第12話・嘘も方便と言いますので①
旧南方監視塔。イディムの森前の小要塞。特徴はおよそ名前の通りで、城壁前の草原から馬車で少し走った先にある、昔使われていた小要塞だ。魔獣の群れや敵国の軍勢がイディムの森から入ってきたらすぐに解るように設置された監視塔らしい。
らしい、という曖昧な言い方になるのは、俺も初めて行くのでどういう場所か解っていないためである。正直わくわくしている。
わくわくするので、
「わぁ、草原だぁ」
馬車の後ろのカーテンを開けて、離れていく城壁を見守る。
「こら、危ないですよ、アルメル様。中にお入りください」
ウェインが俺の中に引き戻した。
「えー、だって馬車の中、外が見えないから」
「えー、ではございません」
腕を絡めて拘束される。二の腕に胸が当たる。これはこれで悪くないかもしれない。
「ちょっとくらい良いじゃねぇか、初めての外なんだろ?」
馬車の反対に座るのはケイシーだ。
この馬車の中には、俺、ウェイン、サーシャ、ケイシーと、職人がもう一人。もう一方の馬車にアルフレッド兄とリーシャ、職人2人が乗っている。
「良いわけがありません。アルメル様の身に万が一の事があったらと思うと、もう……」
「心配なのは解るけどよぉ、心配しすぎは子供にゃ毒だぜ」
「うぐ……。いいえ、私はメイドですから、安全のために心配しすぎるのが仕事なのです」
「難しい仕事だねぇ。私にゃ無理だ」
どこか揶揄うように笑うケイシー。ウェインは一瞬不貞腐れかけたが、すぐに気を取り直し、そっぽを向く事でアンガーマネジメントした。
「着きますよ」
前方から馬主が声を掛けてきたので、降りる準備をした。
馬車が止まり、ウェインに手を引かれて降りる。そこで広がる景色に呆気に取られる。
石で作られた真四角の上に円柱の柱がそそり立つ建物。目と鼻の先に、現代では見た事が無いほど深い森がある。後ろには草原。その大自然の光景が胸を打った。
「良いじゃねぇえの。井戸は枯れてねぇな?」
「見てきやしょう」
職人の1人がケイシーさんの問いに答えるため、小走りで井戸があるほうへ向かう。
「物は運んであるって話だったか?」
「ええ。窯は運搬済みですよ」
「因みに新品だったりすんのか?」
「勿論。ジーマン商会に頼んで、上等な物を用意しています。砂もそれなりに仕入れていますよ」
「おお、良いじゃねぇの良いじゃねぇの。おら、お前ら、貴族様からの送りもんだ、感謝して使うぞ」
言いながら、ケイシーは早足で監視塔へ向かった。職人2人がそれに続く。
俺達も一緒に中へ続こうとすると、青髪を隠しているほうのサーシャが俺の裾を摘まんで止めた。
「全員、止めて。廃墟、魔獣の可能性。確認必要」
運び込みの際に内部は一度見ているが、言われてみれば、と同意する。
「そっか。皆さん、先に中を確認させてください。リーシャ、サーシャ、お願いしていい?」
「了解」「了解」
双子は、俺には視認出来ないほどにスピードでいつの間にか武器を取り出したかと思うと、これまたいつの間にか先行していた職人達より先に監視塔入口へ到達。慎重に扉を開けて中を見る。いくつかのハンドサインを交わしたかと思うと、サーシャが内部へ侵入し、リーシャがこちらへ「こっちへ来い」と手招きした。俺達が近づき始めたのを確認した後に、リーシャも監視塔内へ侵入する。
「さてさて、どんなもんかねぇ。……おお」
中に入るや否や、ケイシーさんが興奮気味に目を輝かせる。
「いいねぇいいねぇ、炉は流石にウチのよりはランク落ちるが、十分上等なもんを用意してくれてるねぇ。そっちはどうよ、リュウ爺」
「ウチのるつぼより上等じゃよ。古いからのぉ、こっちのは」
職人達が各々の探索を進める。ガラス職人用の設備、鉄鋼用の設備の他、休憩室とベットも用意しているし、食料もそれなりに貯蔵した。魔法灯も一通り全ての部屋に設置済みで、これは俺がここに来る度に魔法を補充する予定だ。
「随分とまぁ、整った設備だな。それで、なんだっけ、さんぐらす? だかを作るんだろ? 詳しい話を聞かせてもらおうか」
一通りの探索を終えたケイシーさんが聞いて来る。そのタイミングで、監視塔の見張り台、建物の円柱部分も調べに行っていた双子が戻ってくる。
全員が揃った事を確認して、俺は羊皮紙に書いてあるそれの説明をする。基本的な受け答えは全てケイシーさんがしてくれた。
「まずは鉄でこちらを作ってもらいます」
「…………鉄の長方形の塊だな。結構小さいか」
「はい。で、その、その長方形の塊を使ってこちらを作ります」
「……鉄の箱?」
「そう、型です。この形の鉄にガラスを流し込みます」
「手のひらよりも小さいガラスの板が出来るな。手のひらの半分くらいか?」
「次に鉄でこちらを作ります」
「…………鈍器みてぇな形だな」
先端が140度くらいの鈍角になっている鉄の塊だ。大きくして棒の先に着ければ鈍器になるだろう。
「で、その鈍器みてぇなのを使ってこちらを作ります」
「……真ん中が窪んだ鉄の箱」
「さきほど作ったガラスの板を2枚、そこにはめ込んでガラスで溶接……えっと、繋げる事は可能ですか?」
「リュウ爺、どうだ?」
「可能じゃとは思うが、どういう仕上がりになるかは解らんのう」
「らしい」
「十分です。もしも無理なら鉄で溶せ……繋いでください。最終的にはこうなります」
「…………………?」
言葉は出てこなかった。割と上手く描けたと思うのだが、俺が提示したのは、少しカクカクした、俗に言うゴーグルだった。
眼鏡タイプでは横から見えてしまうため、全体を覆うゴーグル型にした。鉄とガラスで作ったゴーグル。肌に触れる部分は布を当てる予定だが、良いクッション材が他に見つかれば代用したい。布を後頭部で縛って固定して使うようにしたい。これが今の技術水準で制作可能なサングラスだと判断した。
それにだ、ゴーグル型のサングラスは恰好いい。これは絶対にかっこいい。だってアニメで何度か見た事あるもんこういうの。いや、その時のはもっとハイテクな装備だったりするけども。
その設計図を見たケイシーさんが苦笑して言った。
「こいつは……相当時間が掛かるぞ。苦労しそうな初の試みだらけだ」
でしょうとも。だからこそ、
「ええ、だからこそ、俺はここを用意しました」
ニコヤカに言う。職人達は首を傾げた。ウェインも首を傾げた。アルフレッド兄が額に手を当て「そうだよな」と呟いていた。
「休憩所も用意しており寝泊まりも可能、非常食ついでのおやつでも食べながら働ける充実した福利厚生。人里離れているため騒音問題は発生しない立地。魔法灯があるため夜も活動可能。――これから職人さんを増やして、三交代制を導入します。明日からこの場所は、一日中止まる事なくサングラスの生産のために稼働するんです」
「…………なんて?」
せっかくの説明だが、ケイシーには、いや、職人達には通じなかった。
なので、今度は丁寧に、ひとつひとつ説明した。
・三交代制の導入←いわゆる24時間稼働する工場である。8時間、8時間、8時間で1日のうちに3名が交代して作業をするという事。魔法灯によって夜も作業可能なので実現出来る方法だ。
・深夜でも作業する事になるため騒音問題が重要になる。だから人里離れた場所に来ている事。
・ファラン家の騎士を数名配置し、魔獣が襲ってきても大丈夫なようにする事。
・馬車はこちらで定期便を出すため、それをもって作業員の入れ替わりを行う事。
・基本的に弁当は持参する事。しかし有事の際は非常食を食べて良い事
・寝具も用意しているので、場合によっては使って休憩する事。
こんな具合だ。
ケイシーさんはしばらく考えるが、最後にはあっけらかんとした様子でこう言った。
「ちょっとよく解んねぇけどよ、とりあえずやってみるわ。基本は徹夜で作業しがちな私が夜の担当をやったほうが良さそうじゃないか?」
まさかの一番大変な所を引き受けると申し出てくれたところ申し訳ないが、俺は首を横に振った。
「ケイシーさんとは色々打ち合わせもしたいので、原則お昼の、午後か午前は居てください。あと、夜の担当は職人の人数が揃ってからにしましょう。確実に短期間で試作品を作る必要があるので、倒れられても困るんです。あと、1人でも多くの協力者が必要になります。もし職人の伝手が独自にありましたら、提供して頂きたいです」
「へぇ」
ふと、ケイシーさんが俺の全身を見た。この幼い身体を見るとは思えない、どこか不振がるような目だ。
その目の理由については、隠さずすぐに語ってくれた。
「なんのためにそこまですんだよ。ぶっちゃけこれ、そんなに急ぎで作る必要があるとは思えねぇ」
最もだ。普通に見たら、サングラスなんていう物は嗜好品でしか無い。冒険者にさらなる安全を、というには、ただの眩しさ対策では理由として弱い。貴族の狩りのため、なんていうのは論外だ。この理由は、急ぐ理由に使えない。
突然変異の目を隠すため、という本当の理由についてだが、ケイシーさんのみにこっそり伝えるだけならまだしも、職人全員に説明するにはリスクが大きい。これが突然変異の目を隠すためのアイテムだという事が世間に広まってしまえば、その効力は瞬く間に下がるだろう。
だから俺は、嘘を吐く事にした。
「――この発明はね、皆さんを守るための物でもあるんですよ」
と。
ToDoリスト
・サングラスの作成
・サングラスの販路確保及び拡大
・カツラの作成
・双子用サングラスの作成




