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異世界貴族に転生したけど思ったより不満だったので  作者: 南乗七史
第2章・出会いと別れは唐突なようで
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第8話・心待ちにした招かれざる客だったので

 数日が経過した。


「遠慮なく使えと言ったが……いやはや、戦場を駆け巡るようだ」


 と、庭の草の上に腰を下ろすお父様。


 その隣に腰を下ろして、スレイン兄が苦笑する。


「まったくですね。剣と政治以外はあまり勉強してこなかったので、新鮮です」


 2人には相当な結構な無理をしてもらっているが、それをこんな青春の一幕みたいに誤魔化してもらえるのはありがたい。


 まず、お父様は町中の職人に声を掛けてもらった。1人1人と話すのでは無く、縁のある職人同士を集めて会議をしてもらった。会議の目的はサングラスの開発に協力出来る職人の確保と、サングラス開発に協力する職人が今持っている仕事を引き継ぐ職人の選定である。


 この町の領主であるお父様が、()()()()()()()()()()()()()()()を駆使しなければ門前払いの交渉だろうし、事実、非常に難航していた。だがそれでも、話だけは聞いてやる、という職人を、何人か確保してくれた。


 そしてスレイン兄には、この町を越えて近隣のギルドがある町に出向いて貰った。「ファラン子爵家当主の名代(みょうだい)として来ました、次期子爵家当主、ファラン家次期当主スレインと申します」という形で、お父様の権威で持って、いくつかの男爵家、ギルド、商会に接触してもらった。


 接触の内容は「次期当主としての挨拶回り」だが、その実態は「太陽が眩しくて困った事は無いか」の調査と、伏線張りだ。スレイン兄も魔獣狩りを修行の一環で行っているが、それを趣味という事にしてもらい、雑談がてら「太陽が眩しくて、狩ろうとした鳥を逃がしてしまう事がよくある」などと言い回して雑談を持ちかける事で、同意を促すのだ。その上で――


「それにしても、本当にどうなっているんでしょうね、この子は」


 と、スレイン兄はお父様に投げかけた。


 お父様は草の上に全身を投げ出して答える。


「全く解らん。ただでさえスレインもアルフレッドも俺には理解出来ん天才だというのに、2人とは全く別の方向で、俺の見識に無い圧倒的な才能を持っている。アルメルの才能を表現する言葉を、俺は知らない」


 とお父様は言うが、俺は知っている。俺の才能を表現する言葉はずばり「チート」だ。


 確かに、よくある異世界転生物はもっと解りやすかったり、強かったりする。アラサーが現代日本の知識を持ったまま、異世界の赤子からやり直す、というだけなら、もしかしたら作風次第では「ハズレスキルでなんちゃらかんちゃら」みたいに銘打たれていたかもしれない。


 だが悲しいかな、少なくとも俺にとっては、アラサーの知識を持って0歳からやり直し、現代日本には「こういう物がある」という記憶を持って中世ヨーロッパレベルの文明に行く事は、チートだ。


 そういうものが作れると知っているというのは、そういう物が無い世界において、圧倒的なアドバンテージとなる。


 ほんとにね。そうなのよ。知識が何も無いお客様への営業だと本当に楽しいの。お客様が「これで困っててのう」という悩みに「こういう物がございまして」と知っている商品を提案するだけで「そんな便利な物が今はあるんじゃな! いやぁ、便利な時代になったもんじゃのう。買う買う」と幸せ空間を作れるのだ。知らない人間に知っている物を届けられる能力というのは、実はかなりのチートなのだと、俺は思う。……届けられない事がとても多かったからね……前世でも欲しかった、このチート。


 照れて頭をかく俺を苦笑して見ながら、スレイン兄は言った。


「――太陽を克服する商品の開発が進んでいる、と気付いた商人を、パラノメールに召集しろ、だなんて、何を考えればそんな作戦が立てられるんだか」


 と。


 そう、俺はスレイン兄に対してかなり難しいオーダーをしている。子爵家の次期当主としての挨拶回りのフリをさせ、雑談として「太陽の明るさに困っている」と喋らせ――アルメルライトという発光装置を開発したファラン家が、今度は光を抑える装置を作ったのでは、と、気付けた商人を、この町に招待しろ、というオーダーだ。


「何故そのような事をさせたのか、至らぬ父に教えてくれるか、アルメル」


 言葉こそは卑屈なようだが、その口調には愛情があった。


「簡単です」


 と、俺は説明した。


「魔法灯の存在と、それがギルバート商会の発明では無く、ファラン家から買った知識だと知っている情報収集能力。スレイン兄の雑談が、雑談では無く探りであると気付けて、その上でスレイン兄に確認出来る状況判断能力。()()()()()()()、これです」


 そこまで言うと、なるほど、とスレイン兄は納得した。


「あの雑談は、ふるい落としだったわけね、これから協力してサングラスを世界的に流行させるに足る能力がある商会か、そうじゃないかの」


「はい、そういう事です」


 ハンスなんちゃらゼークトというドイツの軍人が言っただか言っていないだか都市伝説かもしれないという話だが、前世の世界における歴史上の人物が言ったらしい言葉がある。


 有能な怠け者は指揮官にせよ。――ラクをするために策を弄し、最大効率の案に辿り着く。

 有能な働き物は参謀にせよ。――上の命令と自分の考えを同時に持って、前線で臨機応変な対応が出来る。

 無能な怠け者は雑兵にせよ。――力不足でも積極的に変な事はしない。

 無能な働き者は銃殺せよ。――頼んでもない事を勝手にしたり功を焦って実力以上の事をしようとし、味方を巻き込んで自爆する。


 学生時代になんとなく知っていて、社畜になった時に心がけた事だ。活躍出来るレベルになっていないなら出しゃばらない、というのも、立派な世渡りなのだと。出しゃばりたくなる場面で何度もそう自分を律したものだ。


 そういうわけで、この考えに準じ、まず無能な働き者は要らないのだ。教育の場を設けて国全体の底上げを図る選択肢もあるが、今回取り扱っている商品は()()()()()()()()()()()()()なのだ。そんな生易しい事を言っている場合では無い。


「1年前に魔法灯という()を放つ装置の開発をしたファラン家の、その長男が挨拶回りをしていて、狩りの際、太陽の()に困っているなどという雑談を持ち掛けられる。この意味に気付ける有能な人間が、可能な限り多く欲しい」


 今回の発明において最も重要なのはサングラス作りでもカツラ作りでも無い。これらは、金をかければどう足掻いても容易い事。


 問題なのは、


「有能な商人をかき集めて、サングラスを普及させるんだね」


 と、スレイン兄が気付く。


「でも、それならなおさら、質を問わず商人を片っ端から協力させてサングラスを販売したほうが良いんじゃないかな」


 スレイン兄はそう問うが、俺は首を横に振った。


「欲しいのは、相手の真意を察する能力です。サングラスを作ったんだ、という真意に気付けた者ならば、サングラスが突然変異の人間の瞳を隠したいための発明という真相に気付けても、少なくとも無暗に言いふらす事は無い。最低最悪の場合であっても、()()()()()()()()()()()選択を選ぶはずなんです。だって、その秘密を知っていれば独占出来ますからね、サングラスで隠された突然変異を」


「なぁあ!?」


 俺の語りに、スレイン兄が悲鳴に近い声を上げる。お父様はどこか「やはりそうか」というような、諦観に近い表情をしていた。


 俺は続けようとしたところで、お父様が先に言った。


「相手の真意を察する事が出来ず、自らの打算も取れない商人にサングラスの情報が渡れば、下種の勘ぐりのみで突然変異の瞳を隠すための商品であるという()()()に至り、広める者が現れる可能性があるんだな」


「…………そ、その通りです、お父様!」


 嬉しくなってしまい反応が遅れた。


 今俺が喋っていたのは完全に現代日本の知識ありきの転生チートな内容だったはずなのに、お父様は適応してみせた。


 人の意思を察する事が苦手な人間は、得てして勘違いしやすい。かくいう俺も、それによって彼女が出来なかったといえるくらいに、言葉や行動を伴わない意思表示を察する事が苦手だった。いや言葉にしてみるとこれ出来ないのが前提のムリゲーだな。


「だからこその、あの雑談か」


 と、スレイン兄が呟いたかと思うと、唐突に目を見開いた。


「だとしたら今回の発明において、あの雑談話からサングラスの発明を理解した上で、僕に理解した事を伝えずに接触してこれる商人こそが、本当に相応しい人間なんじゃないかな。僕の召集に応じた商人では無く、諸々を察した上で、()()()()()()()()()()()()()()()()商人が居たら、そこと協力関係を結んだほうが良いのではないかな」


 完璧に正解である。


 無論、それは理想論だった。そんな商会が現れてくれたら良いなという、俺の本当の願望。現れなくても支障が無いよう計画を立てているつもりだが、現れてくれたら嬉しい、みたいな温度感だ。


 それよりも、営業職で社畜として過労死するまで働いたアラサーの知識に着いてこれる14歳ってなんなんだこのスレイン兄とかいう神童。


 と、そんな事を考えて、返事も出来ていない俺に、後ろから声が掛けられた。


「アルメル様」


 聞き覚えのある声。振り向いた先には妙齢の女性、メイド長が居た。


「ジーマン商会の方がお見えです」


 ジーマン商会。魔法灯を競りにかけた時の競合のひとつであり、お父様が信頼する地元の商会だ。


 そう、地元の商会。


 すなわち、近隣の町に挨拶回りと称して出向いたスレイン兄が、挨拶をしていないはずの商会。


 俺はスレイン兄のほうを見ると、スレイン兄は何度も首を横に振る。


 念のためにお父様のほうを見ると、肩をすくめて一度だけ首を振った。つまり、スレイン兄は勿論、お父様の差し金でも無い、と。


 思わず頬が緩む。


 思い出させるのは、魔法灯の権利が決まった後の、別れ際のやり取りだ。


 魔法灯の販売権をギルバート商会が勝ち取った後の別れ際、ジーマン商会の会長とこんなやりとりをした。


『商人の醍醐味、というと?』


『決まっとりますわい。誰かの願いが叶う時を見届ける事です』


 その時のやり取りをもって、必ずいつか協力関係を築きたいと思っていた、ジーマン商会が、呼ばれてもいないのに、今、このタイミングで接触してきた。


 俺は言う。


()()()に通してください。……さぁ、お父様、スレイン兄さま、身体を起こして」


 販路拡大のために絶対必要だった協力者。今回の発明において最大のネックかつ最重要であった、販路に詳しい有識者――確保完了だ。

ToDoリスト


・サングラスの作成

・サングラスの販路確保及び拡大 ←half

・カツラの作成

・双子用サングラスの作成

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