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異世界貴族に転生したけど思ったより不満だったので  作者: 南乗七史
第3章・食糧事情が問題だったので
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第6話・問題点が複雑なようなので

 さて、波乱のルーサー公爵家来訪があったせいで忘れかけていたけど、俺は今、お父様から頼み事を任されている。「人口が増えない」という問題の改善策だ。


 10年くらい前、ディグステニア王国全土で疫病が流行し、沢山の人の命を奪ったという。その時に減った人口が回復しないのだそうだ。


 人口回復。


 人口回復かぁ……。


 取り留めもなく、庭のガゼボで深く腰掛けて考える。


 少子化が極まっていた現代日本から転生してきた人間に相談する事じゃないなっ! いや、本当に。そんな知識があったなら日本で使われていた。


 とは、ならない。何故なら当然、時代が違うからだ。


 現代日本……いや、10年も前だからとっくに現代では無いんだろうけど、俺的現代日本の少子化は、所説あるが『技術の飽和』が原因だったと俺は思っている。


 ・卓越した社会倫理によって独身でも変な目で見られない。

 ・子育てをするというイベントが無くても楽しむ娯楽が山ほどある。

 ・ある程度満たされている事がデフォルトなので、妥協してまで結婚する必要が無い。

 ・子供の将来のため学費が高く、沢山産むのではなく少数精鋭的な出産方式に偏る。


 などなど。


 ではこの世界はどうか?


 ・未熟な倫理観なので独身は男女とも白い目で見られる。

 ・娯楽なんて無いので子供を産んで育てる『役割』こそが、アドレナリンを分泌する最大の娯楽足りえる。

 ・基本満たされていないので、結婚して安定を求める必要。

 ・子供は貴重な労働力なので、ある程度の人数が必要。


 である。


 いやね、ほんと、異世界転生して不自由無く生活してる各種物語の主人公たちね。基本的に超ラッキーだからね? 現代日本人が中世ヨーロッパ風の時代で普通に生活なんて普通に無理だよ。たまたま運よく中世ヨーロッパな外見だけど現代並みの倫理観や生活水準が整った、なんちゃって中世ヨーロッパだから。


 まぁいい。それはひとまず置いておいて、この世界はつまり、子供を産む必要があるのだ。社会や国のためではなく、個人のために。


 それなのに、人口が増えない。


「そんなの、アルメル様でも無理難題じゃないっすか? 国王とかですら解決出来てない問題っすよ?」


 と聞いてきたのは、俺の私兵、シンシアだ。40歳くらいにはなるであろう、顔も身体も傷だらけの、俺専用の私兵。愛する我が忠臣は、ガゼボの中にも入らない距離感で、後ろ手を組んで立っている。


 お父様ではなく俺が直接雇用しているのは3人。この私兵シンシアと、突然変異の娘サーシャ&双子のリーシャだ。


 リーシャは現在、次男のアルフレッド兄に貸与している。その費用を借金として金品をせびるつもりは無い。全ては労働力で返してもらう。


 そういうわけで俺の手元にある俺のカードはシンシアとサーシャ。この2枚。シンシアは強いので最高。サーシャは強くて可愛いので最高。


「どうだろうな。解決にはまず理解が要る。それ次第、って感じかな」


「理解っすか?」


「そそ」


 自分の中で情報を整理するためにも、シンシアに俺の正面に座るよう促す。するとシンシアは、


「自分は護衛なんで、ここを動くわけには。今、茶を用意しているサーシャをそこに座らせるのはどうっすかね」


「有りだね」


 というわけで、俺達は待機する。


 3年前に一度荒れ果てた庭だが、使用人達の努力によって復活した庭を見る。草花はどこにでも生い茂る。この庭も、一度は草を失ったはずなのに、今では刈らなければ管理出来ない状態だ。


 虫も動物も魔獣も、、増えすぎて駆除するぞ! という運動は数多くあれど、その駆除活動の数に対して、保護活動はどれだけ盛んなのだろう。こう考えると、俺は思ってしまうのだ。生物は本来、増える事を前提として設計されている。と。


 その上で、他種族との競合や現実の厳しさによって失われる事で、割合が維持される。それが生物だ。


 では、人間は何によって失われている? 何故数が増えない?


「お茶、持ってきた」


 紅茶をガゼボまで運んできたサーシャはそう言って、ガラスのグラスを俺の前に置き、ポットを高く掲げた。降り注ぐ細い滝がグラスに注がれ、適度に熱を奪っていく。


 俺のだけガラス製のコップだが、あと2つ、木製のグラスも用意されている。その2つにも普通に紅茶が注がれると、シンシアが言った。


「俺は要らないぞ、サーシャ」


 サーシャは答える。


「シンシア。こういう時、断るほうがマナー違反。……合ってる?」


 最後の最後で俺に視線を向けて来たので、俺は苦笑する。ちょっと偏った教育をしてしまったかもしれない。


 まぁでも、現状では正解だ。


 俺は言った。


「護衛任務よりも相談相手が欲しいかな。相談相手が立っていると見下される形になってしまうから、俺も立ったほうが適切かな?」


 現代日本ならハラスメントの可能性もある発言である。『お前が立ってるなら、雇い主である俺も立ち続けなきゃあかんのう。ああ?』なので、普通に脅迫である。


 シンシアは諸々を察して、サーシャと共に俺の前に座った。


 準備が整ったので、早速話始める。


「人口が増えないということは、3つの流れがある。『産まれていない』か『死に過ぎている』か『産まれる数と死ぬ数が一致している』だ。どれだと思う」


 その言葉に、シンシアが答える。


「ディグステニア王国は今、他国とも他種族とも戦争状態に無いっす。死に過ぎって線は、今は無いんじゃないかと」


 続けてサーシャが言った。


「疫病以降、王国民が沢山死ぬ理由、無い。産まれる数と死ぬ人数が一致。そもそもおかしい」


 両者とも、俺と同じ解釈だ。


 死に過ぎてはいない。死に過ぎる特別な理由が無いため、産まれる数と死ぬ数が一致するのはあり得ない。ともすれば、産まれていないというのが、今回の人口回復が見込めないトラブルの重要ポイントだろう。


 産まれていないというのが重要な要素だとすると、


「となれば、産みたくないのか、産めないのか。それが論点になる」


 新生児が産まれない。それが、人口回復を妨げる要因である。なればこそ、産まれるようにしなければならない。


 なら、何故新生児が産まれないのか? それは、子供を産む親の世代が、産みたくないから産まないのか、産む事が出来ないからかで、実施すべき対策は変わる。


 対策は変わる。


 そう、変わるべきなのだが……。


「それを理解するのは不可能じゃないっすか? 子孫を残せなかった人に対して、『なんで子供居ないんすか?』と聞かないといけないっすよね。そんな質問、自分の状況を客観的に返答出来る人、居ないっすよ。必ず、嘘が付きまといます」


 俺の懸念事項を代弁してくれて嬉しい。


 そう、その通りだ。産みたくないのか、産めないのか。これは、客観的な調査は不可能だ。何故なら、産めなかった人も、プライド保全のため、産みたくないと返答するからだ。


 産みたくない。この感情は自身の選択だ。しかし、産めない、というのは、なんらかの実力不足が伴う。人間にはプライドがあるため、あけっぴらに「俺、子供養えるほどの稼ぎ無いっす!」「私、出産育児する体力無いよ!」と堂々と言える人間は少ないのだ。本当は先述の通りの理由でも、「こんな社会情勢で子供なんて、子供を不幸にさせてしまうから産みたくない」で通ってしまう。


 そして、それはあながち、嘘とも言い切れない。10年くらい前に疫病が流行った記憶を強く残した現役世代は、疫病に対策出来ないこの世界で子供を作って、子供と自分を守れるのか? この国は国民の命を守れなかった。なら、自分の命は自分で守るべきでは? と思考のるつぼに陥れば、子供を作らない事は自然な事とも言える。


 難しすぎる。少子化問題。


 だから考えるべきは、産めない人、産みたくない人、その双方にアプローチを掛けられる手段こそが至高だ。


 子供なんて産めない、と思う人が、子供を産んでも育てられると思える環境はなんだ?


 子供を産みたくないと思う人が、子供を産みたいと思える環境はなんだ?


 そこまで考えて、俺は気付いた。


 一見すると複雑怪奇なこの問題。極めてシンプルだ。


「ご飯だ」


 俺は言った。


 サーシャとシンシアが眉をひそめて首を傾げる。


 俺は続ける。


「栄養のあるご飯があれば、子供を産めない人は減る。美味しいご飯があれば、これを子供にも食わせたいと、子供を作る動機にもなりうる。人口増加低迷を解決する糸口は、美味しいご飯だ」


 と。

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