第12話・そういう事になったようで
「お見事。流石は王国の盾だ。まさかAランクの冒険者パーティーとクリスティーナに圧勝とは……噂以上のようだね」
ルーサー公爵が拍手しながらスレイン兄に歩み寄る。スレイン兄はお辞儀をしながら答えた。
「こちらが提案したルールですので、有利なのは当然です。それに、アルメルの強烈な光魔法があったおかげですよ」
ここで俺に話を振られても困る。どう考えてもスレイン兄の性能がおかしいのだ。
「俺の光魔法は全員の視界を奪うので、スレイン兄さまの強さが無ければただの時間稼ぎでした。スレイン兄さまありきですよ」
謙遜では無く本心からそう言うと、ルーサー公爵は苦笑する。
「その歳であの規模と強さの光魔法を行使出来るのだから、アルメルくんも十分強いよ」
まぁ、そこは流石に異世界転生が故のチートだろう。0歳から物心がつき、勉強出来ていたのだから、俺に歳は関係ない。
それからも少しの間、ルーサー公爵による称賛と、俺とスレイン兄の謙遜の応酬が続いた、次の瞬間、
「というかね、正直ね」
ルーサー公爵が少し俯いて、言葉を続けながら顔を上げると――
「娘に上を見せてくれて、本当にありがとう」
――ルーサー公爵、唐突の号泣である。
「!?」「!?」「!?」
俺、スレイン兄、お父様、3人のリアクションが重なる。全員同時に後方に緊急回避レベルの距離の取り方をした。
良い歳したおっさんが号泣している。
大事なことなのでもう一度言う。いい歳したおっさんが、号泣している!
「誘拐されても自力でなんとか出来ちゃうからってわざと無抵抗になるような子だよ? 視界全方向を透視まで出来る上で生物限定の念動力が使えるような子だよ? 髪色、目の色からして外に出せず、閉じ込めて勉強ばかりさせてたせいで頭脳も大人びてしまったような子だよ? ――こんなん世間を舐めちゃうでしょ、舐めてたもんこの子」
ああ、確かに初めて会った時、少し違和感があったんだ。ルーサー公爵、クリスティーナに指示されて動いてるような感じ。
「そんな娘に、上には上が居ると教えてくれてありがとう。この子を負かす事が出来たのは、君達が初めてだ。子供があまりにも優秀過ぎると、親としては、手本になれない罪悪感が拭えないんだ。未熟なこの身に代わり、強者であってくれて、ありがとう」
すごく良い事言ってる感じなのに良い歳した大人が泣いているというインパクトのせいで感動出来ない!
そう思っていたら、追い打ちが来た。
泣きわめくルーサー公爵の手を取ったお父様が、
「――めっちゃわかります」
一緒になって大粒の涙を流していた。
「!?」「!?」「!?」
俺、スレイン兄、クリスティーナが続けて困惑する。お父様、泣くって機能あったの!?
「これですよ、これ。俺の息子達、これ。長男は18歳にしてもう俺よりも剣の腕は上だし、次男は魔法学校に気に入られて教授の手伝いとか言って帰って来なくなってるし、三男に至っては謎の天才だし。これですよこれ。父親としてどう接したら良いか解らなくなりますもん」
それはそう。
俺は前世の記憶持ちの異世界転生チートなので仕方ないが、長男と次男まで天才ともなれば、俺が親の立場なら心が折れている可能性もある。でも自分の息子を『これ』呼ばわりはひどいと思う。
「適度な天才だったらどれだけ気楽だっただろうね……。世界変わっちゃうレベルの才能だよ、この子達……」
ルーサー公爵もルーサー公爵で親馬鹿込みで感情が暴走しているし。
しかし、親の気苦労として思いを寄せると可哀想な話ではあるのだ。例えばお父様は既に自分の息子に剣術で劣ってしまっている。実はこれは3年ほど前から既にそうだった。その状態で、親としての威厳とプライドを保ちつつ、間違った道へ進まないように導く事は困難な事のはずだ。ルーサー公爵とお父様はお互い、異常値の才覚を持った子供を持ち、親として苦しんだ同志なのだろう。ようやく出会えた同じ境遇の存在。きっと語らいたい事も多いだろう。
だが残念。大人の男が意気投合したら、話し合いのみで夜が明ける事を知っている俺が、ここに居る。
そう。そうはさせない、と。
「2人とも、その手の苦労話は今夜、酒のツマミにとっておいたほうが、有意義なひと時を過ごせるのでは?」
「!?」「!?」
驚愕するルーサー公爵とお父様。そう、大人ならばこの誘惑に勝つ事は難しい。すなわち、酒の席での語らいの誘惑に。
今この場での話を進めるためには、彼らの意気投合をいったん止めなければならなかった。そうじゃなきゃ話を進められないから。
「それよりも、話を元に戻しましょう」
手を叩いてそう提案する。そう、話が脱線し過ぎている。元々の話に戻さなければならない。
元々の話。それはすなわち……
すなわち……。
すなわち。
「……………なんだっけ」
なんでこんな戦闘訓練レクリエーションみたいな流れに?
見ると、お父様もルーサー公爵も首を傾げていた。
クリスティーナを見ると、彼女も首を傾げていた。
サーシャ、シンシアに視線を向けても知らぬ存ぜぬ。話し合いの場に居なかったジャンにも、縋る思いで目を向ける。
こう、強烈な出来事があると前後に何をしてたか思い出せないの、あるあるだよね……。
「あ」
と、思い出したらしい反応を示したのはスレイン兄だ。
視線を送る。しかし、スレイン兄は露骨に目を逸らした。
「スレイン兄さま、なんの話でこのような事態になったんでしたっけ」
聞いてみる。しかし、思い出しているはずのスレイン兄はすっとぼけた。
「僕も思い出せないな」
と。
いや、絶対思い出したよこの人。
とはいえ、スレイン兄のことだ、口は割らないだろう。なら、自分で思い出す必要がある。
えっと、戦いになったのはまず、クリスティーナの「自分は化け物」発言がきっかけ。スレイン兄の気遣いによって、化け物を自認する女の子を人間に戻す事が出来た。
では何故、クリスティーナが「自分は化け物の類」と言ったのか? それは確か、強さを誇示するためだ。
では何故強さの誇示が必要だったのかというと、俺と一緒に辺境の村で暮らす事になっても大丈夫か? という疑惑に対して、クリスティーナが「私強いんで大丈夫っす」と主張していたのが発端で、
「あ」
これ、俺達勝ったらいけないパターンだった可能性ある。
「「あ」」
お父様とルーサー公爵も話の流れを思い出したらしい。
最後に、
「あ」
と、クリスティーナも話を思い出す。
そう、これは、クリスティーナを負かして、上には上が居ると証明する事で、化け物では無いと伝えるための勝負でもあると同時に、クリスティーナが俺と一緒に村で暮らしても自衛出来るほどの強者である事を証明しなければならない戦いでもあったのである。
…………ほんとどうしよう。
「い、いやあ、はは、どちらも素晴らしい実力でしたな」
わざとらしくお父様が言う。
「そうですわ、両者実力が拮抗した良い勝負でしたわ!」
クリスティーナが取り繕う。
「自分も、ギリギリの戦いでした!」
とかスレイン兄が言うが嘘つけお前は戦いの最中に相手にアドバイスまでしてたやろがい。
勝敗の結果に関わらずクリスティーナはちゃんと強かったよと主張する方針が固められそうな中、しかし、俺は言う。
「安全圏が、クリスティーナの望みなのですか?」
と。
これはリスクこそあれど前世で培った営業スキルのひとつ。すなわち、論点のすり替えだ。
皆がクリスティーナの安全にばかり終始して物事を考えている。だからこそ、ここでそのゴールポストを動かす。
「危険な村にクリスティーナが送られ、そこでクリスティーナが魔獣や野盗と戦った場合、クリスティーナは村人を守った事になります。その栄誉を与えたいとは、誰も思わないのですか?」
真面目な話に戻した! コメディーな空気から一気にシリアスな議題に持ち直すというのは会議の場では大きなアドバンテージを持つ。緩さからの緩急で話題の緊急性が増すためだ。
行ける。この交渉、俺が有利だ!
と、意気込んだというのに、
「ま、まあそうだね、その通り。クリスティーナの活躍の場を、奪ってしまっていたね」
と、なんとか話を合わせるルーサー公爵と、
「いや、女にとっては栄誉より安全じゃないか」
と、時代に相応しい倫理観のお父様と、
「ごめんねアルメル、戦場はそんなに単純なものじゃない。絶対評価と相対評価というものがあるので、活躍すれば栄誉か否かはその都度その都度変わるから、状況に併せて適した対応と評価が必要になるんだ。だからね」
現代日本の人事部みたいな事を言い始めたスレイン兄に関しては完全にノイズなので無視させてもろて。
ひとまず、勢いに任せて、俺は宣言する。
「クリスティーナは、俺が15歳になったら結婚して、一緒に、村で暮らす。構わないかな!」
「構いませんわ!!」
両者とも、テンション迷子だし状況の混乱もあって自棄になっている事は否めないけれど。
ともかくである。
そういう事に、なったのである。




