第6話・多分、棚から牡丹餅のようで
数日が経過した、山の中での出来事。川辺に居るのは、俺とシンシアの2人だった。
話し合いと検討の結果、浄水には、水車を用いた汲み上げと、木炭を用いたフィルターを採用する事にした。というか、他に思いつくアイデアが無い。
水車については、無魔力空間装置作成時の送風機作成時に挑戦済なので、問題無くクリアー……な、わけが無いのである。
前回水車を作った時は、パラノメールという街の職人達の顔役をやるほど腕の立つ武器職人、ケイシーの協力の元作成している。あれから俺も多少の知見は広まったとはいえ、ケイシーの不在を補えるほどのものでは無い。
「やっぱ、職人の手が無いと限界があるな……」
実は、ここへ引っ越す際に、ケイシーに誰かをここに紹介してくれとお願いしていたのだが、未だ返答無しという事は、空振りだったのかもしれない。
浄水設備作成のための水車と、封水を伴う便器。これには是非とも、職人の手が欲しい。
「上手くいかないっすね……」
シンシアと一緒に水車作りを試してみるが、シンシアが言った通りだ。川の流れで、回ってくれない。
なんの重り(負荷)も無く、ただ回すだけなら出来るのだ。だが、この水車の羽先にバケツを付け、水を汲もうとすると回らなくなる。前世の知識だと、これでも回っていたんだけど……。
「回らないから、負担になるバケツの数を下げてみたのに、まだ回らないね……」
と、一緒に呟いて、一緒に考える。
バケツが重いから回らないのかと思ったのでバケツを減らしたのに、余計に回らなくなった。なら逆に増やしてみるか? と考えたところで思い浮かぶのが、職人不在という現実だ。
「野営や罠設置で、多少の工作は慣れてるんすけど……それでも最初の設計以上に増やすのは難しいっすよ」
「だよねぇ……どうしよう」
2人して地面に寝転がった。山中の川べりなので、湿っぽい土が背中を冷やすのが心地よかった。
頑張ればなんとかなるので頑張るしかないのだが、如何せん、集中力が切れている。
こういう時は雑談に限る。
俺は尋ねた。
「シンシアってさ、サーシャやリーシャとどういう関係だったの? 元々同じ傭兵団だったっていうのは知ってるけど、それだけなんだよね」
その問いに、シンシアは簡単に答える。
「別に、ただ元々同じ傭兵団で、俺が副団長で、リーシャとサーシャの父親が団長だったってだけっすけどねぇ」
寝っ転がって上を見ているので、俺の視界に入るのは揺れる木々と木漏れ日だけだ。それでも、シンシアが本心から苦笑しているのが解る。言える事は無いと、心から言っている。
だが、しかしである。
「それにしてはサーシャあんどリーシャと再会した時の感激っぷりが尋常じゃなかったけど」
シンシアと初対面の時、シンシアが大泣きしていたのを思い出す。
「え、そうっすか?」
「めっちゃそう。結婚式に参列した父親かな? ってくらい泣いてた」
「え。あー、だとしたらそういう事かもしれないっすね」
「というと?」
「傭兵団が俺の居場所だったんすよ。天涯孤独で居場所が無かった俺を引き取ったのがディーゼル傭兵団。だから傭兵団は家族みたいなもんで、その家族が産んだ子供は、そうっすね、甥っ子とか、姪っ子みたいなもんでして」
「…………」
黙って聞いた。黙ってないとこう……茶化したくなってしまう。その割にはサーシャやリーシャにどこかちょっと舐められてませんでした? と。
黙った甲斐あって、話は続き、
「可愛い親戚の子供達が、傭兵団壊滅に伴って露頭に迷う羽目になりそうだったんで、全員を信頼の置ける場所に預ける旅をしたんす。で、リーシャとサーシャ、突然変異じゃないっすか。変な所に預けられないから慎重に預け先を選んだんすよ。その結果が、ファラン家だったんす」
さらに、話は続き、
「預けてみたら、びっくり。抱えてた問題、ひととおり解決してくれてるじゃないっすか。突然変異であるリーシャとサーシャが表を歩けるようになってた。そしたら感動のひとつやふたつするもんじゃないっすか?」
と、話は終わった。
こう聞いてみると、この男、本当にすごいのである。
まず意味が解らない、傭兵団が壊滅したので、行く宛の無い子供達を全員引き取って、預け先を探す。俺が小説家でこの展開を知っていたら間違いなくこいつを主人公にして執筆するね。俺はちょっと、行き当たりばったりなので主人公には向かない気がする。
「そっか」
と、俺は呟く。
俺は、そうだな、
「俺さ、前世で彼女にフラれて、それと同じタイミングに仕事で出世して。だから仕事に依存して。働き過ぎて死んだんだよね」
と、俺は言う。
「……前世、傭兵団か何かっすか?」
「ね。話してて思った。前世の仕事、致死率的には傭兵稼業に匹敵したかも」
実際、日本の過労死者、自殺者、原因不明の行方不明者を合わせると、激しい内乱状態の国と同等以上の人数が命を落としている年もあったりする。日本の『過労死』という言葉ね、これ世界で『カローシ』で伝わるほど権威ある単語になっちゃってるからね。
なので過労死した俺は悪くない。社会が悪い。
それはともかく。
「全部、自分のためだった。そしてそれは今もだ。俺は俺のためにしか生きてない。彼女を喜ばせたかったのも、上司を喜ばせたかったのも、全部、自分のためだったなぁって。だからこそ、シンシアのその、無償の愛? みたいな行動、本当にかっこいいと思う」
本音5割、シンシア上げ5割の話だった。完全に本気ではない。半分本気程度。
だが、シンシアは純度100%の本気で言う。
「俺も子供達や死んでった仲間を喜ばせたかっただけっすよ。同じっすね」
スケールが違うと思うんだがなぁ、という感想は、内心に留める。なんだろう、これ。こういうの、なんかさ、
「……男のロマンって感じ、する……っ!」
俺は呟く。
「ちょ、ロマンを追求すんのが男っすよ、そこイジるのは反則っす」
と、シンシアは笑う。
「あー、それ良い! 俺の前の世界、もう発展し過ぎたせいで、ロマンの追求は寒いもの扱いだったくらいだもん! でも、ロマンの追求、良いよね!」
「それはマジやばいっす。ロマンの追求がネタにされる世界になるくらいならこれ以上の発展はしないほうが良いまである」
「はっはっは! 間違いない!」
「いえ、笑いごとじゃなくガチで!」
と、2人で雑談に盛り上がっているところに、川上からサーシャが歩いてきた。
「2人とも、村、戻って。客人」
と、サーシャは言う。
「ちなみに、だれ?」
と俺が聞くと、サーシャは言う。
「知らないジジイと、知らないガキ」
淡々と、いつも通りの、平坦な、その……待って、これ全然いつも通りじゃない。
「サーシャ、それは殆ど暴言だよ。ジジイじゃなく、おじいちゃん。ガキじゃなくて、子供」
と、丁寧に教えると、サーシャは言い直した。
「上から目線がうざい禿散らかしたおじいちゃんと、乳臭い子供」
うーん、言い直した結果ガッツリ暴言。これ、サーシャってば怒ってるな。俺達では無く客人に。
この暴言レベルに至るサーシャは見た事が無いが、何故だろう、悪い予感はしない。
「因みに、名前は?」
そう問うと、サーシャは答える。
「歳寄りのほうはドズゥ・ハッシュバル。子供のほうがミリアム・ハッシュバル。――ケイシー・ハッシュバルの紹介で来た、職人」
と。




