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異世界貴族に転生したけど思ったより不満だったので  作者: 南乗七史
間章1・家族喧嘩は盛大なようで
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余話2・姉妹喧嘩は計られたようで②

「勝利……! 任務、達成!」


 とその場で喜び膝を着くリーシャ。ゴールを決めたサッカー選手みたいな喜び方だ。


「……任務……任務、失敗……?」


 ちょっとかわいそうなくらい、地面に両手を着いてショックを受けるサーシャ。


 勝負事態が不意打ちで、この2人でなければ納得なんて出来ないであろうルールなのに、これほど素直に一喜一憂出来るというのは、素直に関心する。多少、無茶な仕事を振っても平気な顔でやってくれそうだ。


 さて、しかしだ。見た限りだとさっきの勝負、本当の優劣とは言いたくない気持ちが俺にはあった。多分、俺の前世の中間管理職経験がそうさせるのだと思う。人事評価は、公平に。


 まずリーシャの反射神経。本当にすごかった。手に持つ唯一の武器を手放してでも相手を怯ませ、素手で護衛対象を庇いながら「捕らえろ!」と周りの騎士に指示。これは本当にすごい。


 対するサーシャだが、彼女はただ動かなかったのではない。観察をしていたのだ。状況判断をするため、まず、全体を見た。結果として出遅れる形になってしまったが、これがもう少し時間があり、複雑なミッションだった場合、形勢は逆転したんじゃないかと思う。


 やはり異世界の勝負は面白い! スポーツ観戦に近い物を感じる。


「さぁ、決着は決着だ! 集合!」


 シンシアが手を叩きながら2人を呼ぶ。傭兵時代もこのような訓練が施されていたのだろうか、と、2人の過去に思いを馳せる。……が、当然全く想像は着かなかった。いつか、仲良くなれたら、その時にでも聞くとしよう。


「お疲れ様、2人とも」


 とぼとぼとこちらへ集まって来た2人に声を掛けると、2人は当然のように、


「疲れてない」「一瞬」


 それはそうかもしれないが、俺だったらああいう場所に立っただけで疲れそうだ。


「それでも、お疲れ様だよ。そういうわけで、これからの役割分担、よろしくね」


「あ」


 俺の言葉に、サーシャが青ざめ、リーシャが無言でガッツポーズをした。


 ふと、その時。


「…………やっぱり不安だ……」


 と、スレイン兄が呟いた。


「?」


 俺がスレイン兄のほうを見ると、スレイン兄は青いというより、血の気が引いた白い顔をしている。ちょっと不安、という程度では済まないレベルの緊張具合だ。


「どうしたんですか、スレイン兄様」


 聞くと、スレイン兄は少しだけ俺を見てから、アルフレッド兄のほうに視線を運び、申し訳無さそうに言った。


「……やっぱり、弟と、この子達の片方を、一緒に魔都へ送るのは、どうしてもこう……心配で……」


 その言葉に反応したのは、当然アルフレッド兄だった。


「スレイン兄様。それは、俺の事すらも信じてくれていないという事になります」


 当然の反発だろう。実際スレイン兄がどう思っていたとしても、アルフレッド兄がそう解釈するのは当然である。


 スレイン兄は弁明しようとして「いや、ちがう、そうでは、そうではなく」と慌てるが、何かを諦めたように短く息を吐き、決心して言い切った。


「当たり前だよ。アルフレッドやその子達を侮っているんじゃない。突然変異と共に行くという事は、バレばければ良いが、バレた時のリスクがあまりにも大きい。ただでさえ貴族。身を狙われる事も多い立場なんだよ? それが、さらに野盗に狙われやすい特性の子を連れて行くなんて、誘拐しろと言っているようなものだ。君達の実力が低いんじゃない。脅威が大きすぎる。だから、心配なんだ」


 なるほど、そういう事もあるのか。


 正直、突然変異の人間がどこまで危険な目に遇っているか、その差別の実態を家族から教えられただけの俺は、多分あまり喋らないほうが良いだろう、と思い、口を挟むのを辞めた。


 だから、当然答えるのはアルフレッド兄だ。


「そんな事を今更言われても……。なら、どうすれば良いと言うのですか。どうしたら、納得していただけますか」


 と、アルフレッド兄は当然の事を尋ねるが、スレイン兄は気まずそうに目を逸らし、答えない。それはそうだ。さっきの「心配だ」という呟きだって、思わず漏れた独り言だろう。それが拾われてしまって、焦っていたのは事実だ。どうしろ、と聞かれても、彼の中にだって答えは無い。


「うむ。そうだな。スレインの言い分も最もだ」


 と、そこで入って来たのはお父様だった。


 お父様は続ける。


「俺が提案した事だ。非があるなら俺だろう。だからこそ、間違いだった場合、双子のどちらかを魔法学校へ進めるというのも撤回する」


 と。


「間違っていた場合?」


 とスレイン兄が問う。俺も少し気になった言い回しだ。だが、お父様が双子のどちらかを魔法学校へ進学させると決めたのは半年近く前。その時に理由を語っていたと思うのだが、どの話だったか、思い出せない。


 お父様は言った。


「いいだろう。では、こうしよう。アルフレッド及びアルフレッドと共に魔法学校へ進学するほうでチームとなり、スレインを倒してみせろ。スレインが勝った場合、双子の進学は取り消す。アルフレッドが勝った場合、スレインは先の言葉が侮りであって事を認め、謝罪しろ」


「ええ!?」


 そこで思わず声が出る。


「い、いえお父様! そのような事はありません! これはあくまで、僕の心の余裕の問題です。僕の心が弱いため心配になってしまうのです。そのような事をせずとも、アルフレッドに謝罪します。アルフレッド、さっきの言葉は――」


「黙れ!!」


 スレイン兄の言葉を、お父様が遮る。そのあまりの迫力に、言われていない俺まで浮足立つ。


 お父様は続けた。


「スレイン。お前は言葉に出したのだ。言葉にしてしまった。発言に権力が伴う貴族として、口が滑ったは許されない。最後まで責任を取れ。それに、お前が勝てば、正しいのはお前という事になる。正しい者が謝るな。その行為は、正しさを曖昧にする」


 現代の日本とは少々相容れない部分もあったが、この時代のこの世界においては、そういう考えなのだろうと飲み込む。


 お父様は続けた。


「そしてアルフレッド。俺が押し付けた事でもあるが、スレインの言葉は俺も思う所があった。スレインが言ったように、お前達を信頼しきれない俺の心の弱さもあるだろう。だが、信頼されないお前にも責任が無いわけでは無い。証明をして欲しい。お前は大丈夫だという証明を、俺達に」


 ふと、その言葉に違和感を覚えた。理屈ではなく、言葉の節々に、あるいは口調に、そこはかとないわざとらしさが挟まっているような気がしたのだ。その正体は解らない。で、解らなくても時は進む。しばらくの沈黙が続いた後、アルフレッド兄は答えた。


「承知しました。勝てば良いのですね」


 と。


 早速準備に取り掛かろうと、訓練用武器がある棚へ歩み寄るアルフレッド兄は、緊張した面持ちで言った。


「それで、確か魔法学校へ着いて来るほうはどっちだったか? 勝ったほうが危険な任務って話だよな。で、リーシャが勝ったから、魔法学校へ行くのはサーシャか?」


 と。


「え?」


 またも素っ頓狂な声が出てしまった。あまりにも場違いすぎる声だったせいか、その場に居る全員が俺のほうを見ていた。え、なんで?


「え、いえ、だって普通に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()のが道理でしょう?」


 普通に考えればそうじゃないのか? と、当たり前の事を確認するが、お父様は答えた。


「いや、どう考えてもお前の物づくりで色々な任務をする事になるお前の護衛のほうが危険だろう。魔法学校ではリスクもあるが、基本は勉強をするばかりだ」


 俺は答える。


「いえ、俺の拠点は少なくともしばらくはここ、パラノメールです。騎士達が守る城郭都市パラノメールですよ? 俺の物作りに関しても安全には最低限の配慮をしますから、治安からして危険などたかが知れている」


 これでも安全労働だのなんだのは、管理職研修で散々やらされているので、危険作業の防止には自信があるのだ。


 俺は続ける。


「対してメルヘンラークの治安は未知数ですし、帰省等で移動も多くなる事でしょう。貴族が乗る馬車です、森を通る度に野盗等の危険要素がある。なので、危険なのはメルヘンラークです」


 だが、お父様も食い下がる。


「危険の発生頻度は間違いなくお前の護衛のほうが高い。安定した運用で安全確保するためにも、お前に強いほうを着ける」


「違います。リスクの上限が高いほうをこそ危険と見るべきです。強いほうはアルフレッド兄に着けます」


「ならん。それにお前は戦えない。アルフレッドは戦える。だからお前に強いほうを着ける」


「それは理由になりません。俺とアルフレッド兄様が護衛対象である以上、リスクへの対策は、対策単体で考慮すべきです。護衛対象を戦力に加味するのはマナー違反です」


 ついつい熱くなって言葉が強くなる。お父様も落ち着いているようだけど、少しずつ話す速度が速くなっていった。


「どこで学んだマナーだ。ここはファラン家。城郭都市を守る騎士の家系だぞ。自分達も戦力に含める。当然の事だ」


「…………」


 まずい、一理ある。説得する材料が無い。この線は不利だ。


 勝った負けたは重要だ。実際、間違いなくメルヘンラーク行のほうが危険なのだ。両者の都市内でのみなら大差無いかもしれないが、少なくともアルフレッド兄には帰省等の移動が増える。貴族が乗った馬車など、野盗にとって格好の餌食だ。だから、アルフレッド兄にこそ強い護衛を着けたい。


 そうだ、野盗だ。


「最大の危険は、町中や平時ではありません。野盗です。野盗なら奇襲をしかけてくる事もあるのではありませんか?」


 言いながらシンシアのほうを見る。シンシアは野盗では無く元傭兵だが、蛇の道は蛇。詳しいだろう。


 シンシアは頷いて答えた。


「常套手段ですよ、そりゃ。さっきの奇襲に対処する瞬発力勝負も、野盗からの護衛を想定しましたからね!」


 との事。都合が良いな、と思ったが、いや、流石は元傭兵。()()()()()()()()()()()()んだ。


「そういう事なんです、お父様!」


 最大限の味方を得た俺は堂々と言う。


「さっきの勝負が証拠です。アルフレッド兄様は帰省等で移動する機会は増える。ならば、さっきの勝負で勝利したリーシャこそが、アルフレッド兄様の護衛になるべきです!」


 シンシアのおかげでの大逆転。お父様はついに引き下がった。


「そういうわけだ。アルフレッドはリーシャとチームを組み、スレインと戦え」


「「はい、お父様」」


 スレイン兄とアルフレッド兄が同時に返事をし、リーシャとサーシャがぽかんとしていた。


 そこに、シンシアが再び口添えをする。


「そういうことついでに、そういうことならもうひとつ。場所を変えましょう、ファラン卿。訓練場じゃなく、庭あたりが良い」


「何故だ?」


 お父様の問いに、シンシアは訓練場の足元をこつこつとつま先で蹴って答えた。


「野盗との闘いで、こんなに足場が良い事は無いですから」


 と。

アルフレッドとリーシャが魔法学校へ進む別作品『異世界真理の探究者』の執筆を開始しました。


まだ書き始めですが、気になった方は要チェック!!

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