほうである。

 数学の問題でも、すぐ降参してしまうほうだ。

「ああ~、一穂やって」

 と理系の一穂にすぐ頼んでしまう。

 考えに考え、推測に推測を重ねた結果、自分では分からないと結論に至った。そこまで思い至ったのは、小百合ではよく出来たほうだ。

 室町君に聞こう。

 彼なら知っている。

「じゃあ、さようなら」

 そう思ったのだが、その日はもう彼に聞くことは出来なかった。

 総会長と役員に引き連れられて行ってしまった。

 背が高く、ひと際目立つ彼の背中が、段々遠ざかっていく。やがて、他の生徒の陰に隠れ、通路を曲がると、見えなくなってしまった。

 久住さんを止めてくれたときの、室町君は本当に格好良かった。

 帰り際、何だか彼が微笑んでくれたように思ったのは、気のせいだろうか?


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