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瑠璃の世界  作者: ゆき乃
1/1

chapter01:パテリアの国境で1

備考:舞台は未来のヨーロッパ大陸。

かつての地殻変動により大陸の大半が沈んだ地球。

人間は残った数少ない領土に小国を作り生きていた。

「そろそろ食事にしようか」


私の左を歩く燕尾姿の青年は、いつものように適当な店の前でトランクを下ろした。

私よりたった15多く生きる彼、名はエマヌエル=アンデスというのですが、彼こそが私の父親なのです。

血こそ繋がっていませんが、れっきとした家族なのです。


「またトマトピューレですか…?」


私は見るからに嫌そうな顔をした。

この国、パテリアはトマトの産地だ。料理店に入ればどこへ行ってもトマト料理。

恥ずかしいことですが、私はトマトが好きではありません。

むしろ嫌いです。大、大、大嫌いです。

あの真っ赤でグジュグジュした種、頭の痛くなるにおい…。

この国は私にとって生きた監獄とでも言えましょうか。


「じゃぁ…ミネストローネなんてどうかな」


エマはにこやかに言う。


「遠慮します」


私は即答した。

パテリアは食の国だ(トマトばかりだけれど)。

この南ヨーロッパの外れにある活気溢れる小国。

パテリアに来てから一週間ほどが経ち、もう街の景観にも馴れてきた頃。

エマはここが偉くお気に入りのようで長く滞在したいらしいのですが、私にとってはなんとも迷惑な話です。


私たちは(というかエマは)探し物をしている途中なのです。

彼が探しているのは「瑠璃の空」というもの。

聞いたところ、彼自身も「瑠璃の空」についてあまり知らないようなのです。

それがどういった存在なのか――名の通り空なのか、人なのか、建物なのか…。

ただそれが、どんな祈りをも受け入れるもの、つまりは、同等の代価を払えばどんな願いでも叶えてくれるというのです。

エマが何を叶えたいのかまでは話してもらえなかったのですが、

まぁあの面倒くさがりなエマがここまでして叶えたい願いなのですから、きっと大事なことなんでしょう。


私は嫌々エマに付いてお店に入る。

オレンジの照明の木造りの小洒落たお店です。

店員に案内された窓際の席に着くと、エマは落ち着いたように手袋をはずしメニューをめくり始めた。

そして店員を呼びとめ、またにこやかに言うのです。


「パンとミルクと、それからミネストローネ。トマト抜きで」




食事を終えると、いつもの宿屋に戻った。

(ちなみに食事の方はというと、店員の穏やかな憤慨を受けながら運ばれてきた、パンとミルクと『コンソメスープ』を美味しく頂きました)

この宿は古く安い宿ですが、気のいい主人に古びた家具のほこりっぽいこの部屋が、私は気に入っています。

私は特によく本を読むので、落ち着く静かな環境が好きなのです。

エマはいつもヘラヘラと笑っているくせに博識です。

しかも自称天才画家らしいのです(くやしいことに、これが本当に上手いのです。あまり見せてはくれませんが)。

旅の資金は絵を売るなりして集めたお金らしいのです。

エマは読書ばかりしていないで外へいって遊んできなさいといいますが、そうにもいきません。

仮にも彼の娘である私がいつまでも無知な子供のままでい続けるわけにはいかないのです。

というかエマのよく言う「まだまだ子供だなぁ」がくやしくてたまらないのです。

本当に早く大人になりたいものです、まったく。


「ロレッタ、やっぱりその服似合ってるねぇ。苦労して選んだ甲斐があったよ」


エマはしゃがんで私を見上げるように言いました。

私の背丈は彼の肩にも届きません。

エマは女の子は背が低い方がいいと言いますが、彼にそう言われると意地でも背を伸ばしたくなります。


「まぁ、ロレッタは何を着ても可愛いけどね」


エマは私の頭を2度撫でた。

私はその手を退けてムッとした。


「そういうこと、絶対に人前で言わないでくださいよ…」

「どうしてだい?」

「どうしてもです!」


こういうのをいわゆる「親馬鹿」と呼ぶのでしょうか。

エマは度々このような発言を口にします。

その上少々(と信じたい)少女偏愛の気があるらしいのです。

あまり言いたくはないのですが要するにぶっちゃけた話ロリコンなのです。

ああ娘ながら情けない。

つい先日は「年上の女性は苦手なんだ…」とかぼやいていましたし、街に出れば度々自分より歳の低い女性に声をかけては回っているし…。

正直彼の将来が心配です。

どうして娘が父親の将来を心配しなければならないのでしょう。

けれど彼の選んだものは全てが美しい。美しいのです。

こういうところはさすが芸術家というべきなのでしょうか。

私の着ている大きな襟のセピア色のワンピースも、彼が整えてくれたボブの髪も、何だかんだ言ってとても気に入っているのです。

まったく私は、彼に勝てる気がしません。

まぁ親なのですから勝つ必要なんてないのですが。

それでも、ずっとからかわれっぱなしでは私の気が済まない、というものです。


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