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異世界貴族に転生したけど思ったより不満だったので  作者: 南乗七史
第2章・出会いと別れは唐突なようで
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第2話・贈り物の選定は大切なようで

 シャーリーが結婚し、メイドをやめる事になった。


 そう、つまり……寿退社である!!


 いやぁ、めでたい! まさかこの歳で寿退社を祝えるとは思わなかった!


 お相手はなんと、ギルバート商会会長の次男坊だ。


 ギルバート商会とあれから何度か談合が開かれ、魔法灯の改良やデザイン、販路等についての議論を交わした。時折会長が来られない時に息子の長男や次男が来る時があったのだが、その際にシャーリーの奥ゆかしさと気遣いが気に入られ、次男の嫁にと交渉されたらしい。


 婚約やプロポーズでは無く、交渉という表現になるのは、これが当然のように政略結婚の面も宿しているためだ。この場合で言うと『うちの商会、あんたの知り合いと家族やんなぁ? もちろん贔屓にしてくださりますよね?』『あんたんとこの次男の嫁、わしの知人じゃけん、常識的に考えてアコギな商売せず勉強しよるんじゃろうのう? おお?』である。


 少しの心配も無いと言ったら嘘になるが、少なくとも相手は、お父様が信頼する男爵家が信頼する商会だ。信頼に値する。シャーリーは幸せになれるだろう。


 そうなるとだ。祝いの品は必要だろう。祝いの品を送る文化がこの世界のこの国、この時代にあるかは解らないが、文化が無くとも送りたいものは送りたい。


 前世では管理職になっていたこともあり、何人かの同僚や先輩を見送った。


 普通に仕事が合わなくて辞める者、病気等を理由にやめる者も居たが、キャリアップを目指した転職や寿退社、定年を迎えたベテランのゴールテープを迎える瞬間は、とても好きだった。


 となると、贈呈品をどう選べば良いかを相談しなければならない。こういう時は花束だろう! という固定観念がしゃしゃり出てくるがそれは普通にNGだ。何故ならギルバート商会のお膝元までは馬車で5日かかる。領地内でもかなり遠いのだ。花なんて、到着する頃には枯れてしまう。


 というわけで


「あら、シャーリーに贈り物、でございますか。それは素晴らしいご判断にでございます」


 暗めの茶髪と暗めの茶色い目、キリっとした顔立ちなクールビューティー、ラブリー・マイ・エンジェルことフレイヤに聞いてみた。


「愛情が籠っているものならばなんでも……とは思いますが、わざわざ相談するという事は、ちゃんと相手の為になりたいと考えていらっしゃるのですね。紳士的な振る舞い、良きです」


 真面目に喋ってるのにために変な表現になるところもかわいぃ……。


「シャーリーは奥様にも懐いていましたわ。奥様かアルメル様に由来のある物がよろしいかと存じます」


「お母さまか俺の?」


「ええ。シャーリーはここに来てから4年か5年ほどになるでしょうか。自分の趣味も持たず、作らず、休日も遊ばずに、ヘンリー様かアルメル様の事を考えていましたわ。そう考えると趣味になるような物を送るのも良いかもしれませんが、空振りになるかもしれませんし、やはり無難なのはヘンリー様かアルメル様に由来がある物ですわね」


 そういう事らしい。




 というわけで。


「シャーリーへの贈り物ですか? まぁ、羨ましいですね」


 アルフレッド兄のお付きのメイド、ウェインにも聞いてみた。


「身に着ける物はダメですよ。そういった物は、結婚相手や家族から貰いたいものですから」


 え、そうなの?


「あの子なら、役に立つ物が良いと思います。メイド部屋でも結構遅くまで光魔法の練習してたりと、努力家な子なので。変にプライベートの物だと使われないどころか、貰ってしまったから仕方なく無理に使う、と考えて、重りになることもあるかもしれません」


「確かに。すごく想像できる」


「そうでしょう? だからそれこそ、使い道があって便利な、役に立つ……ペンとか、掃除用具、裁縫道具みたいな」


 ほえぇ、そういうのも有りなのか。


 なるほどなるほど、どちらも良い意見だ。贈り物は決まった。


 そして、シャーリーの退職日がやってきた。




「お、送り迎えなんて……そ、その……あ、ああ、ありがとう、ございます……」


 シャーリーが屋敷から出た所で、俺とお父様が彼女を見送る。


 ギルバート商会のとこの次男さんとは先ほど話を終えたので、後は、彼が乗る馬車にシャーリーが荷物を詰めるだけ。


「6年間ご苦労だった。アルメルの世話は癖が強くて大変だっただろうが、今までよく、立派に支えてくれた」


 と、お父様は告げる。


 シャーリーは動揺しながら


「は、はい、いえ……いえ、いえじゃなくて……えと……」


 いつも通りのシャーリーに思わず笑みが零れる。


「シャーリー、今までありがとね。シャーリーが居なかったら、こんなスムーズに魔法灯は完成しなかったと思う。助かったよ」


 そう言うと、シャーリーの瞳から涙が溢れだした。


 泣きすぎの嗚咽といつものコミュ障によって、どうにも返事は聞けそうにない。卒業式で答辞をする生徒が泣き始めて挨拶が続けられなくて「がんばれー」と謎の声援を送られているあの時の気分。ほんとに「がんばれー」と言いたくなる。


(今生の別れでもなかろうに)


 と、卒業式の度に、当時の俺は思ったものだ。女子達は泣くのが好きなんじゃないかと思うくらいに皆して泣いて、男子はそれをちょっと笑いながらも少しカッコつけた別れ話をしてたりして。


 生きていればそのうち会う機会もある。人生は何が起こるか解らない。何人もの人と別れ、出会い、別れ、再会したりしなかったりを繰り返した、別れのエキスパートである俺は、だからこそ、ふと思った。


 そうだ、これは多分、今生の別れだ。


 ギルバート商会の拠点は馬車で数日掛かる。往復では一週間を超える。


 あくまで商会の次男の嫁であるシャーリーが、前の職場の客という立場でしかない俺に会いに来るために費やせる時間では、断じてない。


 子爵家の三男である俺が、他の平民や使用人、メイドを差し置いて、元メイドに会うためにと留守にして良い期間でも、残念ながら、無い。


 紙は高級品だ。手紙のやり取りというのも、元メイドの既婚者と貴族の三男坊で交わすには、ハードルが高い。


 だからこれは、今生の別れなのだ。


 俺とシャーリーは、非常に高い確率で、二度と会えない。


 なら、いいか、と思った。


 俺はシャーリーに、以前から伝えたい事があった。でもそれはハラスメントかもしれないから言わないでおいたのだ。


 間違っているかもしれないし、状況を悪化させてしまうかもしれない。何かの勘違いかもしれない。だけど俺は、シャーリーに伝える事にした。




「シャーリー。君は優しい子だ。優しいから少し、言葉を選びすぎてしまう」


 涙を抱えたシャーリーの瞼が真っすぐに俺を見る。


 俺は続ける。


「相手を傷付けないように、不快にさせないように、言っていいのか検討して、言い直して、どもって。だから噛むし、だから話につまずく」


 シャーリーは真っすぐに俺を見る。


 だから、俺は笑った。きっとこの言葉は、正しく彼女の背中に届くと信頼して、言葉を選ぶ。


「だけど大丈夫、君は優しい子だ。だからもう少し、思ったまんまで喋っても、良いと思うよ」




 シャーリーは黙った。お父様も黙っていた。後ろでシャーリーを見送ろうとしていた他のメイド達も黙って、何故か馬車の前で待つギルバート商会の次男が少し遠い場所で頷いていた。流石、この短期間でシャーリーの素晴らしさを見抜いた男なだけはある。解っているようだ。安心した。


 しばらくして、シャーリーがようやく口を開く。


「……思った……まんま……」


 それは独り言だった。俺に向けられた言葉では無い。


 多分、自分に向けて言ったのだ。俺もよくやったよそういうの。誰に言うでもなく、大切な商談前には一人で呟くのだ。「やるぞぉ」と。


 そしてシャーリーは、涙を拭いてから俺へと向き直り、一度深呼吸してから、見た事が無いほど意を決した顔で、彼女は言う。


「アルメル様! 夜更かしは、ダメです! アルメル様が、どんなにすごい物作っても、アルメル様が、体壊したら、私、なんも嬉しくないです!! お体を、大切に!! 長生きして、沢山のものを、作ってください! 今まで、本当にありがとうございました! 旦那さま……私が、だれかの、役にたてる、ばしょを、くれて……ほんとうに、ありがとう、ございました!! みんなぁ、こんなわたじに、だくざんのごと、おじえてぐれて…………ありがとうございまじだ!!」


 ああ、誇らしい。こんなにも誇らしい事があっただろうか。


 頭を下げた彼女を見守り、頭を上げた彼女に、微笑んで手を振る。そして、せっかく拭いたのにずっと涙でぐちゃぐちゃな顔のまま背中を向けた彼女に、信頼を向ける。()()()()()()()()()()()()のだ、彼女にはもう伸びしろしかない。


 後ろのメイド達からも、いくつか鼻をすする音が聞こえた。


 最後にこちらへ最敬礼をして馬車に乗り込んだシャーリーと次男君。


 だが――


「ぴええええええええええええええええ!!」


 ――シャーリーが馬車から転がり落ちた。


 すごい勢いなので次男君も巻き添えにしていた。


「しゃ、シャーリー!」


 メイド達が彼女の元へ駆けつける。


 だがシャーリーは思ったよりも元気で、馬車の中を指さしながら俺を見て、わなわなと震えていた。


「あ、ああああ、ある、ああるあるめる、あるめるさま! こ、これ、ここ。これは、だ、だいじ、だいじな、だいじな、その……荷物に、まま、間違いが、あ、あったみたいで、こ、ここに、ここに」


 ああ、良いリアクション。ドッキリのシステムにして良かったぁ。楽しくなってにやにやしちゃう。


「持っていってくれ。君にこそふさわしい」


 事情を呑み込めないメイドも居るようだが、フレイヤとウェインは馬車の中を見て察したらしい。ウェインは俺に満足げな笑みを浮かべてからシャーリーを抱きしめて、フレイヤはよくわからないクールな表情のままサムズアップを俺に送った。可愛い。


 連行される宇宙人みたいに馬車へ運び込まれるシャーリーと、何度もこちらに頭を下げながら周りを心配する次男君。わちゃわちゃとした光景を楽しく見届ける。


「贈り物で悩んでいたらしいな。何を送ったのだ?」


 走り出した馬車を見送りながら、お父様が聞いてきた。


 俺は答える。


「魔法灯ですよ。お父様を説得する時に使った――俺とシャーリーの2人で作った、世界で唯一無二の、この世界で一番最初の魔法灯です」


 2人の思い出がある品であり、なによりも確信している。これは役に立つ。


 あれを使い、勉強でもするといい。帳簿でも取るといい。旦那とのイチャイチャにでも使うといい。シャーリーが居れば魔法灯は使い放題なのだから。あの装置は、彼女の生活を明るく照らす。生活が明るければ未来だって明るいはずだ。


 ああ、そういえば、前世でこんな言葉があった。


 さりゆく馬車に手を振りながら、俺は日本語で呟いた。




「ひかりあれ」




「ん? なんだ、今の言葉は。まさか外国の言葉まで覚えたのか?」


 と、聞こえていたらしいお父様が言及してきたので、俺は笑って答える。


「そんなところです。幸せな未来が訪れますように、みたいな祝詞(のりと)ですよ」

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