第11話・物販交渉を始めるようで(前編)
「こちらが、俺が作り上げた傑作です。御覧ください、お父様」
シャーリーと共にお父様の部屋に乗り込み、早速魔法灯をお披露目する。お父様は椅子に座ったままテーブル越しにこちらを見て、目を剝いて驚いた後に、こう呟く。
「……これはまさか……光魔法保持機、というやつか……?」
「へ?」
なんか思っていた反応と違い、お父様は目頭を押さえた。もっとこう、どひぇえ! みたいなリアクションを期待していたのだけれど……。
「も、もしかしてこれ……既にあるのですか?」
恐る恐る確認すると、お父様は首を横に振る。
「構想だけだ。魔法学校の一部が構想として練り上げたが、実現出来たという話はまだ聞いていない」
よかった……いや、別に先を越されていても構わないのだ。俺は研究者の第一人者になりたいわけでは無い。ただ、少しでも現代日本の生活を取り戻したいだけなのだから。
「それにしても、本当にすごいな。こう……凄すぎて反応が出来ない……。まだ5歳だろう?」
「いえ、先日6歳になりました」
「ああ、そうだった、あまりの衝撃で記憶が飛んだ」
解る。俺も管理職になってからとんでもないトラブルとかど派手な契約が取れたとかいうビッグニュースがあると、さっきまで何をしていたか忘れる時がある。
「それで、それをどうしたいと考える?」
と、お父様が聞く。顔つきからして、親の顔、というよりも、大人同士の顔をしていた。
お父様は基本的には優しいけれど、業務的な場面や、こういう、人の成長に繋がりうると判断した時、少し冷たくなる。
力を貸す前に、必ず相手を試すのだ。
だから、これはきっと「人の役に立ちたいです」とか「これからもっと頑張ります」みたいな反応は求められていない。
そう判断し、俺はあえて包み隠さず、求める物を提示した。
「お父様と懇意にしている商会を3つほど紹介して頂けないでしょうか」
「……なぜ、ひとつではない?」
「製造方法と販売権を競りにかけます」
「そこまで考えられるのか……」
「それと、教会に影響力のある方を紹介して頂きたいのですが」
「それはどうしてだ?」
「簡単です。この魔法灯は、蓄魔力器に光魔法を溜める必要があり、継続使用には光魔法使いが不可欠です。――教会は光魔法使いを聖職者として迎え入れているし、平民に光魔法を教え、広める努力をしているとシャーリーから聞きました」
言うと、シャーリーは無言のまま頷く。
俺も最近聞いた話だけれど、シャーリーは孤児だったらしい。教会に引き取られていたところを、慈善活動に力を入れていたお母さまがメイドとして引き取ったのが、シャーリーがメイドになったきっかけだと言う。
「魔法灯の光魔法の補充を、教会には格安で引き受けて欲しいんですよ。お布施や寄付に答えるという形で」
「それは……割を食え、という話か」
「いえ、労働の対価は受け取ってください。ただ、儲けようとしないでいただきたいのです。その変わりに、商会には契約で『教会には無償で魔法灯を譲渡する』よう約束させます」
お父様は少し考えた。
「光魔法使いを多く抱えている教会の協力が無ければ、その魔法灯は一般に普及出来ない、という事か」
「そういう事になります」
まぁ、実際問題、光魔法は子供の俺でも会得出来るほどに、ただ光らせるだけなら簡単だ。むしろこの魔法灯の素晴らしさは、拙く微弱な光魔法でもチャージして安定した光に変えられる所にある。
「ですが、それは初めだけです。教会の協力があれば、村に一人は光魔法が使える人間を生み出せるんじゃないかと考えています」
「……日曜学校の科目に光魔法の会得を加えるんだな」
「そうです。そして光魔法を会得出来た者が、光魔法の補充を生業にすれば良い」
「平民の食い扶持が増え、商会は儲かる……。悪くないが、教会の利益が弱いな。発生する労働に対して、対価が魔法灯の提供のみというのは、多くの教会関係者は納得しないだろう」
そこは、教会なのだから利益は求めずに、と言いたいところだが、そうも言っていられない。
「教会に人が集まります。魔法灯で照らされた教会に光を求めた人が集まり、魔法灯への魔力の補充を求めた人が集まり、そしてなにより、なにより、ですよ」
「なにより、なんだ」
「――子供が集まります。日曜学校へ通わせて貰えない子供達が、来れる可能性が上がるのです」
「!?」
お父様が椅子から立ち上がる。
この世界のこの時代において、識字率は10%あるかないか。文字を読むという事すら10人に1人しか出来ない。それほどまでに、子供は勉強をさせてもらえない。
それは何故か?
子供は貴重な労働力だからだ。
店番をするにしても、家事をさせるにしても、子供は無償の労働力。勉学に励ませるなど贅沢な話。だから、教会が週に1回だけ無償で子供たち向けに開く日曜学校にすら通わせてもらえない子供は多い。識字率10%という結果から、どれだけの子供が日曜学校にすら通えていないかなんて簡単に割り出せる。……ほとんどだ。
けれど。
「光魔法を習得出来れば食い扶持が出来ると知れば、多少無理してでも子供を日曜学校へ通わせる親も出てくるでしょう。そうでなくても、子供が光魔法を覚え、この魔法灯を買えば、一生蝋燭を買い溜めしなくて済むと気付く人も居るでしょう。そうして日曜学校へ来る子供が増えるという事は、子供達に聖書を教え説く機会が増えるという事。これは明確に、教会の利益です」
しばらく沈黙が続いた。お父様の表情は固まっている。俺を見つめ、見定めるように微動だにしない。だから俺は、もうひと営業、盛る事にした。
「お父様、平民の食い扶持が増え、商会は儲かる。教会は信徒を増やせる。それだけではありません。魔法灯が売れるほど開発者であるファラン家の名は轟きますが、そんな事だってどうでも良い」
俺は、少し大げさにやりすぎかな? というこっぱずかしさを、自分に嘘をついて誤魔化しながら、お父様に手を差し伸べる。
「商会が潤う事で税収が増え、子供達の就学率が上がる。識字率も、算術も出来る者が増え、どんな仕事にも就けない生活困難者は減るでしょう。――これが、ファラン家の利益です」
「…………」
お父様の目が、見定めるような目から、気付きを得るような目に変わった。
そして数秒沈黙すると、椅子に座り直し、小さく呟く。
「…………流石、ヘンリーの子だな」
ヘンリー。お母さまの名前だ。
俺は首を傾げる。
お父様は破顔して、俺の手を取った。
「わかった。少し時間をくれるか。俺が懇意にする商会と、領地内の男爵家のうち信頼出来る者達に、競りに参加させる商会を選定させたい。アルメル。初めて顔合わせする者にも、先ほどの演説は出来るか?」
「お任せください。得意分野です」
「得意じゃない分野を教えて欲しいくらいだな」
こうして、お父様との前準備は完了した。




