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異世界貴族に転生したけど思ったより不満だったので  作者: 南乗七史
間章1・家族喧嘩は盛大なようで
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余話1・姉妹喧嘩は計られたようで①

「どちらが魔法学校へ行くか、まだ決めていないだと?」


 眉をひそめて怒気を滲ませながらも、それをなんとか抑えてそう言ったのはお父様だ。


 ファラン家の食堂に集められた、俺、スレイン兄、アルフレッド兄の3人は椅子に座り、メイドのリーシャとサーシャはテーブルの前で立たされていた。


 赤い髪に赤と青のオッドアイを持つリーシャは、唇を尖らせて斜め上を見つめている。青い髪に青と赤のオッドアイを持つサーシャは、露骨に真横を見ていた。


「座学、不得手。サーシャが優秀」


 とリーシャが押し付けると、


「虚偽。リーシャが頑張り屋。学ぶべきはリーシャ」


 とサーシャが押し返す。


 攻勢入れ替わり、


「何時間も座る。不可。私、教室で暴れる」


 そうサーシャが嘯くと、


「誤情報。任務の待機で半日不動達成。サーシャは教室で受講可能」


 リーシャが淡々と修正する。


 こんな状態で永遠に押し付け合っているため、痺れを切らしたお父様が2人を呼び出したのだ。


 無理も無い。アルフレッド兄の進学までもう間もない。そろそろ申請を出さなければ間に合わなくなってしまう。


 お父様は訝しむような表情でアルフレッド兄を見た。察したアルフレッド兄は肩をすくめて、少しおどけてみせる。


「正直どっちもどっちです。両方とも魔法の上達は早いし、座学の飲み込みはムラがあるし、落ち着きはありません。小まめに運動させてやらないと身体が揺れ出しますから」


 そういえば、と、監視塔でサングラス作成する合間にアルフレッド兄が開いていた、双子用の青空教室を思い出す(第2章第14話参照)。確かに勉強時間の合間によく、アルフレッド兄の土魔法攻撃を避け続けるという運動をしていた。やたら頻繁にやっていると思った。


 お父様は苦心する。そして


「いっそモーラで決めてもらうか……」


 モーラとは、簡単に言えばバリチッチだ。指スマ、いっせーのーせ、など様々な名称がある日本の指遊び。こういう全国で同じだが地域ごとで名称が変わる物というのは、遠征の営業トークで役に立つのである。そんな遊びでどちらが進学するかを決めようというのだ。やけくそである。


 少し考えてから、俺は提案する。


「勝負で決める、というのはどうでしょう。もちろん大けがさせるような攻撃は禁止で」


 お父様が「やはりそうなるか」みたいな反応を示す。スレイン兄は顎に手を当てて考え、アルフレッド兄は俺を見ながら苦笑する。


「アルフレッド兄さまについていけば勉強しながらの護衛。俺についてきたら俺の護衛でありながらもモノづくりのための調達任務とかをお願いするかもしれない。実力による配分は大切です。勝ったほうに、より危険な任務をお願いするのが合理的でしょう」


 その提案に反対する人は居なかったため、さっそく訓練場へ向かうのだった。




 ―――――(◇◆◇◆◇)―――――




 赤髪のリーシャが木で模した短刀を、青髪のサーシャが木で模したダガーとバックラーを持とうとした時、


「ちょっと待った」


 と、2人の行動を制した人間が居た。


 騎士団長のジャンほど身長は無いが、それでもガタイの良さはジャンに負けず劣らずの偉丈夫、シンシアだ。ついこの間、私兵として雇った男。苗字は無いという。雇った後でお父様から聞いたが、リーシャとサーシャをこの屋敷に連れて来た張本人でもあるらしい。


 俺の私兵ではあるのだが、別に仕事が無い時は普通に騎士団に交じって騎士団の仕事と訓練をしてもらっている。蛇足だが、あくまで俺の私兵なので、城門や監視塔への出張は無しだ。俺が呼び出せばいつでも俺の元へ来れる位置に配置するという約束で騎士団に貸与している。


 そして最重要なシンシアの情報だが、元傭兵団副団長との事。


 そんな傭兵のエリートであるシンシアが、2人に言った。


「まさか、それ、本当に大丈夫だと思ってないよな!」


「うぐ……説教おじさん来た」「シンシア、なんにでも文句言う……」


 ハキハキと豪快に喋るシンシアに対し、冷徹な双子から絶賛ブーイング。しかし、シンシアは全くのノーダメージなようで、説教おじさんを続けた。


「ダグラス卿から事情は聞いた。俺が審判を務める事になってるんだわ。だからこの試合は、俺がルールな? で、だ。もう一度聞くぞ。それ、本当に大丈夫だと思ってないよな?」


「…………?」


 双子が同時に首を傾げる。


 シンシアはため息というには声がデカすぎる「はあああああ!」というため息を吐いて、言う。


「2人の任務は護衛! 方や城郭都市パラノメールを拠点にして、方や魔都メルヘンラークを拠点にしての護衛。おやおやどっちも大都市だなぁ!? で、だ。それ、本当に良いのか?」


 それ、と言うが、シンシアは腰に手を当てているため、何を差しているかは解らない。


 でも、ようやく解った。なるほど、確かに、現状判断するなら、()()()()()()()()()()()


 双子をお互いを見やった。そして少し考えて、手に取った木製の武器を置いた。


 そして改めて手に取ったのは1本のダガーだ。サーシャは元々ダガーを持っていたが、今度はバックラーとセットでは無い。


「せーかいっ」


 と、シンシアはニカッと笑う。


 そう、町中での護衛任務で堂々と武器を持つのは得策では無い。


 無論、わざと見せびらかして周りを委縮させる作戦もあるにはある。防衛力を見せつける事で未然に「俺達は襲うなよ」と示すのだ。


 だが俺達は貴族だ。不必要に民衆を委縮させる行為は不服や不満に繋がり、それはいずれ反乱へ至る。ハラスメント上司は干されるのだ。いつの世も世知辛いのが中間管理職なのである。


 あ、そう、異世界の貴族に転生してめっちゃ思ったんだけど、貴族って中間管理職なんだよ。国を企業に例えたら、少なくとも子爵家レベルだと、支部を任されている支部長くらいの立場な気がしている。


 まぁそんな中間管理職な貴族は、不用意なハラスメントで民草という部下のヘイトを買うと立場が危うくなるのだ。


 だから、隠し持てる武器が好ましい。


 その隠し持てる武器・ダガーを手に、訓練場の真ん中へ向かうリーシャとサーシャ。


「教育不足で申し訳ないです。ファラ……ダグラス卿、アルメル様。スレイン様にアルフレッド様も、見苦しい所をお見せしちまって」


 双子に説教していた時の豪快さとは真逆の態度で謝罪するシンシア。


「いいよいいよ、これからだよ、あの2人は」


 と俺が言うと、俺よりも満足げなお父様がどこか誇らしげに言った。


「武装して悪漢を委縮させるため、騎士団は武装して街を歩く。全く真逆のアプローチなのが面白い。騎士団に取り入れても良い価値観かもしれんな」


 まぁ、言ってしまえば『制服を着た警察官or私服警官』みたいな違いだと思う。


 さて。


 さて。


 ……さて?


 双子は既に配置についている。


 で。


 さて。


 さて。


 ……さて?


「始まらないの? シンシア」


「何言ってんすか、アルメル様。護衛任務に開始の合図は無いっすよ」


「……え」


 いつの間にか。


 本当にいつの間にか、訓練場の隅と隅に、おかしな現象が発生していた。


 方や北端。


「い、いやー、なにとぞ、ご、ご容赦をー!」


 棒読みながらも必死に危機感を演出しようと頑張って声を張り上げて悲鳴を上げるウェインが、2人の騎士に囲まれている。騎士は赤いバンダナを腕に巻いている。そしてウェイン自身も赤いバンダナを手に持っている。


「助けて―、誰かー、おねがーい」


 棒読みかつ、悲鳴というにはあざと可愛い声を挙げるクールビューティーはマイエンジェルたるフレイヤも、2人の騎士に囲まれている。騎士は青いバンダナを腕に巻いている。そしてフレイヤも青いバンダナを手に持っている。


「!!」


 赤髪のリーシャは飛び退くようにして、赤いバンダナの騎士達の元へ数歩近付く。


 青髪のサーシャも同様に、青いバンダナの騎士達の元へ数歩近付く。その分、2人の距離は空く。


 それを見届けたシンシアは、声を張り上げて言った。


「今、ウェイン殿の元に居る赤いバンダナの騎士達はリーシャの味方だ、青いバンダナの騎士達はサーシャの味方だ!」


 双子の髪色と、騎士が腕に巻き、ウェイン&フレイヤが手に持つバンダナの色はつまり、赤髪のリーシャは赤バンダナのチームであり、青髪のサーシャは青バンダナのチームという事だ。


「騎士達はこれより、敵色のバンダナの強奪を試みる! 時間経過と共に騎士の数を増加する! より長く、ウェイン殿及びフレイヤ殿を護衛出来たほうを勝利とする!」


 これは面白い展開だ。良いゲームが見れそうだ。


 ――そうワクワク出来たのは一瞬だった。


「鍛錬不足ですみません、アルメル様」


 と、シンシアが小さい声で言った。


「え」


 俺がなんの事かと問う前に、事態は終わる。


「っつ!?」


 ()()()()に動揺し、行動が遅れたサーシャ。


「んんんんにゃあああああああああああ!!」


 無理やりな雄たけびを上げながらなりふり構わずウェインの元へ駆けつけるリーシャ。


 まずは手に持つダガーを投げつけた。投げられた木のダガーで騎士が怯む隙にウェインと騎士の間に入り込みつつ、リーシャはがなり声を挙げる。「捕らえろ!!」と。


 そして、ドスン、と、木と木がぶつかりあったとは思えない重たい音が響く。


 それと、


「きゃああ、と、取られちゃいましたー」


 可愛い過ぎるフレイヤがわざとらしい感じで、青いバンダナを奪われていた。――突然後ろから現れた、3人目の赤バンダナの騎士によって。


 サーシャ側はこうだ。サーシャは反応しきれず、騎士達も身動きを取らず、フレイヤが持つバンダナが無抵抗で奪われた。


 リーシャ側はこうだ。リーシャは我武者羅に行動し、騎士達はリーシャの「捕らえろ」の指示に従い敵を取り押さえ、ウェインを守り切った。


 本当に一瞬の出来事だった。だが、それで理解する。そうだ。これが護衛なのだ。


 普通に考えて、奇襲を仕掛けてくる連中が正々堂々としているわけが無いのだ。なればこそ、奇襲に対応出来てこその護衛。これが、傭兵団の矜持。


 シンシアが小さく、俺にだけ聞こえるように説明してくれた。


「味方の騎士がそれぞれに2人ずつ。って勘違い出来るように仕向けたんすよ。3人目も最初から居るって、解らなかったでしょ? 敵の奇襲にどこまで対応出来るか。それこそが護衛の課題っすよ。っつうわけで、審判、やらしてもらいます」


 で、その前置きをもって、シンシアは豪快に言うのだ。


「この護衛対決は、ウェイン殿を守れたリーシャが勝者とする!」

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