第五話・・・布団で寝るか
シャワーを上がると、杏はソファーにまだ座っていた。ガラガラ声の司会者が締めの言葉を言った後、化粧水のCMが流れる。ちょうど見ていたバラエティ番組が終わったのだろう。つまらなそうに杏はチャンネルをころころと変え始める。
さて、牛乳でも飲むか。冷蔵庫から牛乳を取り出して、お気に入りのマグカップに注ぐ。風呂上がりの牛乳は欠かせない。特に北海道の牛乳は美味しい。広大な大地で育まれた牛にしか出せない味だ。ゆっくりと口に含んで甘みとコクを舌で感じる。これだ。これこそが癒し。
視界の端で杏がソファーから立ち上がり、ごそごそと布団を敷き始める。いやなんで布団を先に敷いてるんだ。
「お兄ちゃん、布団敷くねー。一緒に寝るのも久々だなー」
僕は口に含んだ全ての牛乳を流し台に向かって吹き出した。
「なんで一緒に寝ることが確定事項になってるんだよ!」
僕は杏の発言に対して即座に抗議をする。
「だって他に寝る場所もないし、一緒に寝た方が暖かいよ?一緒に寝るのは当然で、問題は今夜そこから何をするかどうかだよ、お兄ちゃん!」
「杏さんとしては何をする予定なんですかね!?あと寝るところなんてソファーがあるだろ!」
「何ってもう!恥ずかしいこと言わせないで!」
杏は顔を両手で覆って恥ずかしそうにしている。耳まで真っ赤だ。いやそんなことしないから。大丈夫だから。杏が想像するようなこと、お兄ちゃんしたことないでしょ。あと恥ずかしそうにしてるけど、話の流れをこの方向に進めたのは杏がきっかけだからな?
杏が恥ずかしそうにしているとなぜかこっちまで恥ずかしくなってきた。牛乳を冷蔵庫に直して、歯を磨くために脱衣所に戻る。杏はシャワーを上がってすぐに歯を磨いていたようで、ピンク色の見慣れない歯ブラシが洗面台に置かれていた。もはやそういう状況にも慣れてきた気がする。
確かに一緒に寝るような状況になることは久しぶりだ。昔はよく杏と一緒に寝ていた。あの頃は家族旅行で車に乗るといつも後ろの座席で二人して寝ていたし、一緒の布団で寝ることもあった。でも僕が高校に入ってからは一緒に寝ることは無くなったし、二人きりでいる時間もかなり減っていた。でも今となっては、今日に限っては良しとするか。
別に間違いなんて起こらないし。