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異世界貴族に転生したけど思ったより不満だったので  作者: 南乗七史
間章2・流れ星は遠く

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秘話12・常識は遠いようで③

 スレイン兄によるED告白に対し、お父様の反応はと言うと。


「…………めっちゃわかる」


 泣いた。


 そうか、お父様はスレイン兄の気持ちを察してあげ…………。


 …………ちょっと待って泣いてる!?


「お、お父様!?」


 アルフレッド兄が声に出して驚き、俺とスレイン兄は声すら出せなかった。この人って泣くんだ!?


 ……あれ、いや、意外と泣いてるか? この人。


 見た目と普段の喋り方とか振る舞いのせいでいつも忘れてしまうが、お父様、涙もろいところがあったりする。


「俺もなぁ、そういえばそうだったなぁ。お前達の母、ヘンリーがな、本当に最高の女過ぎて、ちょっと色々あったものだ……」


「なんですかその話おもしろそう」


 思わず飛びついたのは俺だ。単純に興味本位だが、ある意味前世の職業病かもしれない。何かの糸口になるかもしれないからと、相手に沢山話をさせるのだ。


 意見が対立したので話し合いの場を設け、とりあえず相手に好きなように喋らせていたら、勝手に向こうが納得を始めた、という事だって、何度もあった。勿論、納得へ導くため、意見は言わず、質問のみで、相手の思考を誘導する、なんて事も、挑戦した事があった。


 そういうわけでお父様の恥ずかしいエピソードが聞きたい!


 そうして出て来たエピソードがこちら。


「いや、ある夜な、ヘンリーに言われてしまったのだ。たまにはゆっくりしたいから他の女を抱いてこいと。ヘンリーという女が居て妾や愛人を取るなど意味が解らないだろう? だから手軽に済ませられるし『別に恋愛は絡まない金の関係だからこれは浮気ではない』と言える娼館に行ったのだ」


 実の父親から語らせる、風俗デビューというエピソード。


 忘れてはいけないが、この部屋には3人ほど女性も居る。


 お父様は堂々と言い切った。


「そこで俺は思ってしまったのだ。『家に帰ればヘンリーが居るのに、なぜ他のくだらん女なぞ抱かなければならない?』と」


「思ってしまいましたか」


 すごい過激なタイプの愛妻家だった。


「俺は指名した娼婦に言ったんだ。『妻をゆっくりさせるためにここへ来たが妻以外を抱く気は無い』と」


「言ってしまいましたか」


 台詞は素晴らしいのにTPOだけは最悪だった。


「そうして『娼館へ通う』という目的で娼館へ通った俺は、誰1人として抱かぬままただ世間話と遊戯で時間を潰す事でいつか、貞操観念という防御力が高いという意味でこう呼ばれた……『パラノメールの盾(笑)』と」


「「ぶふっ!!」」


 俺とアルフレッド兄が同時に噴き出し、笑う。そういう、いわゆるパロディーネタを考える人って、どうしてこうセンスが良いのだろう。王国の盾たるファラン家の次期当主の貞操観念が硬いから、パラノメールの盾……。まずい、久々の下ネタにツボった。


「そういうわけで、スレイン」


 ひとしきり笑ったり笑われたりをした後に、柔らかい口調でお父様が言う。


「俺も同じ身。そういう事情があると知らなかったとはいえ、怒ってしまった事は謝罪する。以降気を付けるので、お前も、気を付けて欲しい。説明をしろと言ったら、説明をしてくれ」


 スレイン兄は申し訳なさそうに答えた。


「……はい」


 と。


 さてさて、一見オチが着いたような雰囲気になっているところ申し訳ないが、実際は何も解決はしていない。


「で」お父様は空気を切り替え、重たい声で言う。「なら、どうする。お前達」


 本当に遠慮なく全力投球してくるものだ。だが、それくらいの熱が無ければいけない話題でもある。


 これはすなわち、ファラン家が滅亡するか否かの話なのだから。


 長男はエルフと結婚。ED。エルフと子供を成せるか不明。成せたとしても仮想敵対種族とのハーフ。国境を守る領土の跡取りとして、納得してくれる関係者は存在しないだろう。


 次男はメルヘンラークでの人間関係が既に完成している。先ほどアルフレッド兄本人も言っていたが、アルフレッド兄や妾はメルヘンラークで生活するが子供だけは寄越せ、というのは、間違いなく横暴が過ぎる。妻であるリーシャは突然変異なので子を成せない。


 そして俺。妻たるクリスティーナは突然変異なので子を成せない。その上で妾は論外だ。何故なら、ファラン家は子爵家であり、クリスティーナは公爵家だからだ。実家の位は圧倒的にクリスティーナが上なのである。誰がどう口を滑らせようとも「妾とか、良いっすか?」とこちらから提案出来るパワーバランスでは、断じて無い。


 状況を整理して思った。


「あれ、これ俺達がファラン家の末代では」


 思った事が声に出た。


 アルフレッド兄から「お前なぁ」みたいな視線を向けられているけれど、本来なら病気や立場上の問題での縛りを持たない、唯一選択肢があるの貴方だけだからね? ちょっと今後の出方次第では『ファラン家の世継ぎはアルフレッド兄なのでメルヘンラークから連れ戻す連合』がどこかで結成されちゃうよ? 


 などと内心で思っていたら何かが伝わったのか、アルフレッド兄は無言のまま慌てて、俺から視線を外す。解ればよろしい。


 とりあえず、多分全員の頭は冷えたし、立場も弁えただろう。


 こうなれば、俺の得意分野である。


 俺は言う。必殺の伝家の宝刀。


「今は全員冷静ではありませんし、この場でぱっと解決策が思いつく話でもありません。一度各自でも持ち帰り、解決策等があれば、都度提案する、という事で、いかがでしょうか。このままこの場でにらみ合いをしても、子供は生えてきませんよ」


 その必殺技の名を――先延ばしという。

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