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第4話・推しがあまりにも可愛かったので

「なぁアルメル、これはなんなんだ!? まるで昼の明るさだ!」


 アルフレッド兄が光る土くれを見て大はしゃぎする。


 分子という言葉は、この世界の技術では解明されていないオーバーテクノロジーなので、そこを省いてどう説明しようかと考える。


「光魔法は本当は、空気中をそのまま照らすより、何か物を光らせたほうが、明るく、安定した光になります。ですが、魔力で内面まで満たさないといけなかったので、魔力消費が尋常じゃなく、現実的では無かった。少しでも外に露出している面積が多く、露出していない面積が少ない形状の物が必要でした」


「……それでこの形なのか!」


「はい。その上で、職人ではなくアルフレッド兄さまに作ってもらったのにも理由があります。妖精魔法で作ってもらった事で、この塊の中は既に魔力で満ちている」


「……魔力で満たす分の魔力を、節約できる」


「そうです」


 流石アルフレッド兄。10歳でこの話に着いてこれるなんて、間違いなく天才だ。


「そうか、だから最初はあんな複雑な形を要求したのか……。なぁアルメル、これってもしかして、この棒状の部分は多いほど良いのか?」


「ええ、その予定です。その、まだ実験途中ですが」


 今は土の棒16本を組み合わせた立方体。欲を言うと倍は欲しい。さらに言うと半分のサイズが好ましい。フィラメントだけでこのサイズだと、他のパーツも合わせたら、運搬困難な代物になってしまう。


「お父様には報告せず温めているようだが、どの状態になったら報告するんだ?」


「目指している物が完成したら、ですね。完成しなければただの遊びなので」


「目指している物とは、なんだ?」


 言われ、そこで、名称を考えていない事に気付く。


 現代日本では電灯と飛ばれたもの。電気の灯りで電灯なら、もちろん


()()()です」


 アルフレッド兄さまが息を呑む。


 俺は続けた。


「可能であれば、光魔法の使い手が光魔法を込めておけば、いつでもそれを使えるようになる、そんな装置を目指しています」


「そんなっ……、せ、世紀の大発明だぞ! お、おおま…………あぁ、やはり神童はおそろしいものだな……」


 焦らせてしまっている。それはそうだ。5歳にしてはやりすぎているという自覚はある。でも我慢出来なかったんだもん。無理無理。お父様の前では無理してませんとか言ったけど全然無理するよね。だってこの生活が無理なんだもん。多少の無理くらいするよ。だって無理なんだもん。


「そうです、アルフレッド兄さま。どうですか、その世紀の大発明に、一枚噛んでみませんか?」


 右手は石くれを光らせているため、左手を差し伸べる。ここぞとばかりに光魔法で左手の周りをかすかに光らせる。


 アルフレッド兄はその手を見つめ、そして俺の右手の先にある土くれを見つめ、言った。


「俺は何をしたらいい。いや、何を出来るようにならなければならない?」


 その言葉はどこか緊張しているようでありつつも、明確に高揚している。


 俺は言った。


「――まずは硬度を倍に。そして大きさを半分に」


 その言葉にアルフレッド兄はにやりと笑い、俺の手を取った。


「やってやろう」




 ―――――(◇◆◇◆◇)―――――




 実のところ、魔力を溜める装置、蓄魔力器の構想は出来ている。あれを使えば行けるんじゃないかと思い、とある日の昼過ぎ、スレイン兄の所へ向かった。


「スレイン兄さま!」


 剣の素振りをしていた兄さまに遠くから声を掛ける。だが、スレイン兄は気付かない。


「スレイン兄さま!」


 5メートルくらいまで近付く。


 え、待ってこれで気付かないの?


 すごい集中力だ。


「あ、ああああの、い、今お邪……その、稽古をさ、中断する? のは、よくな……えっと、遠慮したほうが、よいのでは……ないでしょうか」


 俺の後ろに着いてきていたシャーリーが言う。それもそうだ、と納得して少し待つ。


 剣道の面のような縦振りから型が変わる。野球の構えで前に出るスイングもっと前に出る番みたいな動きに近い。それを、色んな低さ・高さ、下半身の形から織りなす。どんなステップ、どんな角度からでも、剣の振り方だけは変わらない。


 もう少し待つ。


 右の構えだけでなく、今度は左の構えで同じ型を真似る。左右であまり狂いが見られない。素人目に見てもしっかりと作りこまれた剣技だと思える技だった。回避行動からスムーズにカウンターを入れる、確かファラン流二の型の技のひとつだ。


 え、まだ続けるの!?


 構えが変わる。剣を肩に乗せ、身体を捻り、低く構える不思議な構え。ファラン流三の型のひとつ。


「ふああぁあっ!!」


 低い体勢からさらに低くなったかと思うと、肩の力で剣を素早く上へ弾く。そこで一瞬停止し、捻った身体を戻す勢いで回転切りを入れた。


 綺麗な剣筋……だけどちょっとぶっ続けでやりすぎじゃないかな? 無理はよくない。長男がこんなに無理をしていたら、お父様も心配性になる。


 さて、そろそろどうしようかと悩んでいるところに


「おや、アルメル様とシャーリーではありませんか。スレイン様に御用でしょうか?」


「!?」


 後ろから聞こえた声に、思わずときめく。凛とした声。はきはきとした喋り方。大人げの中に甘い可愛げが残る口調。


 振り向いた先には俺の推しでありスレイン兄お付きのメイド、フレイヤが居た。


 暗めの茶髪と暗い色の瞳、でもそのキリっとした真面目そうな表情で明るさの担保を取っている凛々しい顔。


「フレイヤ、おはよう」


「こんにちわ、でございます、アルメル様。この時間帯はもうおはようではなく、こんにちななのです。言えますか? こ・ん・に・ち・わ」


 かわいいぃぃ……。


「こんにちわぁ」


 いけない、笑顔とニヤケの境界線が熔ける。


「良く言えました。次からはもう少しキリっと言えたら紳士的ですよ」


「はぁい」


 溶けました。


「それで、スレイン様になにか御用でございますか?」


「ああ、うん、お願いがあって来たんだけど、かれこれ10分以上はああしているんだよね」


 言うと、首を傾げたのはシャーリーだった。


「じ、じゅっぷん……?」


「あ、ああ、そうだな……だいたいこの屋敷の外回りを歩いて二週出来るくらいの時間だよ。俺が勝手に自分用に作ったルール!」


 そう、この世界にはまだ細かい時間も無い。時計が無いのだ。いや、時計はあるが高級品で、しかも正確じゃない。正確に時を告げるのは教会の鐘のみで、とてもじゃないが一般に細かい時間を認識させる事が出来ない。


「わ、わかり、ました」


「ご立派にございます、アルメル様。ご自分で考えて、基準を作られる自制心をもうお持ちなんて。流石は神童にございますね」


 いけない、典型的な社交辞令なのにフレイヤに言われると嬉しくなってしまう。これはまずい。


 部下や取引先の甘言は間に受けるな、と警告してくれた上司が居たっけな。


『いいか、俺達大人はな、上に立てば立つほど褒められるようになる。でもな、本当は上に立てば立つほど褒められる機会は減る。本当は褒められる機会は減ってんのに、褒められる回数は増えんだよ。なんでか解るか? ――嘘だよ。俺らくらいの年齢は、嘘で褒められるって事を自覚しなきゃいけなくなる年齢なんだ。じゃねぇと、じゃねぇとよ……』


 その先輩は、そんな格言じみた事を、とても悲しそうに言った。


『イケメンだって褒められてきたから調子に乗って、アラフォーにもなって20台の若い子にアタックかけて……セクハラだって訴えられて転職なんて、御免だろ? 取引先や後輩は出世のために頑張ってただけ。俺は皆の言葉を信じただけ。誰も悪くねぇ。誰も悪くねぇのに、そんな悲劇が起きるんだよ』


 あの人は現代日本では元気だろうか。


「スレイン様の御用との事、承りましたわ。あの方の集中力は尋常ではありませんので、生半可な声かけで中断は不可能でございます。なので、私が止めますね」


 そう言って、フレイヤはスレイン兄の剣が届かない程度には離れた距離で、しかしスレイン兄の正面に立つ。正面に人が立っても気付かないのはもはや集中力と言えるのだろうか。


「!?」


 俺は驚きのあまり、その光景を目いっぱいに焼き付けた。


 踊っている。


 フレイヤが無表情のまま踊っている。


 伝え忘れていたがフレイヤは30歳手前くらいの年齢になる。現代日本では「まだまだ若いよ!」と言って貰える事もある年齢だがこの世界はそうでは無い。大人である事が求められる年齢だ。


 そんな良い年した大人が!


 30手前のクールビューティー、フレイヤが!


 ちまちまとした謎のセンスの無い踊りを踊っているのだ!!


 可愛い!!


「え」


 スレイン兄の稽古が終わった。

ToDoリスト


・媒体の選定。 ←clear

・蓄魔力器の作成。

・回路とスイッチの作成。

・必要な場合はコンデンサと抵抗器の作成。

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