第10話・ついにここまで来たようで
本日2本目の更新となります。昨日から更新を見にきてくださった方は、前話が読了済みか否か確認していただきますよう、よろしくお願いします。
夕餉を済ませた。お父様はアルフレッド兄の急成長に大喜びで、話題のほとんどはそれで終わった。俺に話が振られないのは助かった。今俺の頭は魔法灯の事でいっぱいなので、なんの話も入ってこない。アドレナリンが出まくっている。
部屋に戻る際に、シャーリーは今まで通り、すぐに帰らせようと思った。近くに置いておくとどうしても、無意識に付き合わせてしまう。これは俺の悪癖だ。俺が大丈夫だから皆も大丈夫、という意識はハラスメントに繋がるため注意するように、と、先輩に教わった事がある。だから帰らせようとしたのだけど、シャーリーは着いてきてしまった。
「アルメル様が無茶しないよう、見張る必要があります(※俺の脳内で整頓した流暢シャーリーによる翻訳です)」
とはいえ、無茶をしないというのは無理な話だった。既にスイッチは入っている。
スレイン兄のおかげで大量の毛が採取出来た。ワーウルフの毛を5本並べて、最初の根本に光魔法を当てる。すると5本目の毛先が光った。それを見たシャーリーが「すごい」と感嘆する。問題はここから。
10本の毛を使って輪を作る。そのうちのひとつの毛根に、別の毛先を当てる。その別の毛先の根本に光魔法を当てる。
「え……と……しっぱ……その、だめ、でした、か……」
シャーリーが不安げに言う。そう、その光魔法は光らなかった。
いや、まだ解らない。俺は光魔法を当て続ける。
すると、10秒くらいしてから、ぼんやりと、10本の毛先全てがひかり始めた。
光魔法を当てるのをやめると、そのぼんやりとした光はすぐに収まった。
そして、ここからだ。
俺は、輪っかにした毛の一本を輪から外した。
すると、輪にした毛端っこの毛先が光り出す。
数える。
5秒だ。
光魔法を当てていないのに、5秒光った。
「え! ど、どどどど、どうして!」
珍しいシャーリーの大声。俺は興奮気味に答えた。
「ワーウルフの毛は魔力を流す。なら循環させてしまえば、魔力は流れ続けるんだ。循環させる事に成功すれば、魔力はワーウルフの毛の中にストックされる。――光魔法を貯蓄して、使いたい時に使う事が出来るようになるんだよ!」
「!!」
「今、10秒光魔法を当てたけど光ったのは5秒程度だった。半分近くはどこかに逃げてしまっているんだろう。そこは改善の余地有りだ。これを改善し、循環出来る毛の量を増やせば、蓄魔力器は完成する。あとは、どうやって確実に毛と毛を繋ぐか、だが……」
考えるが思いつかない。セロファンテープなんて無い。銅や鉄を溶かして溶接なんて出来るわけが無いし、そんな事をしようものなら毛が燃える。
「何か、毛と毛を繋いでおく方法……」
この時代で、物と物を接着させる方法が解らない。
加工が簡単で、細かい作業にも使える接着方法はなんだ……?
「アルメル様」
遠慮がちに声を掛けられ、シャーリーのほうを見る。するとシャーリーは壁を指さしていた。その指さす先にあったのは――俺が、光源として弱弱しいと、若干ながらも見下した蝋燭が、燭台の上に立っていた。
(ああ、そうか)
蝋燭を一本手に取る。
この蝋燭は、この魔法灯が完成したらお役御免になるだろう。どう考えても、こちらのほうが光源として優秀だ。それでも。
毛先と毛根を丁寧に接触させ、そこに溶けた蝋を一滴垂らす。
固まるのを待つ。
固まった後に持ち上げ、一本目の根本に光魔法を当てる。二本目の毛先が光った。
角度を変える。場所を変える。全てのパターンで光った。
魔法灯の完成には、蝋燭は絶対不可欠だ。今まで馬鹿にしててごめん、今ほどお前の存在に感謝した事は無いよ、蝋燭。
世界を照らす役目は、いずれお前から魔法灯に引き継がれ、お役御免になる。しかし、魔法灯の制作には蝋燭が必要だ、なんて、ロマンチックな話だ。
毛の輪っかを丁寧に繋げながら、蝋で固定していく。ひとつひとつを丁寧に進める。その接続部のふたつに細い木の枝で小さい穴を空けた。そこに一本の毛の毛先を差し込む。
差し込んだ毛の根本に光魔法を当てる。10秒当てると、淡く全ての毛が光出す。これ以上は貯められないという事だろう。ワーウルフの毛一本で、光魔法10秒分。
光魔法の注入をやめると、淡い光は緩慢に収まる。
次に、もうひとつの穴から毛の根本を差し込む。
すると、差し込んだ毛の毛先が光った。
つまり、この輪っかの中に光魔法が貯蓄されていたという事。
接続を丁寧に行ったからか、今度は8秒光った。
少しだけ改善の余地はあるだろう。
それでも、蓄魔力器は完成した。
そして今の工程で思いついてしまった。
一本の毛の線を作る。そしてその先に石くれのフィラメントを接続する。
蓄魔力器に光魔法を込める。
フィラメントと接続した毛の毛根を蝋の穴に差し込む。
――それは、普通の光魔法同様、弱く不安定な光だった。
それでもフィラメントは確かに、光った。光魔法を使っていないのに、光魔法は発動した。
「!?」「!?」
俺とシャーリーはお互いに声にならない声を上げ、気付いたら抱き合っていた。
「こ、これを、これを作ろう、シャーリー、この輪っかが沢山要る。まずは100個作ろう!」
「は、はははは、はい!」
どれだけそうしていたか解らない。暗い部屋の中で、ひたすらに毛の輪っかを作る作業を繰り返す。ひとつひとつ、魔力を込めて精度を試しながら丁寧に作っていく。
すると途中で気絶したように寝ていて、その作業は数日に渡った。
「じゃあ、行くよ、シャーリー」
「は、……はい……」
ふと途中で冷静になり、100個も並列にするとフィラメント側の接続が実質不可能になると気付き、方向修正をした。100本の毛をクルクルと何周も循環させたものを、ひとまず5個作った。
それらの入り口は毛先の接続後、蝋で固める。
フィラメント側は蝋を大きくして、円錐状に穴を空けた。毛根側もある程度蝋で固めて、定まった動きになるよう整えた。
フィラメントに接続された5本のワーウルフの毛。
その毛根を、それぞれ蓄魔力器に接続する。
――光は強く、しばらく光った。
確かに、魔力の注入に費やした時間の5分の1の時間で消えてしまったが、5倍は安定し、強く光っていた。フィラメントの形と大きさを工夫し、接続方法の改善をしていけば、伸ばす事は可能だろう。
そしてこのフィラメントの接続本数で光具合も制御できる。
これだ。
この形を、精査し、調整していく必要がある。
それからしばらく、シャーリーは見張り役という役目を忘れて、一緒に夜更かしをした。土くれのフィラメント作りはアルフレッド兄に一任していたが、ある時、魔法使いである叔父が訪れた際に色々と動いてくれたおかげで、一気にフィラメントの精度は、小さく、丁寧で、高密度で、硬くなった。スレイン兄も、魔獣の素材を必要分提供してくれた。
形の改良も進んだ。
蝋で接続した後に蝋を削ってコンパクトにし、並列を終えた後にもう一度蝋で固めた。それをいくつも重ねて作った蓄魔力器は木の箱で覆った。
その蓄魔力器から横に装置は続く。これは工作が大変だったが、いつの間にやら俺の実験を知り興味を持っていた騎士、使用人達も知恵を貸してくれた。中には大工や木こり出身の者も居て、手伝ってもらった。それにより、レバーをひとつスライドさせるだけで複数の毛根と蓄魔力器を接続出来る装置の制作が完了した。本当に簡単な作りだが、作るのが大変で、職人の力が必要だった。
光魔法を注ぐ者によって色々と変わる事も発覚した。シャーリーは俺よりも10倍速く蓄魔力器を満たす事が出来た。これは僥倖だ。教会に一人以上は居る光魔法の使い手に頼めば、シャーリー以上の効率で光魔法の補充が出来る。
予想より大きくなった。
それでも――魔法灯は完成した。
ToDoリスト
・媒体の選定。 ←clear
・蓄魔力器の作成。 ←clear
・回路とスイッチの作成。 ←clear
・必要な場合はコンデンサと抵抗器の作成。 ←clear




