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異世界の貴族に転生したんだけど思ったよりも不満だらけだったので  作者: 南乗七史
プロローグ・魔法ありの異世界に転生したようで
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走馬灯では無かったようで

 死ぬ気で働け、死なないから。と、誰かが言っていたので死ぬ気で働いたら普通に死んだ。


 20連勤目を終えて3日ぶりに帰宅したら急に胸が痛くなって、息が詰まって動けなくなって、走馬灯なんかも見ちゃったりして。


 学生時代は輝いていた。モテたり部活動で活躍とかはしていないけど、それなりに友達に恵まれた。最近会えてなかったけど、あいつらは元気だろうか。


 大学受験から大学生活は結構ハードだったな。勉強にアルバイトに遊びに就活。一瞬だった。


 人生で唯一出来た彼女。可愛かった。3年付き合ったけど、劇的な事があるでもなく、普通に飽きられてフラれてしまった。


 それでなんとなく自己肯定感が下がってる時に管理職にならないかって誘われて。あの時は嬉しかった。必要としてくれる場所がここにあるって思った。


 だから今まで以上に働いて働いて。今思えば居場所が欲しかったんだな。ある種の現実逃避だったのかもしれない。時代的に管理職は残業が残業扱いにならないのをいい事に働いて働いて。


 俺を頼ってくれた部下。生意気だけど可愛かったな。


 あの時助けてくれた先輩。先に出世しちゃってからあまり話す機会が無くなっちゃったけど、まぁ俺が死んでもあの人が居れば現場は大丈夫だろう。


 ああ、だけど取引先が何か所か心配だなぁ。迷惑掛けれる事が嬉しい程にムカつく取引先もあったけど、あの人やあの人の所なんかは、お世話になったし、迷惑かけちゃうの申し訳ないな……。でもあの案件が片付いた後で良かった。


 ビルの守衛室にシャワーがある事を知っていた人間は少ないだろう。そこを借りて、職場の硬いソファーで仮眠を取る日々だった。頑張ったなぁ。


 やわらかいとは言えない布団の上で、高い天井を見上げる。そうすると金髪の美人が疲弊と幸福を混ぜ合わせた表情で俺を覗き込んできたりして。


 おぎゃあおぎゃあと赤ん坊の泣く声が耳に着く。どこからともなく、だけど俺の世界の全てを支配するほどの大音量の泣き声。


 そういえば胸の痛みはもう無い。ああもう死んだんだなという自覚が謎の浮遊感を生み出して、息苦しくて辛いから思いっきり息を吸っておもいっきり息を吐く。


 全然力が入らない。死ぬ瞬間だからか、呼吸の仕方を忘れてしまったらしい。辛いから早く終わってくれないだろうか。泣きたい気持ちだ。というか多分泣いている。涙が出ているのは間違いない。


 意識っていつになったら終わるんだろう。激しい呼吸を繰り返しながら天井を見ると、金髪の美人が俺の顔に手を伸ばして優しく触れてきた。死ぬ間際だから感覚が敏感になっているのか、触られた箇所がビリビリとしびれた。


 そういえばさっきから流れるこれはいつの走馬灯なんだろう。知らない美人だ。俺の母さんは黒髪だし、純正の日本人だ。目の前の金髪美女はどう見ても日本人じゃない。顔が西洋のそれだ。衣装も現代的ではない。


 解らないが、今は考えるより息苦しさだ。激しい呼吸を繰り返していると、俺の呼吸のリズムと赤ん坊の泣き声がリンクしている事に気付く。


「あるめる。うるもーら、うるもーら」


 金髪の美人は何かを言いながら、俺の顔に触れていた手を俺の胸に移す。そして俺の呼吸に合わせてふわりふわりと撫でおろす――ちょっと待て、手がやたらでかいぞ。片手で俺の両胸を包み込んでいる。顔を撫でられている時は気付かなかったが、この女性、相当に大きい。


「うるもーら、うるもーら」


 穏やかな子守歌のようにその言葉を繰り返す女性。胸を撫でおろす手のリズムにつられて呼吸が落ち着いていく。息苦しかったのがだんだんと弱まっていくにつれ、この人の手のリズムに従って呼吸をすれば良いのだと気付く。


 でも呼吸が落ち着いてきたら今度はお腹周りが辛くなってきた。内側から内臓がきゅうっと引っ張られるような違和感と、さっき深い呼吸を繰り返したからか酸欠みたいな脱力感が全身と頭を襲う。


 辛い、辛い、あまりの辛さに声を上げて泣いてしまった。30には届いてないとはいえ、大の大人を泣かせるなんて大した痛みだ。だが死ぬ間際の痛みなのだからそれくらいは当然かもしれない。


 ところで本当に俺はいつ死ぬんだろう。そしてこれはいつの走馬灯なんだろう。本当に辛いから早く終わらせて欲しいんだけど……と思っていたら金髪の美人が目の前で服をめくっておっぱいを丸出しにして見せつけてきた。


 そして俺の首に手を回してきたかと思うとちょっと待っておっぱいだ!! 金髪美女のおっぱい! 元カノより大きい乳房、綺麗なB地区!! 


 あまりにも芸術的過ぎるからだろう、エロいという感情は全くわかない。その変わりに美味しそうという感情が前面に立つ。


 風俗店に行った事は無いつもりだが、もしかしたらどこかで酔っぱらって行った事があるのかもしれない。その時の、酔いで消えていた記憶が走馬灯で蘇ったのかもしれない。


 さっきは早く終わらせて欲しいとか言ってすみませんでした。走馬灯さん、ちょっとこのプレイが終わるまで待っててもらっていいっすか。お腹周りと脱力感が辛い? 美味しそうなおっぱいのほうが優先です。


 俺は目の前のおっぱいにしゃぶりつく。金髪美女は俺におっぱいを押し当てながら抱きかかえた。おいおい、サービス良すぎだろこの風俗店。こんな場所があるなんて知ってたら素面で通ったよ。金はあるんだ無限に通った。ここに通うために仕事を頑張ってたのかもしれない。だって金髪美女がおっぱいを押し当てながら抱きかかえてくれるんだぜ? 普通に考えてありえないだろ?


 …………なんだって?


 いや、ほんとだよ、普通に考えてありえないだろ。20歳くらいの女性が30手前の男を抱きかかえてるんだぞ? 倫理観とかサービスとかではなく普通にありえない。しっかりと足も浮いている。全身を持ち上げられている。


 しばらく堪能したら何故か腹の不快感と脱力感が抜けていって、少し頭が回るようになった。そのおかげでようやく気付く。俺は赤ん坊になっている。目覚めて泣いて、落ち着いたらお腹がすいて泣いて、あやされている赤ん坊だ。おっぱいを吸っているという事は物心だってついていないだろう。走馬灯はそんな時の景色も見せるものなのか?


 それにこの人は誰だ。知らない人だ。物心つく前に預けられた事があるとか? だとしたらこの場所はどこだ。建物は日本風では無い。


 これはいったい


「おうおうあー」


 どうなっているんだ、と考えたら声が出た。赤ん坊だから舌も唇も未成熟で、言葉は紡げないが、どうなっているんだ、と独り言を呟こうとしたのだろう。


 ――呟こうとしたのだ。


 お腹がいっぱいになったのでおっぱいから口を離すと、金髪の女性は袖で自分の乳首を拭い、服を戻す。綺麗なおっぱいだったが、もう用は無いので未練は無い。今はこのふわふわの安心感だけあれば良いので、服越しでも問題無いのだ。


「あるめる。うるわらーだ、うるわらーだ」


 そう言いながら女性は俺の頭を撫でる。知らない国の言語だが、こういう時の相場は「良い子、良い子」「グッド・ボーイ(ガール)」だろう。


 さっきは確か「あるめる。うるもーら」と言われていたか。「あるめる」と「うる」が共通の響きだが、そうなると優先は


「あうえう?」


 あるめる、と言おうとしたがやはり無理だった。だが、金髪の女性は俺が「あるめる」と言おうとした事に気付いたらしく、ぱああ、っと満面の笑みを浮かべ


「うる! うる!」

 と声を荒げた。「うる」はどうも肯定する言語のようだ。となると、ウルを前置きとして「モーラ」と「ワラーダ」という言葉を肯定している可能性が高い。「良いモーラ」「良いワラーダ」みたいな感じだ。


「あるめる。あ、る、め、る」


 女性はゆっくりと繰り返しながら()()()()()()()。まるで、あるめるとは俺の事であるかのように。


 状況を理解したかった。全身の不快感はもう何も無い。死んだ後の天国だと言うには、女性に抱きかかえられている感触があまりにも明確だった。


 周りを見ようと首を動かす。だが、頭が重すぎてコントロール出来ず、首が捥ぎかける。気付いた女性がぱっと俺の首を支えて、首を動かせないよう固定した。


 認めざるを得ない。これは走馬灯では無い。俺の意思が動きに反映されているからだ。俺は生きているし、子供になっている。タイムリープかとも一瞬思ったが違う。首が回る一秒で見えた景色が既に日本では無かった。


 ふと、金髪の女性が何かを呟いた。今までの俺に――つまり赤ん坊に言い聞かせるための単語ではなく普通の文章だったため、聞き取る事も出来なかった。しかし、それがなんだったかはすぐに分かった。いや、解らされた。


 ふわりふわりと、3つの木製の人形が宙を舞い、俺の視界の仲で踊った。


 すげぇ! 浮いてる! どうやって!?


 あまりの驚愕に手が伸びる。人形のひとつを掴もうとするとひょいっと逃げられた。


 人形が空を舞い、自由に動いている。俺の視界の隅で、金髪美人の指が3本、光りながらひょいひょいと動いているのが見えた。その3本の指の動きと人形の踊りがリンクしているように見えた。


 これは、これは魔法じゃないか!!


 実はちょっとした未来で、そういう玩具が開発されたという可能性もある。例えば小型かつ無音のドローンを指さきひとつで操作出来るようになった未来。そんな技術が開発されているんだとしたら、現代日本人の俺からしたら魔法としか思いようがない。これは魔法、魔法なんだ。


 俺は魔法がある世界の子供に生まれ変わったのだ。

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