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異世界貴族に転生したけど思ったより不満だったので  作者: 南乗七史
第3章・食糧事情が問題だったので
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第10話・最強の味方は最強の敵なようで

「来ましたわ!」


 来てしまった。


 初めて会った日から半年が経過し、冬をひとつ越したある時、婚約者であるクリスティーナが大きな荷物を持って来訪した。今の所はまだカツラ&目を閉じているバージョンなので、盲目の普通の人状態のクリスティーナ。あの下に神秘的な瞳と髪色が隠れている事を考えると、カツラを作った人間は偉大だな。俺か。いや、前世の記憶のパクリなのだけど。


 彼女達を玄関で出迎えた俺達を代表して、お父様が一歩前に出る。


「ようこそおいでくださいました、ルーサー公爵閣下、クリスティーナ嬢」


 ルーサー公爵とクリスティーナの荷物は、まずはルーサー公爵家のメイドや使用人が受け取る。それを見たこちらのメイド達が、ルーサー公爵家のメイド達を案内する。


 それらを横目に貴族達は挨拶の時間だ。


「歓迎に感謝するよ、ファラン子爵。それと、あまり畏まらなくて良い。これから我々は身内になるのだから」


「それは……はは、少々難しいですな。敬愛するルーサー公爵閣下に馴れ馴れしくは出来ませんとも」


 表向きは差し障りないやりとり。でも立場を考えると色々な裏がある台詞だったりするかもしれない。そのあたりは知らないふりをしておこう。


 一応、この場の主役は俺でもある。スレイン兄がぽんと背中を押してきたので、俺も前に出た。


「クリスティーナ様。お久しぶりです。またお会い出来てうれしいです」


「…………」


 クリスティーナは答えない。目を閉じた状態で、しかし魔眼で見えているので俺のほうにしっかりと顔を向けているが、その唇は最初の「来ましたわ!」から一向に動かない。


「あの、クリスティーナ様? お疲れになられたのでしょうか?」


 重ねて問うと、クリスティーナはわざとらしく、顔を横に背けた。


 え、なに、どうしよう、社交界的な挨拶、間違えた?


 そう思っていたところに、助け船をくれたのはルーサー公爵だった。


「アルメルくん、もしかしたらクリスティーナは、口調が気に入らないのかもしれない。以前、対応に話してくれていただろう? クリスティーナはあれを大層気に入ったようなんだ。試してみてくれないかな」


 え、半年前の事なんて覚えていない。俺、そんな事してたの? と考えて思い出す。そして記憶の底から出て来たのがこちらの台詞。


 ――いいよ、おいで、クリスティーナ。好きなように操ってごらん?


 なんならちょっと上から目線なくさい言い方してた。え、待って恥ずかしい。やばい死にたくなってきた。黒歴史じゃんこんなの。


「えっと」


 そうなれば仕方ないと覚悟をするが、思い出した内容の恥ずかしさが勝って続きの言葉が出てこない。


 いや、違う! 解った、これはあれだ、年相応というやつが芽生えたせいだ!


 前回クリスティーナと会った時、俺のこの身体はまだ性欲的な意味では思春期に入っておらず、前世の記憶の価値観でのみ喋れていた。しかし、この半年の間で俺は、11歳になろうとしているこの身体は性欲が芽生えてしまった。同年代の女の子がやたら可愛く見えてしまう病気に。


 つまり、俺は今、年相応に、照れているのだ!


 うわぁ、懐かしいこの感覚。そうそう、こうだったこうだった。


 と、懐古に浸っている場合では無い。レディーを待たせているのだ。覚悟を決めろ。


「久しぶり。会いたかったよ、クリスティーナ」


「私も、会いたかったよ、アルメル」


 ひょいっと簡単に機嫌を直し、こちらに笑みを向けてくれるクリスティーナ。こちらもすかさず笑みを返す。これは流石に思春期男子の身体に任せるわけにはいかないので、前世の営業スキルで身に着けた営業スマイルを装備した。


 ふう、危ない危ない。


 おそろしく可愛らしい顔。俺でなきゃガチ恋しちゃうね。


 そのやりとりを見届けて、お父様が言う。


「歓迎の準備が出来ています。こちらへ」


 それに続くため俺も、精一杯に理性を保ちつつ、クリスティーナに手を伸ばす。


「一緒に食堂へ行こう」


 クリスティーナが俺の手を取り、エスコートを受け入れてくれる。その瞬間に、理性で抑えられなくなった胸の高鳴りが暴れ出す。柔らかい女の子の手。これもまた、久しぶりの感覚だった。


 というのも、この世界の人は女性に至るまで肌が硬い。メイド達は毎日のように雑巾や掃除用具、重いものの運搬までしているため、皮膚は身体を守るため分厚くなっている。前世の元カノと繋いだような手の感触というのは、あまり無い。因みにサーシャは皮膚の柔らかさでいうと論外である。彼女は戦士なので、普通に俺の前世よりも筋肉質だし、皮膚も強いだろう。


 お父様とルーサー公爵が喋りながら先頭を歩き、その後ろで俺がクリスティーナをエスコートする。その後ろにスレイン兄が続いている。


 ……この状況、スレイン兄は気まずくないのだろうか、と思い後ろをちらりと見ると、スレイン兄はめちゃくちゃ満足そうな笑みでこちらを見ていて、目が合うと何故かうんうんと頷いてみせた。どうやら、気まずくはないようだ。




 ―――――(◇◆◇◆◇)―――――




 食堂では簡単な食事という体で、ファラン家にとっては最高品質の食事が提供された。公爵家への歓迎なのだから、背伸びしすぎて困るという事は無い。


 食事を終え、デザートと紅茶が出される。


「さて、そういうわけで、これからしばらく、娘を頼むよ」


「ええ、お任せください。それと実は、アルメルが15になったら近くの村を任せる約束をしているのですが、その辺りはいかがでしょうか。すり合わせが必要なようでしたら、相談したく」


 言われて思い出す。すっかり忘れていたが、俺は数年前にサングラスとカツラを開発して突然変異の人たちが姿を隠せるようになった褒美として、村を貰う事になっていたのだ。


 だが、確かに思えば、公爵家の娘を嫁に貰うとなると、村暮らしは少しまずいのかもしれない。生活水準の差に、クリスティーナが耐えられない可能性はある。


「村……か。あまり聞きたくないが、どうだい、クリスティーナ」


 渋々と言った様子でルーサー公爵が尋ねると、クリスティーナは――ヨダレを垂らしていた。


「いいんですの? 村に、行ってしまって」


 その恍惚とした様子。本気で行きたいらしい。


「虫とか多いと思うよ?」


 女の子が嫌いそうな要素をひとつ提案してみると、クリスティーナは笑顔で予想外の返答をした。


「可愛いわよね、虫」


「え、虫、好きなの?」


 因みに俺は嫌いだ。小学生の頃は平気だったのに、知らない間に気持ち悪い! ってなってたんだよな。


「好きよ。ほら、虫って、小さいでしょ? ひとつの筋肉が占める行動の幅と重要性がその分大きくてね、ちょっとだけ筋肉の動きを操るとすごく変な動きするの! 加減しないと死んじゃうんだけど、今はもう加減出来るから大丈夫だよ! アルメルは虫好き?」


「普通の会話です、みたいな感じで続けようとしてるけど、かなりおかしな所があったからね? 『これ好き。あなたは?』ってノリで済ませるにはとても重大な情報が組み込まれてるからね?」


「確かに、食事の場で死んじゃうって表現は不適切だったかも……ごめんね。でも大丈夫、間違って殺しちゃっても、筋肉を操れるから簡単に動かす事は出来るよ。外に追い出すくらいまでは触らなくても出来ちゃう。だから、アルメルが虫を嫌いでも、その除去を、触らずに出来ちゃう」


 悪戯達成した猫を彷彿とさせる口元の笑み。瞳は閉じられているのに、表情というか、表現が豊かなのだとはっきりと解った。


「うわ待って、ごめん虫嫌いだからその性能すごく助かる」


 どうやら虫問題は問題無いどころか好都合過ぎるらしい。


 次の懸念点はお父様が出す。


「アルメルの開発を手助けするに足る、資源豊富な場所を候補にしている。その分魔獣・魔物も多いと思うが……」


 との事。それは重大かつ死活問題だ。俺にとって、は、魔獣や魔物の素材が集まる好立地。だが、公爵家の娘が住むには不適切な可能性がある。


 クリスティーナは答える。


「問題ありませんわ。私、自分の身は自分で守れますのよ」


 と。


 そうは見えない。見た目は華奢な上に、この世界のこの時代には珍しい、現代日本人並みの柔肌の持ち主。まともに剣すらも振るえないだろう。


 しかし懸念なのは()()か。能力ひとつで、あらゆる敵を排除できるチート性能が彼女にあった場合は、どこに住まわせても問題にはならない。


 説明を続けたのはルーサー公爵だった。


「その子は突然変異の中でも特級で、それを知った使用人が金を目当てに盗賊やスパイ、傭兵を使って誘拐を試みた事が何度もあった。だが、誰に誘拐されても自力でなんとか出来るからこそ、冒険目的でわざと誘拐されようとする子なんだ。この子に戦いは教えていないが、多分この国、ディグステニアの中でも、戦力としては上位だと思う。……だからこそ戦わせたくはないんだけどね」


 との事。


 その言葉に、目を輝かせた男が居た。


「王国有数?」


 今までカカシになりきって完全に無言だったはずの、スレイン兄だ。


 ここに居る誰もが、最低限の発言のみでやり過ごそうとしているスレイン兄の行動を理解していた。そのはずなのに、唐突に彼が自ら話題に参加する。その理由は明確だ。スレイン兄は強い。だからこそ、強さに拘りと興味があるのだ。


 そのスレイン兄の反応に、クリスティーナは知ってか知らずか、胸を張ってその眼を開き、ピンク色の瞳と、虹彩に浮かぶ魔法陣を見せつけながら、こう答えた。


「私は突然変異。人ではございません。魔獣化した人、化け物の類ですわ。人も魔獣も、殆どが私より弱いです!」


 と。


 アピールのつもりなんだろう。自分の特徴を、彼女なりに有能だとアピールしている、そのつもりなのだ。そう、その、つもり。10歳前後の未熟さが前面に出てしまった失策。


 あとはもうスレイン兄の理性に頼るしか無い。スレイン兄がこの『アピールのはずが挑発になってしまっているクリスティーナ』を流せるかが、温厚に話が進むか否かの分かれ道になる。


 そう、思っていた、はずなのに、


「はは、あなたは人ですよ。化け物になど、遠く及ばない」


 スレイン兄は、当たり前のように、そう言った。


 自分を化け物だと言ったクリスティーナ。あなたは人だと言ったスレイン兄。


 スレイン兄は爽やかな笑顔のままで続けるのだ。


「愛する弟の結婚相手が化け物を自認するなら、人に戻すのも通過儀礼かと思います」


 おっとー、これはスレイン兄が理性的な上で一番ヤバい展開になるか? と思ったが、


「スレイン、お前と戦えというのはあんまりな話だ。代役を立てるのも失礼な相手。撤回しなさい」


 とお父様が言う。


 ちょっと決闘の流れになっていたので、制止してくれるのは有難い。公爵家と子爵家の決闘において、公爵家は実の娘が出るのに、子爵家はただの接待騎士、とあっては当然ながら失礼だろう。決闘が始まってしまったら、接待の都合上、こちらはそれなりの戦力を出して適度に負ける必要が出てくる。


「撤回しません、お父様。申し訳ございませんが、僕はお父様とは考え方が違う。僕にとっては、国や領地の未来と、家族の幸せこそが最も重要なんです。ファラン子爵家とルーサー公爵家との格の違いなど、武力でもって均等に出来る程度の不利と考えています。その上で、僕は思うのです」


 そして、スレイン兄はこう続けるのだ。


「最愛の弟を、化け物と結婚させるわけにはいかないでしょう。結婚させるならば、人に戻さねばなりません。いかがでしょうか、ルーサー公爵閣下。護衛の冒険者や騎士は連れているのでしょう? クリスティーナ嬢と合わせて、そちらからは何人出して頂いて構いません。僕が守護するアルメルを捕まえる事が出来るか、という、勝負をいたしませんか?」


 と。

ToDoリスト


・既存の農業の問題点の発見及び改善。

・場合によっては問題解決のための装置開発。

・生産量を増やすための土地と人員確保。

・場合によっては効率化のための道具開発。

・場合によっては調理器具の改善。

・新料理開発。

・新料理のレシピ拡散。

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