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第3話・都合良い触媒を見つけたので

 より少ない魔力で安定した光を放つ物質を探して、それなりの日数が経過した。


 俺も光魔法を安定して使えるようになったので、俺とシャーリーで色んな物に光魔法を込めて、比べてを繰り返す。その結果解ったのは、物質の密度と必要な魔力量がおよそ比例しているという事だ。


 同じ物質でも、形状が気体、液体、個体の順で必要な魔力量が増える。


 石みたいにびっしりと内部が詰まった個体と、スポンジや布のように内部がスカスカの物では、詰まっているほうが必要な魔力量は増えた。その物質の分子ひとつひとつに光魔法を宿らせ、全てに行き渡れば発光する、というような形だ。


 既存の光魔法は、空気中にある適当な分子ひとつを光らせる事で成立している。分子ひとつ分なので当然弱い。上級者になればなるほど、同時に複数の分子を光らせるようになるのだろう。分子という存在を知らない状態でそこに辿り着けるんだから、人類の逞しさというのはすごい。


 ともかくだ。密度が薄い個体が好ましいと考えた。重いものよりも軽いもの。……そう考えていたのだが、ある日ふと、シャーリーが言った。


「魔力を無駄に浪費しない、中身がスカスカなものを職人に作ってもらうのはどうでしょう(※翻訳です)」


 そうだ、なにも物質に拘る必要は無い。魔力を通す面積を減らせるように中身を抜く。悪くないアイデアだが、その意見を聞いた俺にはもうひとつ確認したい事が浮かんでいた。


「魔力を無駄に通す面積を減らす必要がある。――それなら、最初から魔力が込められている物を使ったらどうなるんだろう。土魔法で作った石とか」


「どうなのでしょうか。石魔法は妖精魔法の分野で、光魔法は根源魔法の分野です。私は専門外なので、解りません(翻訳です)」


 そのあたりは俺もおいおい勉強するとしても、だ。勉強をするには時間が足りない。夜の暗さのせいで一日が短く、運動と基本的な座学をやっていれば終わってしまう。子供の身体では無理も出来ないが、一日の稼働可能時間を増やす必要がある。


 そのためにも、まずは明かりなのだ。技術不足でも知識不足でも、技術不足と知識不足を補うための勉強時間が欲しい。


 善は急げだ。


 俺は庭に出た。そこではアルフレッド兄様が魔法の練習をしている。庭園に水を届けるための小川があり、その水を使って水魔法の練習をしているのだ。悪いけど、練習の邪魔をさせてもらう。


「アルフレッド兄さま! お願いがございます!」


「おお、どうしたアルメル。丁度休憩にしようとしていた所なんだ。お兄ちゃんに甘えるといい」


 いつも通り優しいアルフレッド兄さま。


「休憩に入るところなら丁度良かったです。実は土魔法で作っていただきたいものがあるのです」


「きゅ、休憩にすると言ったんだけど……はは、まあ少しくらいいいか。どれどれ」


 紙は貴重だから、近くにあった木の棒で土に絵を描く。書くのはシンプルなジャングルジムだ。


「お。アルメル、もう絵を描けるようになったのか。本当にすごいな。どれどれ…………」


 俺の絵を覗き込むアルフレッド兄さま。機嫌が良さそうなのは最初だけで、俺の絵が完成すると眉をひそめた。


「アルメル……これの用途はなんだ?」


「難しいでしょうか」


「ああ、まぁ、難しいな。すぐには作れないぞ、こんな複雑な形。……そうだな、因みにここの線も必要なのか?」


「あ、いえ、これは試作品なので、アルフレッド兄さまが作れる範疇で簡略化していただくのは問題ありません!」


「そ、そうか、それは良かった。だが大きさがなぁ。小屋ひとつ建つくらいの設計図だろう? 俺の今の魔力で何日掛かるかなぁ」


「いえ、これは手のひらサイズが欲しいです」


「手のひらサイズ!?」


 アルフレッド兄が声を裏返らせて驚く。流石に無茶か。


「難しいですよね……すみません、アルフレッド兄さま。変な事をお願いして……」


「!?」


 無茶ぶりというのは前世の社会人時代も何度も体験した。客と技術者を繋ぐ営業の仕事として、技術者がどういう演出でテンションを上げてくれるか、見極める能力は重要だ。アルフレッド兄さまは優しく、正義感が強い。庇護欲をそそり、助けたいと思わせられれば、必ず乗ってくる。


 作戦通り、アルフレッド兄は、引き下がろうとする俺に待ったをかけた。


「数日くれ! 少し、期待には沿えないかもしれないが、近い形の物を必ず作る!」


 しめしめ、である。




 ―――――(◇◆◇◆◇)―――――




 本当に完成させてくれた。


 泥を固めに固めて石のように仕上げてくれている。確かに、俺があの時地面に書いたものと比べたらグレードはいくつも落ちるし、手のひらの倍の大きさだ。それでも、形は十分。


「はぁ……はぁ……。それで、これで何をするんだ? アルメル」


 夕餉の後に最後の追い込みをしてくれたらしい、アルフレッド兄様は額に汗を浮かばせていた。夜だけど、シャーリーにも居残りで付き合ってもらっていたから、丁度よかった。


「実験です。成否は解りませんが、アルフレッド兄さまも是非見ていってください」


 そう言いながら、俺はその立方体の骨組みを右手で持ち上げる。


 そして左手で光魔法を発動させる。


 弱いし、明滅して安定しない。


「アルフレッド兄さま。これが俺の今の光魔法の実力です」


「歳の割には十分だろう。光だけですごい事さ」


 流石は優しいアルフレッド兄さま。でも、欲しいのは称賛や栄誉では無い。比喩でもなんでもない、光だ。


「この光魔法を、空間ではなく、アルフレッド兄さまが作ってくれたこの土にかけると……」


 魔法を発動する。その瞬間に、感触で解った。これは成功すると。


 この物質には、既にアルフレット兄の魔力が満ちている。より固める工程で、内側に行けば行くほど魔力が濃い。だから、魔力を込める必要があるのは表面だけ。


 そして、格子状にした事で空間に露出している面積は多い。光は部屋中を、昼のように包んだ。


「…………すごい」


 シャーリーが呟く。


「まるで……まるで太陽だ……」


 アルフレッド兄さまも驚嘆していた。


 でも、俺の内心にあったのは驚きでも達成感でもない。安心感だった。


 そうだ、これだ。


 現代日本で見た、夜を照らしていたあの光。


 ただ明るいだけなら昼間でいい。そうじゃないんだ。夜に見る明かりが良いのだ。


 その光をもう一度見れた嬉しさに年甲斐も無く涙腺が緩む。




 第一関門。


 フィラメントの完成だ。

ToDoリスト


・媒体の選定。 ←clear

・蓄魔力器の作成。

・回路とスイッチの作成。

・必要な場合はコンデンサと抵抗器の作成。

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