第7話・奇抜を普通に変えたいようで
「それで、希望納期はいつほどでしょうか?」
重要な事なので確認すると、お父様は狼狽する。さっきは何年か掛けて考えて、と言っていた。しかしそれは本音では無い。訓練場でスレイン兄と双子が決闘した後、スレイン兄が聞いていた。「アルフレッドはもうじき魔法学校へ通うため、魔都メルヘンラークへ行きます。その帽子にフード付きの外套で入れるでしょうか」と。お父様は答えた。「それに関しては条件付きだ」と。
条件とはつまり、俺がその差別対策を完成させる事が可能か否かという事だ。俺が差別対策を発明する事が出来れば、リーシャかサーシャのどちらかを、アルフレッド兄の護衛兼メイドとして付き添わせる。
お父様は答える。
「半年だ」
「いいえ、お父様。それはアルフレッド兄さまが入学するまでの期間です。手続き等もあるでしょう。本当の期限はいつですか」
「問題無い、手続きはしておく。間に合わなければ事情が出来たと辞退すれば良い。よって期間は半年だ」
無料というわけでもなかろうに、人の子供のためによくそこまでやるものだ。
かくいう俺もやる気を出しているのだから、人の事は言えない。
「それにしても、どうしてそこまでして、どちらかを魔法学校へ行かせたいのですか? 護衛兼メイドとして、というには、あまりにもなりふり構わず、という風に見えます」
「…………」
お父様は少し返答を考えた。答えが手元にあるか無いかではなく、どう伝えるべきかを悩んでいるように思う。
そして、お父様は言った。
「今しか無いと判断した」
「今しか? 何がでしょう?」
俺の確認に、お父様は指折り説明した。
「まずひとつ。ファラン子爵家のこの代に突然変異の子供が預けられた。普通に買おうとすれば好事家達によって阻まれ、預かる事は出来ないだろう。好事家では無いと確信出来る上、守るだけの力がある今のファラン家に預けられた今でしか、挑めない事があると判断した」
ひとつ目の指を立て、続けて2本目の指を立てる。
「ふたつ。アルメルが魔法灯を開発し、ファラン家の知名度は上がっている、このタイミングでのアルフレッドの入学。嫉妬対策として護衛を連れて入学する事は不自然ではない」
そして、お父様は3本目の指を折る。
「そして三つ目。彼女達こそが、魔法を学ぶべきだと判断した。俺達は所詮、部外者でしか無い。当事者の苦悩も苦労も、想像する事しか出来ない。だというのに、差別の原因である魔力について、当事者が学ぶ機会が無い。何故差別されているかも知らない。そんな状態で何かを主張しても、誰も説得出来まい。だからこそ、彼女達こそが、魔法を学ぶべきだと判断したんだ」
そこで、緊張の面持ちから一転、少し情けない笑みを浮かべ、もう一本、指を折る。
「あとはこれが最大の本音だ。あまりにも優秀過ぎる子達が居る今のファラン家に解決出来ないなら、この世の誰にも解決出来ないだろう。そうともなれば、諦めもつく」
差別というのは根深い物で、現代日本でも、いや、現代の世界中でも、結局消せてはいない。
「諦める必要はありませんよ」
俺は身を乗り出して言う。
「その変わり、お父様の依頼というからには、それなりの対価はおありで?」
「…………来るべき年齢になったら、領地をひとつ」
「そそりません。俺は領地運営より生活改善がしたいのです。ほら、魔法灯で生活が少しラクになったでしょう? こういう事をやりたいんです」
「ふむ。ならば変わらず、領地をひとつだ。改造しやすい、小さくも資源が豊富な土地で、だからこそ魔獣の種類も多い。近くの町にギルドもある。そういう村に心当たりがある。くれてやる。好きにしろ」
「お父様!!」
太っ腹すぎる。
「言っておくが、来るべき年齢になったら、だからな。今の年齢の子供では、村民が納得すまい」
「解っております、15歳ほどでしょうか。忘れませんからね。後で契約書をしたためましょう」
ニッコニコで座り直す。
この屋敷から離れるのは不憫かもしれないが、今の俺にはフレイヤ10人を100年雇える資金力がある。今回の件の初動でそれなりに失うだろうが、十分、元は取れる。
「それで、いったい何をするつもりなんだ? 何か考えがありそうだが……」
と、アルフレッド兄が聞いてきたので、俺は答えた。
「サングラスとカツラですよ」
「「さんぐらすとかつら?」」
お父様とアルフレッド兄が口を揃え、スレイン兄は静かに首を傾げる。
「黒く着色したガラスで目を覆うのがサングラス。偽物の髪の毛を被るのがカツラです」
説明すると、お父様が顎に手を当てながら言う。
「確かに目と髪は隠せるが、それはそれで奇抜ではないか?」
「はい、奇抜です」
否定のしようがない。そんな見た事も無い装備をしていたらどう足掻いたって怪しい。
「――なので、それを普通にします」
「奇抜を……普通……?」
「シャーリーと光魔法の研究をしている時に気付いたのですが」
と、俺は少しの嘘を混ぜる。前世の知識です、なんて、言えるはずが無い。
「黒く着色したガラスは光を妨げ、太陽の眩しさを克服できます。まので、冒険者や騎士、狩りを嗜む貴族に広げて、太陽克服のためにサングラスを着けているという事を、半年以内に当たり前にするんです。そして髪の毛は――人から買います。髪の長い人から髪を買い、それを編んで、偽物の髪の毛を作るのです。そこまですれば、髪は隠している事がバレないし。目を隠す事は普通になる」
俺のその解説に、お父様が問う。
「出来るのか、半年で、そこまで」
その疑問は最もだ。俺も今、少々の無茶ぶりに興奮している。
「出来ます。問題なのは、どこまで出来るかです」
言うと、お父様は俺の目を見つめながら、また問う。
「それはどういう意味だ?」
俺は答える。
「サングラスとカツラの製造方法は思いついています。そして俺には金がある。これらを作る事は職人に依頼すれば容易い。問題なのは、売れた量です」
そこまで言うと、お父様は理解したらしい。
「どこまでの人々に理解と認知を……いや、誤解と認知を広められるか、という事だな」
「そうことです」
サングラスは便利だ。本当に眩しさを軽減してくれる。だから、そういう体で多くの人々に広める。
そして、本命として、突然変異向けのサングラスも用意し、混ぜる。
「そのために、お父様、スレイン兄さま、協力して頂きたい事がございます」
そう言うと、何故か隣のアルフレッド兄がビクンと跳ねた。
突然の事にスレイン兄とお父様がアルフレッド兄を見た。
アルフレッド兄は冷や汗を浮かべながら言う。
「いいか、アルメル。お前はお前が思っている以上に人使いが荒いから、少し遠慮するくらいが丁度いいかもしれないぞ?」
土くれのフィラメントで相当こき使っちゃったからな……。
「遠慮、ですか……」
呟きながらスレイン兄とお父様を交互に見て、大丈夫だろうと微笑む。
「要ります? 遠慮」
2人は即答する。
「不要だ。遠慮なく使え」「他ならぬ弟の頼みだ。聞かないわけにはいかないさ」
それは僥倖だ。
さて、協力者の了承も得られた事だし、まとめよう。
まずひとつ目は、サングラスの作成。流石に素人の俺には出来ないので、ガラスと金物を細工出来る職人を長期間独占する必要が出てくる。独占する金は問題無い。俺が払う。だが町の職人を独占すれば必然的に町にそれが不足する。ここで、補完が必要かどうかを調査し、必要ならば外部から輸入する事も考えたい。とにかくサングラスの開発は可能な限り早く終わらせたい。
ふたつ目にやるべきは販路の確保・拡大だ。完成したサングラスをもって販路を開き、冒険者、騎士、狩りを嗜む貴族等に浸透させたい。最低でも貴族の護衛が身に着けていても不思議では無く、誰かが「変なもの着けてる……」と噂しようとしたならば「ああいう戦闘用具なんだよ」と知っている人が止めるくらいの認知度を目指したい。問題はガラスという高級品についてだ。サングラスはそれなりの値段になるだろう。
次にすべきはカツラの作成だ。これは非常にシンプルだが地道な作業となる。ワーウルフの時のような細かい作業だが、今の俺には金がある。細かい作業は人を雇えば良い。問題なのは労働者の質だ。識字率10%の世界で、確実に業務内容を伝える事は難しい。どうやって少しでもマシな労働力にその仕事をやってもらうかを考える必要はあるだろう。
そしてに、場合によってだが、リーシャとサーシャには専用のサングラスが必要になるかもしれない。
サングラスを掛けるだけで完全に目の色が隠れる色とデザインになれば良いが、そうならない可能性がある。なぜなら、2人がオッドアイだからだ。目の色を誤魔化せても、左右で色が違う事は誤魔化せないかもしれない。そうなってきたら、2人専用のサングラスを工面する必要があるだろう。こればかりは、まずはサングラスを作ってみなくては解らない。それでも、念のために最低のシナリオを想定し、トラブル対応出来るよう早めに進める必要があるだろう。
とにかく、これからの流れをもう一度。
1・サングラスの作成。
2・サングラスの販路確保及び拡大。
3・カツラの作成。
4・双子用サングラスの作成。
さぁ、変わった見た目の人たちが悪目立ちせず、普通のフリが出来るように。
やってやりましょう。
ToDoリスト
・サングラスの作成
・サングラスの販路確保及び拡大
・カツラの作成
・双子用サングラスの作成




