第12話・物販交渉を始めるようで(後編)
まずは簡単に、超大雑把に説明すると、この世界・この時代の爵位には種類がある。
公爵。侯爵。伯爵。子爵。男爵。
準男爵や辺境伯なども居るが、それは主軸から外れるので割愛。
公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵を俺の価値観、あくまで俺の感覚として説明すると、こうなる。
公爵→総理、副総理。
侯爵→各種大臣。
伯爵→国会議員。
子爵→都道府県知事。
男爵→市町村長。
あくまで、本当にあくまで俺の解釈だ。間違っていても燃やさないで欲しい。
ファラン家は子爵家なので、複数の男爵家を統べる立場にある。お父様が言った『領地内の男爵家のうち信頼出来る者達に、競りに参加させる商会を選定させたい』というのはつまり、現代日本語で言う所こうなる。
「悪さしてないと信頼してる市町村長に聞いとくよ。『おめぇらの地域で、地域密着から県全体を活動範囲にしても大丈夫な会社ある? 紹介してくんね?』って。そこと、県知事お墨付きの会社を勝負させるね」
こんな感じになる。
普通に考えたら無茶だ。だが、その無茶が欲しかった。
「お呼びいただきありがとうございます、ファラン子爵。なんでも、販売したい権利があるとか」
最初に到着したのはお父様お付きの商会、ジーマン商会。
お父様はジーマン商会のジーマンさんと握手をかわしながら、俺の紹介をする。
「息子のアルメルが発明したものの製造方法と販売権をね。俺は今回、息子の手伝いに過ぎん」
「こちらの……おや、もしやアルメル様ですか? 大きくなられましたな!」
ジーマンさんは俺のほうを見て怪訝そうな面持ちを浮かべたかと思うと、すぐに気付いたらしく、破顔した。6歳の子供が作った物なんぞ大したものじゃなかろう、という、まぁ普通に考えたら正しい反応から、俺が神童という噂を思い出したのだろう、少しは期待をしてくれたのかもしれない。
「6歳になりましたアルメル・オーズ・ファランでございます。この度はお忙しい中ご足労頂き、まことにありがとうございます。ジーマン商会とは以前より関わり合いになりたいと思っていたため、このようなご縁が出来て光栄にございます。良き商談にいたしましょう」
「!? なんと、これほど……」
ジーマンさんは息を呑んで驚嘆し、一歩たじろいだがすぐに立て直して姿勢を正した。
「これは、失礼いたしました。ジーマン商会代表、ロンド・ジーマンでございます。噂に名高き神童が考え付いた画期的な玩具でもあるのかと思ったのですが……もしやそのレベルではございませんな?」
おお、ギャンブルな営業トークをするものだ。これで子供が産み出した新しい玩具だったら信頼を失いかねない発言だが、今回はその博打は当たりだ。営業トークとは、営業トークと知っていても気持ちよくなれるトークスキルなのだ。俺は得意になって答える。
「ええ、腰を抜かさぬように、コルセットをご利用したほうが良いかもしれません。メイドの物を貸しましょうか?」
「ははははは! 腰を抜かすほどの商品に出会えるならば商会の本望! その時は、コルセットになど甘えず、腰を抜かして楽しみますよ!」
「あはは。その光景を見れるよう、頑張ります。カーミラ、こちらの方を客室へ」
「はい」
メイドの一人にジーマンさんを案内させる。
「中々様になっているというか……様になりすぎだろう、アルメル」
「お父様から事前に情報の提供があったからですよ。ああいうノリが好きなのだと事前に解っていなければ、ああはならなかった」
営業とは、営業を始める前から勝負が決まっている、と主張する営業も居る。俺とは違う考え方だが、その考えも一理あると思う。少なくとも下調べは大切だ。
こんな感じで、3つの商会の代表と顔合わせを行うのだった。
―――――(◇◆◇◆◇)―――――
揃ったのは下記の3社。
ジーマン商会。
ギルバート商会。
オフマン商会。
どの人もパッと見は誠実そうだ。
「お揃いのようなので、早速競りを始めさせていただきます。シャーリー、持ってきて」
と、俺はう少しわざとらしく営業を始める。
「皆様は、夜の闇を怖いと思った事はあるでしょうか。幽霊が居るのではないか、足元は安全か? 暗殺者が紛れていないか? 不良や酔っ払いが肩をぶつけてきて絡まれたりしないか? そういう不安を夜に感じる事はありませんか?」
商会の代表3人の顔を順番に見る。
「あるなぁ」「蝋燭の蝋が手に落ちてきて熱いんですよね」「ああ、それも怖いですなぁ」「袖にこびりついて取れなくなって嫁に怒られるとか」「うはっ、毎晩のようにそれですわ」
心から楽しんでいる風に場を盛り上げてくれる3人。
「これは、それを解決出来る代物にございます」
シャーリーがワゴンに乗せた魔法灯を運んでくる。
「どれど……れ……?」「……ほお?」「……ふむ」
さっそく観察を始める3人。
長さ30cm、幅20cmほどの木の板が底辺に一枚。
その左半分強を、ほぼ正方形の木の箱が占める。
そして残る三分の一には台形の木の箱と、その上に乗る謎の形をした鉱石のような物。
「これは……なんでしょうか、ファラン様?」
素直にそう聞いたのはオフマン商会。解らなければ解らないという気風なのだろう。
「シャーリー」
指を鳴らすと、シャーリーが部屋のカーテンを閉めた。
遮光性能は高くないので、夕方程度の暗さになる部屋内。商会の3人は首を傾げる。
「これは、夜の不安をかき消す装置です」
そう言いながら、俺はゆったりとした仕草でレバーを動かした。
そして、ゆっくりと、台形の上に乗る土くれのフィラメントが発光し、部屋内を昼の明るさに戻した。
「…………」
三者三葉の驚き方を見せてくれた。
ジーマン商会は「なにいいいいい!?」と腰を抜かし、ギルバート商会は両手で口元を覆いながら近づき、オフマン商会はその場で頭を抱える。
俺はゆっくりとレバーを動かし、光を消した。
「…………い、いまのは……」
と、腰を抜かして床に倒れているジーマン商会が問う。
俺は答えた。
「光魔法かも、と思うでしょう? ですので、我々は装置から離れますので、皆さま、お好きな方が、お好きなタイミングで、もう一度、ここのレバーを、こちらへ動かしてください」
言いながら、俺は後ずさり、しまいには手で目元まで隠しちゃったりして。
シャーリーも俺と同じような事を真似てくれていた。
誰が動かしたかは解らないが、部屋の中が何度も、明るくなったり、暗くなったりを繰り返す。
「どうです? 気に入っていただけたようですが」
魔法灯で遊ぶ3人に声を掛けると、部屋が暗い状態で、まずはジーマン商会が言った。
「こ、こここここ、これはっ……! これはいったい……いったいなんでございますか!!」
聞かれたので目隠しをどけると、ジーマン商会の横で他の2人がうんうんと頷いていた。これはいったいなんなのかが知りたいらしい。
俺は満面の営業スマイルを浮かべて答えた。
「これこそが、俺が作り上げた世紀の発明!! 魔法灯にございます!!」
商会の3人がまたも三者三葉の驚きを見せる。
「光魔法を、光魔法使いじゃない者でも、好きな時に発動出来る! しかも、この明るさで! こちらの私が作ったものなら、教会のシスターにお願いすれば、日曜学校の1科目程度の時間で補給出来る光魔法で、まる一日は照らせます!」
「な、なななん、なんと!!」
「教会には既に連携済みで、この装置への光魔法の補充は教会で請け負う事を約束頂きました。……勿論諸々の条件はあります。教会には無償でこの魔法灯を提供する事。貴族向けの高級品のみならず、かならず平民向けの価格の物も作る事。――さぁ、この発明、いくらで買い取りますか?」
問いかける。
3人は黙り、しばらくの時間が経った。
沈黙を破ったのはオフマン商会だ。
「申し訳ございません、我が商会では、この商品は取り扱えません」
そう言って、オフマン商会は頭を下げる。
「え……どうして、ですか?」
聞くと、オフマン商会は苦笑する。
「コツコツ、地道に、がオフマン商会のモットーでして。これほどの大発明を販売出来るほどのノウハウを、我が商会は持ちません」
すごく好きな考え方だ。必ずいつか取引したい。
「なら」
と、続いたのはギルバート商会だった。魔法灯から一切目を離さないまま、ギルバート商会は続ける。
「買い切り。大金貨、500枚」
「ほあああ!?」「なぁああ!」
この世界の金銭感覚が解らない俺に変わって、オフマン商会とジーマン商会が声を上げて驚く。
ジーマン商会は考える。
「ではこちらは、純利益の10%ですぞ」
買い切りとは、大金貨500枚を最初に支払い、それ以降の利益は全てギルバート商会になる、という事。
対して純利益10%というのは、少し複雑だ。例えば魔法灯を1台千円で売るとする。材料費、人件費が1台あたり900円掛かっている場合、その時点での純利益は100円となる。
しかし、ここで罠がある。少なくとも現代日本では、売り切れるより売れ残る物のほうが多い。
例えば1台千円の魔法灯を10台作って9台が売れた場合は、100円の純利益が9個だから900円の純利益だ。――プラスマイナス・ゼロだ。900円かけて作った魔法灯がひとつ、売れていないからだ。
俺は答える。
「いや、申し訳ありませんが、買い切りでお願いしたいです。私はこの歳で、しかも三男。金がありません。次の開発のために使う金が無いのです。ちなちまと入る純利益よりも、今すぐ次の開発のための資金が欲しい」
その言葉に、ジーマンさんは目を閉じた。
「なんと……そうなると、こちらからお出しできるのは大金貨100枚が限度。勝ち目がございません」
なるほど。
これで一件落着、とはならない。子爵家ご用達の商会が大金貨100枚が限度なのに、男爵家ご用達の商会が大金貨500枚。5倍もの大差の合い見積もりがあるのか? 普通、資金力は子爵家ご用達の商会のほうが高いんじゃないのか?
そう考えていたら、ギルバート商会が説明してくれた。
「実はわたくしも光魔法を教会で教わっているのですが、この強烈な光に魅入られてしまったのです。ああ、わたくしが光魔法で遊んでいた時に、生み出したいと妄想した光だ、と」
多分、この言葉は嘘では無い。プレゼンを始めた瞬間から、俺は、きっとこの人に売りたいと考えていた。
「この商品に社運を賭けたい。いや違う。この商品のための会社になりたい! どうか、どうかこれの販売権をわたくしどもギルバート商会に!!」
言われ、オフマン商会とジーマン商会を交互に見る。オフマン商会は「良いんじゃないすか?」的なノリでうんうんと頷き、ジーマン商会は恍惚の笑みで拍手を送っていた。
こうして、魔法灯の製造方法及び販売権の競りは、容易くギルバート商会に決まるのだった。
―――――(◇◆◇◆◇)―――――
「この度は辞退してしまい申し訳ありません。次の機会が頂ければ、次こそは勉強させていただきますので、何卒」
とオフマン商会は言うが、俺は実際オフマン商会の考え方は好きだ。
「気にしないでください。オフマン商会様を引き合いに出す時は、もう少し地に脚ついた商品が出来た時にします。その時は何卒、本気でご参加ください」
「!? ありがとうっ……ありがとうございます」
―――――(◇◆◇◆◇)―――――
「いやぁ、こちらとしては金銭は動きませなんだ、商人の醍醐味を見れました。ありがとうございます」
そう言ったのはジーマン商会だ。
「商人の醍醐味、というと?」
「決まっとりますわい」
ジーマンは満面の笑みで言った。
「誰かの願いが叶う時を見届ける事です」
―――――(◇◆◇◆◇)―――――
「今日は本当にお疲れ様、シャーリー。もう戻っていいよ」
商談を終え、夕餉も終え、部屋までの送り届けも終え、一日が終わった。なので、俺お付きのメイドであるシャーリーに「休め」と伝える。
いつもならすぐに帰るか反発するシャーリーだが、何故か今回はすぐに動かなかった。
「シャーリー?」
問うと、シャーリーは狼狽する。いくつか呼吸をして、あ、あの、その、えっと、を繰り返し、結局、
「お、おおお、おやすみなさいませ、アルメル様!!」
相変わらず「おやすみなさい」も噛まずに言えないシャーリーで日常を取り戻す。
さっきまでアドレナリンが出っぱなしだから、正直助かる安心感だった。
「うん、おやすみ、シャーリー」
――正式名称:魔法灯、商品名「アルメル・ライト」が販売開始されたのは、それから数か月後の話だった。
―――――(光源事情が不満だったので。完)―――――
ここまで読んで下さった方、本当にありがとうございます。もし気に入って頂ければ、評価、ブックマークをご検討頂ければ幸いです。
また、ここまでで十分楽しんだかな、と思ってくださったかた、何卒、もう3話、読んで頂きたいです。都合上こちらで1章完結とさせて頂きましたが、事実上切りが良いのは「第14話・贈り物の選定は大切なようで」となっております。
次の12.5話を飛ばして、13話、14話をもってこの物語を閉じて頂ければ、すっきり終われると思います。ご縁がありましたら、いつかの再会を願って。
それでは、また。




