第六話・・・抱きしめあう夜
洗面台から戻ると、杏が布団に入っていた。掛け布団で顔が見えない。杏はやはり恥ずかしいのだろうけど、恥ずかしがるなら一緒に寝るなんて言い出さなきゃいいのに。時間もいつの間にか0時を過ぎそうだ。酔いも少しさめて、眠気がきてる。僕はソファーで横になり、厚手の毛布を被る。
その瞬間、がばっと毛布を取られる。杏が声に出さずとも目で思いっきり抗議していた。
「いや寝たいんだけど」
「お兄ちゃん、一緒に寝るって言ったよね?そこ、ソファーだよ?腰痛くなるよ?」
「お兄ちゃんは腰強いんだ。だから大丈夫。心配ありがとう。おやすみ」
「そういうことじゃないの!」
杏が抱きついてくる。僕の胸に顔をぐっと埋めて、両手を回してくる。めちゃくちゃ近い。距離がゼロだ。そういうことじゃなかったけど、これはどういうことなんだよ。
「わかった!わかった!もう布団で寝ればいいんだろ!これじゃ寝れないよ!」
杏がさらにぎゅっとしてくる。薄いパジャマの向こうで柔らかいものが押し付けられている。少し甘い匂いもする。温かい。誰かの体温を感じるのはいつ振りだろうか。
密着して動かない杏をそっと抱きしめ返す。純粋に体温をもっと感じたかった。背中も温かい。なんだかふわふわしてきた。杏も更に力をいれて抱きしめてくる。
深夜のソファーに兄妹とはいえ男女が抱きしめ合っている。このまま寝てもいいかもしれない。
「お兄ちゃんはさ、杏と会えなくて寂しくなかったの?」
杏が小さな声で問いかけてくる。
「杏はずっと寂しかったよ。あんなにそばにいたのにいきなりいなくなって、でもどうしようもなくて。いっぱい泣いたし、どうしたらいいのか色々考えた。考えて考えて。お兄ちゃんのいる場所に行くために努力して。今日、会って気持ちを伝えられて。私、ここに来られて良かった」
「ありがとう。ごめんな、お兄ちゃんが勝手にいなくなって寂しくさせて。もっとしっかり話してから家を出ればよかったよ。手紙のやり取りして、たまに実家に帰ればいいんじゃないかと勝手に思ってた」
お互いの思ってた気持ちを出せたからか、僕と杏はそこから会えなかった時のことをそれぞれ語り合った。一人暮らしを望んだのは僕だけど、昔に戻ったみたいで今の状況はとても楽しい。
僕はそのまま妹と寄り添いあったまま寝てしまった。