表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界貴族に転生したけど思ったより不満だったので  作者: 南乗七史
第2章・出会いと別れは唐突なようで
15/31

第13話・別れはいつも唐突なようで

 魔法灯の件から数か月が経過し、ギルバート商会のお膝元では魔法灯の販売が開始されたらしい。


 ギルバート商会は馬車で5日ほど掛かる道のりを何度も往復し、最後の最後まで改善に付き合ってくれた。貴族用に豪華に窘めた物と、市民用に諸々を節約した安価の物を作るという事にも理解を示してもらえて、ここと契約を結んで良かったと心から思う。その試供品が俺の元へ届けられた。


「おおおおお」


 あまりの感動に声が震える。


「す、すすす、すごい、です……」


 シャーリーも同様に感動して戦慄(わなな)いている。しかし、見ている物が違った。


 俺は平民向けに作られたコンパクトな物を、シャーリーは貴族向けに作られた豪華な物を見て感動しているのだ。


 基本が木箱なのは変わらないが他がすごい。まず平民向けのコンパクト化だが、俺が作った物の半分のサイズになっている。土くれのフィラメントに関しては少し大きくなっているが、これは流石にアルフレッド兄の実力に迫る者を雇えなかったかな、と考えてみたのがビックリ、貴族向けの土くれのフィラメントは、言っては悪いがアルフレッド兄とは格が違った。さらに細かく、そして表面が美しく光沢を持っているもんだから、光の強さはさらに増していた。まさに熟練の技がそこにはあった。


 この製品による品質のバラつきには理由がある。ギルバート商会は、土くれのフィラメント作成にあたり、魔法使いを独自に雇うのではなく、ギルドに納品依頼を出したのだ。


 ギルド。冒険者に依頼をし、達成されれば報酬を支払う商業。


 まぁそういうわけで、俺が感動ポイントその1はその辺りの事だ。


 冒険者という職業は、本当によくある異世界ファンタジーの通りに、この時代の花形とも言えるほどにとくかく人気な職業だ。命がけで普通に死ぬ冒険者だが『魔獣という驚異から人々を守る英雄!』『貧民街の生まれでありながら王国最強パーティーの一員になった彼の人生とは!』と、吟遊詩人は歌にするし、子供の子守に聞かせる御伽噺は多くが冒険者ぼ冒険譚だ。子供が憧れるのは自然な事と言えよう。


 そうでなくても、あのパーティーが昨日コカトリスの群れを倒してくれたってよ、悪い傭兵団から町を守ってくれたってよ、と噂は瞬く間に広がる。するとどうだ、人々は妄想に更け、熱く談義する。コカトリスの群れ退治で一番活躍したのは誰なんだろう、とか、どういう戦闘だったんだろう、と、熱く、本当に熱く語りあう。有名で人気なパーティーであればあるほど、その妄想話――すなわち同人活動は盛り上がる。


 ――冒険者こそが、この世界のこの時代における最大人気の娯楽コンテンツなのである。


 サッカー漫画が盛り上がれば子供はサッカー選手になりたがる。トップリーグで活躍する野球選手が連日ニュースになって盛り上がっていれば子供は野球選手になりたがる。バスケの歴史的作品がすばらしいリメイクをされれば子供はバスケ選手になりたがる。


 そんな感じで、冒険者は不動の人気娯楽コンテンツなので、子供はやたらと冒険者を目指す。


 だからこそ、


 その結果だろう。土くれのフィラメントの仕上がりは、駆け出し冒険者が依頼の一環として一生懸命作ったものと、中堅冒険者が片手間の小遣い稼ぎに行ったものと、技術は一流だが身体が動かなくなった大ベテランが人生の集大成として作り上げるもので、品質のバラつきが生じる。冒険者に安定した依頼が出されるのは、非常に有意義な地域貢献と言えるだろう。


 そうして様々な実力の冒険者が作った様々なフィラメントを、品質ごと振り分ける。こうなれば、低レベルの冒険者から高レベルの冒険者までくまなく依頼が届くというわけだ。素晴らしい。


 感動ポイントその2は、デザインと配慮だ。例えば平民向けの魔法灯はシンプルな上にコンパクト化されていて、子供が日曜学校へ通うついでに魔力の補充をしてもらうため教会へ持っていくというのが十分に可能な作りとなっている。


 対して貴族向けは、全ての角が金で装飾され、全ての面が彫刻で文様が刻まれている。その模様の一部に溶け込んで『アルメルライト』という文字列が見えたが、それは見なかった事にしよう。


 とにかく豪勢で、彫刻の模様も、オリジナルを注文すれば答えてくれるだろう。


 子供が持つ魔法灯を盗むために子供を襲う野盗、というのも考えられるが、まぁそのようなやつは初めから子供を誘拐するだろう。それとなく父上に、子供が日曜学校へ赴く間の騎士団によるパトロールを強化するよう交渉しておこう。


「本当に……、ほんとうにすごいです。……私、こんな……」


 と、シャーリーはちょっと様子がおかしいレベルで感極まっていたので、なんとか宥める事にした。


「どうしたの、シャーリー、なんか、達成感だけじゃないようにも見えるんだけど」


 言うと、シャーリーは驚きなら俺を見て、魔法灯を見て、自分の手を見てから、もう一度俺を見た。


「そ、えと……その……言わないといけない、ことが、あ、あって……」


そう言って、シャーリーは俺のほうを向いた。真剣な話なのかな、と思ったので、俺も魔法灯から目を離してシャーリーを見る。


「え、えええと……その、私が孤児なのは、お話した、通りです……」


 と、シャーリーは静かに語り始めた。




 ―――――(◇◆◇◆◇)―――――




 私は、幼い頃の記憶を辿り、思い出したくもない事をなんとか思い出しながら、だけどアルメル様にはグロテスクな部分は伝わらないよう、慎重に言葉を紡いだ。


「私が孤児なのは、お話した、通りです……」


 親が病死した。多分なんだけど、性病というやつだったと思う。


 父親は居なかった。母親だけだった。母親はしょっちゅう私は殴った。あんたさえ生まれてこなければ、と、しょっちゅう殴った。私は、産まれながらにして、産まれてこないほうが良かったんだと思い知っていた。


 母親が死んでご飯がしばらく食べられなくて、どうしようと考えていたら私に迎えが来た。


 なんでもよかった。


 多分娼婦だったのであろう母親の仕事場の人間が来たのなら、そこに送られるしか無いのだろう、と、抵抗する気力も湧かなかった。母親に何かを教わったことは無い。日曜学校にも通えていない私に、どうせ未来など無い。


 でも、救いの手は差し伸べられた。私は教会に、孤児として引き取られた。




「教会に……その……身寄り無し? の、孤児? として、引き取られた、私は……そこで、その…………光魔法、を……教える? して……頂いて……」




 それからは、人生は好転するばかりだった。光魔法の会得が早いとシスターさんに言われて、産まれて初めて、褒められるという事を体感した。身に余る光栄だった。


 成績も良いと認められた。他に何があるのか知らなかったから、シスターさんや神父様に言われた通りに勉強しただけで、何故か褒められた。


 言われた通りの事を、言われた以上にやれば殴られない。産まれてからずっとそんな環境だった私には、その環境はあまりにもラクちんだった。


 それなのに。


『ダメ……そんな目は、絶対にダメ……』


 1人の女性が、私の前で膝をついた。雪の降る寒い日だった。


 教会から貰った黒パンを片手に貧民街へ帰ろうとしていた私を強く強く抱きしめ、美しい金髪の女性は私に言った。


『そんな目をさせてしまってごめんなさい。ウチに来ましょ? 大丈夫、教会からあなたの話を聞いてきたの。あなたを優先して欲しいって……あなたは頑張れる子だからって。だからね、うちにおいで』


 そうして、その女性は私の手を、半ば無理やり引っ張っていくのだった。




「それで……えっと、ヘンリー様の、ご厚意で……ファランさ……家? ファラン家に、連れ……お招き頂いて……」




 そこからの人生は、ちょっと意味が解らなかった。


 何故か、ヘンリー様は自分の子供の世話を私にさせたがった。数えで1歳の乳幼児。これが人間の子供だと理解する事にさえ時間が必要だった。その子供の名前がアルメルだと覚えたのは、屋敷に来て数か月が経ってからだ。


 ヘンリー様の夫、ダグラス様も、何故か私を気にかけてくれた。


 メイド長のしごきは日曜学校とは比較にならないほど厳しかったが、次期メイド長候補の二人が優しくフォローしてくれた。ので耐えられた。そのうちの一人はフレイヤ様。今もファラン家に仕え、今では次期メイド長の唯一無二だ。


 みんな、頼りがいがあった。


 アルメル様が1歳程度の頃、謎の流行病が、沢山の命を奪った。


 本当に、数えきれない人々が命を奪われた。誰もが、咳をして、咳をして、咳をして、死んだ。


 ダグラス様の祖父、祖母も死んだ。ダグラス様の妹も死んだ。メイド長も死んだ。ヘンリー様も……存命だが、今は故郷で療養中だ。


 人手も何もかもが不足し、その流行病に感染している可能性がある者に1歳児の世話をさせるわけにはいかず、なし崩し的に、ヘンリー様が最後に産んだ子供――アルメル様のお世話を、私が引き継ぐ事になった。


 その経験は……私の人生では、望めるはずも無かった子供を、産み、育てているかのような体験だった。あまりにも、過剰な幸せだった。




「その……運め……いえ、流れ、で、アルメル様の、お世話、をさせて頂いた……それだけ……それだけしか、何もしていない私が……助けられて……えと、お世話になる、ばかりだった私が、こんなに――」




 そんな、貰ってばかりで、救われてばかりで、助けられてばかりで、大嫌いな私が、こんなに。






 ―――――(◇◆◇◆◇)―――――






「孤児だった私は教会に引き取られ、孤児として生きていたらお母さまに見初められ、ファラン家のメイドになった。ああだこうだあって、三男お付きのメイドにまでなる事が出来ました(※流暢シャーリーによる翻訳であり、こんなにハキハキ喋れていません。噛み噛みです)」


 との事だが、俺にはよく解らない。人間関係やロマンというのは追い続けた記憶はあるが、そういう、所謂()()()()()のシンデレラストーリー? なのだろうか。そういうのは、未履修なのでよく解らない。まぁ、メイドになったくらいでシンデレラストーリだというのもやるせない話だが。


 と、困惑している内に、シャーリーは言った。


 噛み噛みで、突っかかってて、語彙力も低いので、俺なりに翻訳させて貰うとこんな感じの台詞を、シャーリーは言う。




「結婚する事になりましたので、メイド業を辞職させていただきます。今まで、本当にお世話になりました。最後に、こんなにも人の為になる開発に携わらせて頂き、光栄です(※翻訳です)」




 と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ