余話3・兄弟喧嘩は盛大なようで①
庭に出る。芝と小川があるばかりで、花壇があるわけでもない、質素な庭だ。遮蔽物は無いが、シンシアの言う通り、足場は良くないように感じた。
「一応審判は引き続き俺がやりますが、協力者を1名」
シンシアがそう言いながら紹介してきたのは、熊のような巨体の持ち主、騎士団長のジャンだ。協力者はジャンなのだろう。だが、その後ろ少し離れた所にゾロゾロと、何人もの騎士が着いてきていた。
「あの……後ろの方々は……?」
シンシアに確認すると「あり? なんだありゃ」と驚いた。本当に解らないようだ。変わりに答えたのはジャンだった。
「ファラン家に仕える騎士ですからね。ファラン家のご子息達の戦い、是非とも見学させてやってください」
とのことだ。
2人、いや、リーシャも含めた3人のほうを見ると、スレイン兄は騎士達に手を振り、アルフレッド兄は胸に手を当てて呼吸を整え、リーシャはストレッチをしていた。
「すまない、アルフレッド。僕の心が未熟なばかりに、こんな事になってしまって」
「……いえ、正直、渡りに船です。門出の景気づけには、丁度いい」
アルフレッド兄は笑うが、その表情に余裕は無い。それはそうだろう、数か月前に行われた双子VSスレイン兄を一度見たきりの俺ですら、スレイン兄の強さは目に焼き付いている。剣術の事は解らないけれど、芸術的な動きだったと思う。
対してアルフレッド兄が近接の稽古をしているところを、あまり見た事が無い。たまに手遊びかのように、槍術や棒術を扱える騎士から習っていた事もあるようだが、それくらいだ。あとは魔法での戦いという事にな…………。
――剣術VS魔法の異世界バトルだこれ!!
齢6歳(もう殆ど7歳)にして初めて見れる、騎士対魔法使いの戦い! やばい、テンション上がってきた!
「……うむ、丁度いいか」
何かを思い立ったお父様が、ふと、さっき人質をやらされていたウェインとフレイヤに言った。
「手の空いている使用人、全員連れて来い。屋敷の者、全員に観戦させる」
「ええ!?」と驚くフレイヤ。可愛い。
「……よろしいのですか?」反して冷静なウェイン。
体格の良いケイシーに喧嘩腰だったりしたし、おしとやかなようで戦いを見慣れているような感じがした。
「構わん」
お父様がそう言うと、ジャンが手を挙げた。
「なら、騎士団からも数人手伝わせますよ。ウェインさん、良いですかね」
「……ええ、お願いします、ジャンさん」
との事で、大きなイベントになってきた。
「えっと、お父様? どうしてそのような」
と、スレイン兄が尋ねた。しかし、お父様は答えず、アルフレッド兄とリーシャに言う。
「皆が集まるまでの間、作戦会議でもするといい。ルールは、殺すな。それのみだ。あらゆる作戦を許可する。ただしアルフレッド。相手がスレインである事を前提にした作戦は禁止だ。強力な野盗だと思え。シンシア、アドバイスは無しで作戦会議を見張れ」
いつになく真剣な面持ちで、お父様は指示を続けた。
「スレイン。――戦場と思え」
3人が返事をする間も無く、お父様は数歩下がった。
どうやら本当に、ただ事ではなくなってきたのかもしれない。
―――――(◇◆◇◆◇)―――――
「こんなものか」
全員が集まるのに10分近くが掛かったが、お父様がゆっくりと庭の真ん中へと進む。それに続き、スレイン兄とアルフレッド兄、そしてリーシャが配置に着く。
スレイン兄の手には木製のロングソードが1本。
アルフレッド兄の手には、左手には怪我人がそのまま杖に使えそうな大きさのステッキが1本と、右手には箸のようなサイズのワンドが1本。ファンタジーでもあまり見た事が無い、魔法杖の二刀流だった。
リーシャの手には木製の片手剣が1本のみだ。
「さて、すまんな、皆、突然集まってもらって。俺の息子達の有志を見届けて欲しかったのだ。是非、この戦いを楽しんでくれ」
と、お父様はまず使用人達に笑いかける。
なんすかそれー、見世物ですかー、酒も持ってきていいですかー、などと様々な盛り上がりを見せる、席の無い客席。そして、ひとしきり盛り上がりが落ち着いたら、笑顔から一転、真剣な面持ちに戻る。
「初めの合図で開始する。基本的に、俺、シンシア、ジャンが止めにかかるまで勝負は継続だ」
説明しながら距離を取るお父様。少し近くに居たジャンとシンシアも同様にする。
「リーシャはアルフレッドの協力者として、最大限の助力を頼むぞ」
「了解」
少し、微笑ましいやり取りが挟まる。
だが、次の言葉には、威圧感があった。
「スレイン、アルフレッド、両名に命ずる」
言われていない俺ですらも委縮してしまいそうなオーラ。身内だから知らなかった、お父様の本当の姿はこれなのかもしれない。ただ、そこに居るだけで降伏したくなるような恐怖がそこにあった。
その重苦しい威圧感でもって、お父様は言う。
「威信を示せ」
「「はい」」
2人は答える。
それを見届けたお父様は、嬉しそうに微笑み、威圧感を解いた。
「――はじめ」
勝負が始まる。
最初の攻撃はアルフレッド兄だ。右手のワンドを振るうと土の塊が形成され、ワンドと連動するようにスレイン兄に向けて飛んでいく。だが、スレイン兄が避けるまでも無くそれは外れる。修正のための2発目が飛ぶ。容易く剣で弾かれる。3発目がスレイン兄へ向けられる。――それと同時に、リーシャが動き出す。
土の塊を目で追えばリーシャを見失い、リーシャに気を取られれば土の塊を防げない。そのための逆方向からの侵攻。これはサーシャとの共闘の時にもやっていた事だ。挟み撃ちというやつである。
だが、流石に土の塊のほうが早い。アルフレッド兄はスレイン兄の目線がリーシャへ向かないよう、同じ方角からの4発目を放つ。
スレイン兄は4発目の土の塊を剣で弾いた。それとほぼ同時に、リーシャがスレイン兄に切り掛かる。
上手いコンビネーション。最高のリズム。スレイン兄はリーシャのほうを一度も見れていない。
だが、
「甘い」
スレイン兄は身体を屈めて足払いした。リーシャの身体は容易く傾く。まるで、見てもいないはずなのに、そこにリーシャの足が解っていたかのような動き。
そこからは流れるようだった。そのまま倒れると踏んだスレイン兄の剣が、リーシャが倒れるであろう先目掛けて振るわれる。
このままでは直撃する。
しかし、リーシャは倒れる前に片手剣を地面に突き刺し、地面に身体が着かないように、片手剣の上で側転した。
「おおおおおおお!!」
早速見れた大技・曲芸に、俺は湧く。いや、客席の皆が沸いた。
スレイン兄が仕掛けた地面すれすれの攻防は、しかし、地面に突き刺さった片手剣を払い、抜いてやる手助けをする形で終わる。
「!?」
流石のスレイン兄も驚いた表情。それはそうだ、すごい身のこなしだった。つまり今スレイン兄は、リーシャのすごい身のこなしに気を取られている。
「しまった!」
即座へ横に飛んだが、アルフレッド兄が背後から飛ばしていた土の塊がスレイン兄の肩を掠める。
「くそ、なんで解るんだよ……」
最初の奇襲失敗に悔しがるアルフレッド兄。とはいえ次がある。アルフレッド兄とリーシャは、まるでスレイン兄という太陽の周りを回る惑星のように、各々の距離と角度を維持して、スレイン兄の死角を意識する。
「簡単な事だよ」
どこか楽しそうに微笑みながら、スレイン兄は言った。
「リーシャは奇襲の際、もう少し足音を消すように心掛けて。音で丸わかりだ。アルフレッドは教科書通り過ぎるね。そんな戦術じゃ雑魚しか倒せないよ」
と。




