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第6話・社畜癖は抜けないようで

 蓄魔力器の作成に必要なのは、魔力を蓄える物質と、魔力を通さない物質だ。そこで目を付けたのは主に防具に度々みられる、魔法攻撃の威力軽減効果だった。


 町へ行き、ギルドへ行き、鍛冶屋へ行き調べまわった結果、ワーウルフの毛皮とカタパルトタートルの甲羅あたりが、比較的安価の素材の中で最も近いと思った。


 魔獣の素材以外でも色々と検討している。色々な壁を用いて、壁越しに魔法が発動するかどうかを、シャーリーと二人で確認した。


 まず障害物についてだが、光らせようとする場所が見えているか否かは極めて重要だった。何で実験した場合でも、見えない場所を照らす事は出来なかったのだ。


 光魔法は根源魔法(こんげんまほう)と呼ばれる種類の魔法で、自分の中のエネルギーを魔力に変換し、それを放つ事で魔法を発動している。根源魔法において、見えない場所へ魔力を送る事は出来ないという事。


 次に試したのは、照らす場所は見えているが、手は壁に阻まれている状態だ。これが面白かったのは、シャーリーはその状態でも、試した全ての物質で光魔法の発動に成功し、俺は全てに失敗したことだ。練度による影響かもしれないが、アルフレッド兄に聞いても理由は解らないとの事で、お蔵入りした。


 さて、ではこの状態ではどうなるか?


 俺は適当な木箱の蓋を開けて、中身をどけて、その中に土くれのフィラメントを入れる。そして俺にだけそのフィラメントが見えるようにした。


「シャーリー、これでフィラメントを光らせられる?」


「え、あ、は、はい、や、やや、やってみます」


 結果は失敗。光らなかった。


 ならば、と、その木箱を使い、アルフレッド兄が最初に作ってくれた大きな土くれのフィラメントの上半分を隠した。


「これでやってみてもらえるかい?」


「え、あ、はい」


 結果は――成功だ。全体が光った。


 上半分はシャーリーには見えていないはずなのに、下半分に光魔法を使う事で光魔法は全体に伝播した。つまり、見えない場所に魔法を放つ事は出来ないが、見えない場所にも魔力は伝播するという事。魔法使いじゃない人間でも使えるようにするためには絶対に必要な条件だったから、成功して良かった。


 さらに次だ。


 スレイン兄がさっそく狩ってきてくれたワーウルフ。その毛皮と爪を融通してくれた。それに手を伸ばしたところで、


「ふわ、あ……」


 シャーリーが大きなあくびをした。そういえば、夕餉(ゆうげ)を終えた後しばらく夢中になってしまっていた。


「ごめんねシャーリー、つき合わせちゃって。流石にもう終わろうか」


「いえ、あ、いえ……はい、す、すみません、ちょっと、限界です……」


「俺のベットで寝ていくかい?」


「ふえ!? い、いいいいい、いえ、さすがに、さすがにそれ、そ、それは……」


「無理をさせちゃったから、ご褒美だと思ってよ。こういうのもなんだけど……貴族のベット、体験してみたくない?」


「そ…………それ、は…………」


 シャーリーは動揺していた。当然だ、眠い時の寝て良いよという言葉の誘惑、休んで良いと言われた時の魔性たるや、過労死するほど働いた俺にはよく解る。


 会社が入っているビルの守衛所の休憩室、そこで借りたシャワールームや横になれるソファーの極楽度と言ったら、あれを表せる語彙はこの世界に無い。現代日本で言うと『真冬に入る熱々のお風呂』や『真夏の猛暑の中でクーラーガンガンの部屋に入った瞬間』の快楽だ。


 その快楽を前に遠慮しているようなので、俺は言った。


「遠慮しないで。寝て良いよ」


「は…………はい……。あの、寝間着を、取ってきます」


 そうか、メイド服のままでは眠れないか。失念していた。


「いや、これを使うといい」


 僕は部屋の隅にある木箱をひとつ開け、その中から簡単な服を取り出した。俺のサイズでは小さいが、これはアルフレッド兄が着れなくなったから早めに頂いた御下がりだ。


 10歳のアルフレッド兄が着れなくなった服。14歳にしては小柄なシャーリー。丁度良いと思ったら、どうやら少し大きそうだ。


 でも


「貴族の服で寝てみたくない?」


 にやり、と誘惑の笑みを浮かべる。服の感触は貴族と庶民では全く違う。現代日本のように誰しもが柔らかい服で眠れるわけではない。


「え、え、え」


 シャーリーが震えながら俺に近付き、その服に手を伸ばす。


「そ、そん、そんな……無礼では、ないでしょうか……私の、私のようなメイドに、こ、このような……」


「こういうのはね、断るほうが無礼な時もあるんだよ。だってシャーリー、子爵家のメイドだよ? 場合によっては男爵家の妻になる事もあり得る。勉強だと思ってさ。……そうじゃなかったら、一般人では一生体験出来ない貴族体験だよ? この体験をどうするかは君次第だけど、貴重なんじゃないかな」


 シャーリーが俺を見た。


「で、で、でで、でも……私ごときが貴族様の……いえ、あ、アルフレッド様から頂いた、アルメル様のお洋服を、お借りする、なんて……ぶ、無礼です……」


 伸ばしかけた手を掴んで、俺は答える。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。君にベットと服を貸したいと思えるほど、俺はシャーリーの協力に感謝しているんだ。褒美を受け取ってくれないかな」


 普通に考えたら、ただパジャマとベットを貸すだけ。現代日本ならなんのお礼にもならない。でも、この時代では、これですら褒美になる。


 少し貯金をすれば泊まれる旅館や高級ホテルなんて無いのだ。上級冒険者用の高級宿だって、その領地の領主以上の部屋なんて用意して良いはずが無い。いつもより良い布団・良いパジャマで寝る機会など一生無い。永遠に身分相応の寝具しか体験できないのだ。


 このあたりもいつかは、とは思うが、政策について俺は口出しをしないと心に決めている。領主になるのはスレイン兄だ。俺では無い。


 なら、俺が贅沢をさせてやれるのは、俺の手の届く範疇だけだ。


 直近で言うならシャーリー。この子だ。この子は最近、夜な夜な付き合わせている。この付き合わせている日々に後悔なんてさせたくない。そのためには『やりがい』なんていう自己満足に頼ってはいけない。


 ……思い出す、工事の仕事を斡旋した零細企業。代表である親方さんや出世頭の若手は、ギンギンに冴えた目をして「自分やれます、やらしてください」と言うんだけど、下の人間が疲弊しきって着いてこなくて崩壊した。仕事にやりがいを見出してハイになっていた人と、ハイになれなかった人の温度差。それによって、優秀な零細企業がひとつ倒産した。


 やりがいになんて頼ってはいけない。()()()()()()()()()()()()()()。くらいのほうが、俺としてもやりやすいのだ。


「あ、あり……ありがとう、ござい、ます……」


 シャーリーは部屋の隅で着替えを始める。俺は実験を再開した。安心して欲しい、心は30歳前半、身体は5歳。14歳に欲情する要素が無い。


 多分この身体が性に目覚めていないからだろう。俺の性的嗜好は前世から引き継がれた精神に由来する。しかもこの身体が性に目覚めていないおかげで性欲は無いのだ。ただただただただ、可愛いとだけ思える。


 精神年齢30前半の俺からしたらひょろがりの14歳は本当に性の対象外。庇護対象だ。


 やっぱり可愛いのは20代後半のフレイヤ。フレイヤたんハスハスである。でもフレイヤたんの……流石にリセットしよう。フレイヤの事を考え始めると実験が止まる。気を取り直して実験を再開する。


 ふと、後ろですすり泣く声が聞こえた。


 もしかしたらそれは、貴族と平民の暮らしの差に抱いた不満かもしれない。


 これも先輩の教えだが、経験には二種類あるらしい。あくまで先輩の個人的な教えであって、権威ある教育者のそれでは無い。が、先輩いわく、身になる経験と、味をしめる経験。経験には、この二種類があるらしい。


 経験した事を、もう一度味わうためにはどうすべきか、とか、他の誰かにも味わってほしいから、と、自分を磨いて、力を付けたなら、その経験は身になり、力となる。


 経験した事を、ただ繰り返せば同じ贅沢が出来るとか、こうすれば他人に責任を押し付けられるんだと気付き、他責する術ばかり着いたなら、その経験は贅肉となり、ハンデとなる。


 シャーリーがこの経験をどう扱ってくれるかは、俺の知ったところでは無い。知ったところでは無いのだが、何故か根拠の無い安心感が、俺の胸を支配して、心地よいひと時にしてくれた。


 大丈夫、この子なら、大丈夫。


 俺はちゃんと、土くれのフィラメントは使用せず、元の弱い光魔法だけで実験を続ける事にした。

ToDoリスト


・媒体の選定。 ←clear

・蓄魔力器の作成。

・回路とスイッチの作成。

・必要な場合はコンデンサと抵抗器の作成。

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