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異世界貴族に転生したけど思ったより不満だったので  作者: 南乗七史
第3章・食糧事情が問題だったので
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第5話・捏造は存外容易なようで

 俺がこの異世界でサングラスとカツラを開発したのは、ルーサー公爵の言う通り、突然変異の人間を守るためだ。そこに間違いは無い。だが、不可解な点がある。


 5年前に開発した魔法灯。これの販売権を手に入れたギルバート商会が、その魔法灯に俺の名前を使って『アルメルライト』という商品名にした。


 それを利用した、ちょっとした情報操作を行っていたのだ。


 そんなに難しい事では無い。目と髪の色が異なる突然変異をサングラスとカツラで隠しても、その2つが同じ場所で同時に開発されたとなると、突然変異を隠す道具だとバレてしまう。そうなると、目や髪を隠した意味が薄れる。


 だから、サングラスの販売権を与えたジーマン商会と相談し、サングラスを『アルメルグラス』という商品名に、人気冒険者には無料で配布するなどしてまで大規模に拡散した。アルメルライトという商品が巷でも広がっているため、魔法灯とサングラスは同じ開発者だと伝わるだろうし、同時に、アルメルという人間は開発した商品に自分の名前を付けるっぽい? という印象を与えられる。


 だから、カツラは小規模に、主に貴族向けとして、『カツラ』として販売してもらった。その温度差でもって、開発元が同じである事に辿り着きにくくしていたのだ。


 それがバレていた。


 いや、簡単なかく乱程度の作戦だから、そりゃ気付くところは気付くだろうが……。


「アルメル様」


 少し考え込んでいたら、両目を開けたクリスティーナが真っすぐにこちらを見つめていた。魔法陣が描かれたピンクの虹彩に目を奪われ、動けなくなる。そしてその顔の下、胸元で、手が謎の動きをしているのが見えた。


 彼女は言う。


「私と、婚約して頂けませんか?」


 懇願するような上目遣い。


 俺は答えた。


「まだ出会って数分ですし、どうでしょう、まずはお互いに()()()()()


 と。


 ん?


「え、いや、ちょっと待っ」


 訂正しようとしたが、クリスティーナは両手を頬に当てて「はい」と嬉しそうに答えている。いや、すごく可愛らしい仕草ではあるのだけどちょっと待って欲しい。


「すみません、今のはどうやら口が滑ってしまったみたいでして。やはり出会ってすぐに判断というのはお互いに良くないと思うので、ここはひとつ()()()()()()()()()()。――なんで!? なんか情緒不安定みたいな台詞になっちゃう!」


 もう少し関係を深めましょうと言いたいのに、それが言えず、何故かこの口と喉は勝手に求婚してしまう。そうか、これがいわゆる本能という奴か。結婚したいという本能が俺の言葉を捻じ曲げている。いや絶対違う。


 状況に見かねてフォローしてくれたのはルーサー公爵だ。


「クリスティーナ、失礼だよ。やめなさい」


「えー」


「えー、じゃない。アルメル君、申し訳ない、不思議な感覚だっただろう? それも、この子の力なんだ」


 ルーサー公爵はクリスティーナの頭をポンポンと叩きながらそう言った。


「だって、私今、人生初で一世一代のプロポーズが断られてしまいそうなのですわよ? 少しくらい夢見たって良いじゃありませんの」


 頬を膨らませるクリスティーナ。いや、断ろうとなんてしてないよ? 


「夢は眠った時に1人で見る物だよ。人を無断で巻き込んではいけない」


 むむ、と頬を膨らませるクリスティーナ。正直俺は彼女の見た目に一目惚れしているので、大喜びで受け入れたいのが本音だ。しかし、勢いで決めて良いものではなかろう。


 そんな事より、


「あの……え、今のが、力、ですか?」


「そうですの!」


 クリスティーナは、ルーサー公爵に向いていた身体を、ぴょいっという効果音が着きそうな跳ね方でこちらに向ける。そして、両目をしっかりと開き、また手を動かす。


 手を動かして、()()()()()()()


 クリスティーナが俺の手を掴んで挙げさせたのではない。クリスティーナの指先の動きに連動するように、俺の手が勝手に挙がったのだ。


 そして、何故か俺は言った。


「わたしは、クリスティーナを、愛してる」


 と。


「私もです、アルメル様」


 照れるクリスティーナ。


「こら、やめなさいと言っているんだクリスティーナ!」


 怒るルーサー公爵。


「嫌ですわ! 私決めました! この力でアルメル様の言質を捏造してでもアルメル様と結婚します!」


「決めるんじゃない! いや、決意するのは良いのだが、人の意思を捏造してはダメだ! すまない、アルメルくん、真に受けなくて良いからね。あと、クリスティーナ、アルメルくんの一人称は『俺』だ。間違えるのは失礼だよ」


「え、じゃあ言い直させますわ」


「やめなさいと言っているんだよ!?」


 ルーサー親子が楽しそうだった。


 しかし、合点する。なるほど、俺はさっきから、クリスティーナに操られていたらしい。感動のあまり声が出ない。すごく新鮮な体験だ。


 なるほど、なるほど、すごく楽しい! 乗るしかない! このビッグ悪ノリに!


 俺は言った。


「いいよ、おいで、クリスティーナ。好きなように操ってごらん?」


 クリスティーナは俺を操った時、自分を呼び捨てにさせた。敬意を払われるより、対等な感じが好みかなと思い、リスキーではあるものの、楽しくってついやってしまった。


「こらクリスティーナ、また変な事を相手に言わせ……クリスティーナ?」


 クリスティーナを怒ろうとするルーサー公爵だが、クリスティーナが大口を開けて驚いている事で察したのか、途中で言葉を止めて、俺のほうを見た。


「……良いのかい? アルメルくん」


 ルーサー公爵が不安げに言うので、俺は思うままに答えた。


「はい! 今、すごく楽しいです。クリスティーナさん、それ、どこまでの事をさせられるんですか? あ、もしかして、両目を開けた時に見つめられると目が離せなくなっていたんですが、あれも操って視線をコントロールしてたんですか? すごすぎます、今、やばいです。胸が高鳴ってます」


 そう言うと、俺の手が勝手に、俺の服をまくった。


 医者が胸に聴診器を当てる時くらいまで服を挙げる俺。勿論俺の露出癖では無く、これはクリスティーナによる操作だ。


 クリスティーナは露出された俺の胸、いや、B地区を興味深げに観察すると、こう言うのだ。


「父上! アルメル様、この力を見て、本当に高鳴っていますわ! 胸周りの筋肉が凄い沢山動いてます! 父上が泥酔して歌い始めるくらいの興奮度です!」


 凄い情報が当たり前の事のように垂れ流されてる。待って待って。筋肉が見えてる?


 ああ、そうか、クリスティーナの目は、目を開けたら皮膚を透視出来る。心臓こそは筋肉に覆われているため見えないが、心臓を動かす筋肉は見えているんだ。


「あ、あの、あの、アルメル様? 操って、どこまでしてよろしいのでしょうか。私今、ちょっと正気じゃないので……」


「こ、こらクリスティーナ、貞淑であるんだぞ」


 ルーサー公爵の仲裁も虚しくスルーされる。


 なにせ、もう当の本人達が止まりたくないのだから。


「喋る言葉だけ自由が欲しい。嫌だと言ったら辞めてくれるかい? 他は、嫌だと言うまで好きにして良い」


「勿論ですわ! では、さっそく」


 と息を呑むクリスティーナに、俺は大切な事を言う。


「子爵家の息子が、頑張って対等なフリをして喋っているんだよ? 公爵家の娘がその口調なのは寂しいな。俺も、もし婚約するなら、対等が良い」


 その言葉に、クリスティーナが目を白黒させる。


 いや、これは比喩では無い。本当に髪と目の色が点滅したのだ。


 サーシャではこんな状態は見た事が無い。突然変異の中でもさらに特異、とルーサー公爵は言っていた。感情の昂ぶりや魔力、光の当たり具合で色相を変える身体。なるほど、あまりにも神秘だ。


 やばい。俺もう、絶対この子と結婚したい。絶対一緒に居たい。現代日本のヲタク文化を少しだけとは言え知っているにも関わらず、こんな、萌えアニメ美少女の設定すらも超えて盛り過ぎと怒られそうな属性を目の当たりにして、感動が抑えられない。


 可愛いとか綺麗とかじゃないんだ。これは、神秘なんだよ。愛でないなど、罰が当たる。


 知らぬ間に、俺はクリスティーナを抱きしめていた。


 知らぬ間だ。本当に知らぬ間に、強く、クリスティーナを抱きしめていた。


 でも、俺には解らなかった。


 神が産み出した美の結晶を愛でたいと思う俺が、クリスティーナをつい抱きしめてしまったのか。


 俺の身体を好きに操って良いクリスティーナが、俺を操り抱き締めさせたのか。


 俺には解らない。


 ただ、少しだけ解る事と言えば、ルーサー公爵家の長女たるクリスティーナと、ファラン子爵家の三男たる俺ことアルメルの婚約が正式に決まった事。そして、一度帰宅した後に準備や諸々を済ませ、こちらへ一時的に引っ越して来る、という事だけだった。




 …………。




 ……。




 まだ婚約の段階なのに同棲が始まるって、マ?(錯乱)

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