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異世界貴族に転生したけど思ったより不満だったので  作者: 南乗七史
第2章・出会いと別れは唐突なようで
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第13話・嘘も方便と言いますので②

「私達を守る?」


「はい。一度外に出ましょう」


「? わかった」


 全員でぞろぞろと外で出る。


「まずですね、サングラスは光を遮り、眩しさから人を守るものです。でも、眩しくなくなる、だけでは無いんですよ」


 紫外線が悪影響だなんだのは、この世界ではオーバーテクノロジーだろうし、そもそもこの時代では現代ほど紫外線の害は少ないだろう。それを省いて、俺は空を指さす。


「太陽を見てください」


「ああ。……眩しいな」


 目を細めて数秒見つめたケイシーさんが言う。他の皆も同じようにしている。


「では、下を見てください」


 全員が下を見る。


「――なんか黒い斑点がありませんか?」


「……あっ! なんかある! しかもこれ、視線を動かすと一緒に動くぞ、気持ち悪りぃなこれ」


 気持ち悪いと言いながらも、その口調はどこか楽しそうだった。


 俺はこれをフラッシュと読んでいるが、陽性残像という現象らしい。


 目の光を感知する部分が飽和を越えたため、光から目を逸らしてもしばらく光が残っているように感じる現象だ。身体には全く害は無い。


 だというのに、俺はにっこり笑ってこう言った。


「これ、目が傷付いているいるんですよ」


「!? ま、マジかよ!」


 良い反応をしてくれたケイシーさんには悪いが、嘘である。


「身体のどこかを、壁とかに強くぶつけちゃうと、しばらく痛いですよね。でも痛みはしばらくしたら引きます。目にも同じ事が起きるんです。強すぎる光を見ると、しばらくダメージが残る。しばらくなので、ほら、どうです? そろそろ黒い斑点消えたでしょう?」


「本当だ! 消えてる! まじかよ、そんな事があんのかよ!」


 いや、無い。残念ながら、嘘である。


 俺は続ける。


「壁にぶつけた痛みはしばらくしたら引きます。でもじゃあ、痛みが引く前に何度も同じ場所を殴られたらどうなるでしょう。壁にぶつけるどころではなく、城壁から落ちるほどの痛みがあったら、身体はどうなりますか」


「そんなん、壊れちまうじゃねぇかよ」


「そうです。目にも同じ事が言えます。眩しすぎる物を何度もずっと見続けると――目が壊れるんですよ」


「まじ……かよ……」


 嘘である。


「そこで、話を戻しながら場所も戻しましょう。皆さん、中へ」


 全員で建物の中へ戻る。明るい所から暗い場所へ移動したので、明暗のギャップでで中がよく見えない。


 全員が建物の中へ入り、扉が閉められた事を確認すると、俺は全員に聞いた。


「昼間の外から建物の中に入ると、中がいつもより暗く感じて、見にくい時ありませんか?」


 職人達と双子はパッとしない様子だったが、アルフレッド兄とウェインが「あるな」「ありますね」と共感してくれる。なので俺はこう指示を出した。


「皆さん、いったん目を閉じて」


 その言葉に従い、全員が目を閉じるのを確認して3秒、心の中で数える。


「さぁ、開けてください。……どうですか? 見やすさ、戻ったでしょ」


「おお、ほんとだ」


 さっきはパッとしない反応だった職人達も、口々に「ほんとだ」「すげえ」と呟いている。


 俺はその反応を見ながら、ケイシーさんへの嘘を続けた。


「これもそうです。外の明るさで目がダメージを受けていたのですが、目を閉じて目を休ませる事で回復が早まったんですよ。ぶつけた時にさすったりして痛い場所を覆ったほうが回復が早いでしょう?」


「おお、そうだ、確かにそうだな」


 ケイシーさんが何度も頷いてくれるので嘘の吐き甲斐がある。


 そして、これが本題だ。


 俺は、鉄を溶かす窯、ガラスを溶かす窯を指差して尋ねた。


「――皆さんの仕事はなんですか?」


「!!??」


 各々が表情を強張らせる。


 強い光は目にダメージを与えると俺は説明した。


 そしてあの窯は、鉄やガラスの原材料である砂を溶かすほどの熱量で火が灯る。当然だが火は眩しい。


 すなわち、職人達の目は、仕事の間中ずっと傷付き続けているのだ! 嘘だけど!!


 まぁしかし、完全なる嘘では無い。ヘルメットや保護手袋が必要な作業あるように、光防止用のゴーグルが保護具として必須な作業は現代に普通にある。現代技術の水準でなら、強すぎる光が目に悪いというのは真実だ。この世界の水準では、それほどの光は多分また作られていないだろう。


 と、思っていたら、アルフレッド兄が呟いた。


「そうか……だからフェニックスと戦った者の多くは目を失うのか」


「え、なんですか、それ」


 フェニックスは聞いた事がある。しかし、その伝承を俺は知らない。


 アルフレッド兄は答えた。


「フェニックスと戦った伝承にあるんだ。曰く、猛々しい光を放ち、戦士達から視界を奪う、って。そういう事なんじゃないか?」


 ええ……現代技術でも難しいレベルの発光が出来る魔獣が居るのか……それは本当に恐ろしいな……。


 だがまぁ、俺は答えた。


「フェニックスについて詳しく知りませんが、多分そういう事です。そういうわけで皆さん、眩しいというのは、危険なんですよ!」


 職人4人が息を呑む。


 その中でケイシーさんが一歩前に出た。


「だが、それでも、そのサングラスってのがあれば、私達の目は、守られるのか……?」


 俺は平然と頷く。


「はい!」


 その言葉に、職人達は歓声を上げる。


「おめぇら! なんとしてでも完成させるぞ! これは、職人達の未来をかけた開発だ!!」


「おう!」「うむ」「あいさー!」


「んじゃ、気合入れて仕事させてもらうぜ。これからよろしくな、アルメル」


 改めて、と言わんばかりに、ケイシーは俺に手を伸ばしてくる。俺はその手を握り返した。


「ったく、そういう事情なら先に言ってくれっての。なんで言ってくれなかったんだよ」


「ははは、こういうタイミングで言ったほうが、気合が入って良い仕事が出来るでしょう?」


 嘘である。さっきの事情が最終手段として残していた嘘なので必要になるまで説明しなかっただけである。


「さぁ、火を起こすぞ」


 振り返って作業を開始する職人達。


 それにしても、嬉しい誤算だ。切るかどうか悩んでいたカードで、実際嘘なので心苦しいが、どうやら今後も役に立ちそうだ。


「火を起こすのか? 俺が居るうちは節約すると良い」


 魔法で木に火を付けて、炭が敷かれた窯の中へ抛るアルフレッド兄を見ながら、今後の算段を修正する。


 冒険者、狩りを嗜む貴族、騎士団にさらに追加で、火を扱う職人達にもサングラス需要が見込めるかもしれない。これは成功すればサングラスの時代が来るぞ。そこまで広まる事が出来れば、突然変異がサングラスで目を隠していても、違和感は無い。誘拐等を企む野盗にサングラスの事実が漏れても、サングラスをしている者が多すぎて突然変異を特定出来ない。


「温度は高いほうが良いのか? 炎の温度も多少は操れるが」


「おお、流石貴族様、有りがてぇな。是非高めにしてくれ」


 アルフレッド兄とケイシーのやり取りを見守りながら、嬉しい誤算に心中でガッツポーズをする。


 この誤算は販路拡大において大きなアドバンテージになる。後は、ジーマン商会がどれだけの販路を確保出来るか。そして、どれだけの数のサングラスを量産出来るかに掛かってくる。


 行ける。これは行ける。試作品を速攻で作る事さえ出来れば、半年後にはサングラスが世界を牛耳っているかもしれない。


 さっそく作業が開始され、賑やかになったその現場を見守る。


 ああ、職場の活気が良いというのは心地が良い。働かされている者が居ない。誰もが前向きに働いている。こういう気持ちってのは、案外難しいんだよな。辛い仕事は多い。やり甲斐の無い仕事も多い。そんな中で、仕事に対して前向きに取り込めるというのは、実はとても大きな才能だったりする。


 その尊い光景を見守りながら、俺は――




「…………は?」




 ――俺は言葉を失った。


「いやぁ、流石はアルメルだな。いったいお前の頭の中はどうなっているんだ、ほんとに」


 そう言いながら俺の所まで来て頭を撫でるアルフレッド兄。


 俺の頭の中は精神年齢30台中盤のおっさんだ。


 だがそれよりも、俺が気になるのは()()の頭の中だ!!


 俺は尋ねた。



「――アルフレッド兄さま、さきほど、火魔法を使っていませんでしたか……?」

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