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残る虹

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 こーちゃんは、ここのところ虹を見たことがあるだろうか?

 雨上がりの時などに見る、巨大な虹。冬場になるとなかなかゆっくり眺める機会がなくなっていく。

 俳句の季語には「冬の虹」という語があるが、これはたとえ見えたとしても短時間で消えてしまう虹のことを指すらしい。そこにはかなさを見出すか、それともわずかでも見えたという希望に思いを馳せるか……ここはフォーカスする人たちのセンスによるかな。

 私は好きだね。たとえ、すぐ消えていくとしても、姿を見せられるというのは。ほんのちょっぴりだとしても。何も存在をアピールできず消えていくよりは、確実に残る。

 最近は印象に残すことを「爪痕を残す」「傷跡を残す」とたとえる人をちょくちょく見る。少し言語を知っているなら「なんでえ、ネガティブな表し方するなあ。なんか災害とか悪いことがあったみたいじゃないか」と思っても不思議でないだろう。

 そこに現代の隠された切迫感を覚えるんだ、私。たとえ悪いことであっても、自分の何たるかを刻み込みたい。それがポジティブな場面であっても、強めな言葉を用いてアピールしたい、とね。

 ひょっとしたら、私たちの見る虹も、そのようなケースがあるかもしれない。少し前に友達から聞いた話なんだが、耳に入れてみないか?


 その友達とは学校を卒業しても、数年に一度は顔を合わせている。

 最近にあったときに聞いたのが、「残る虹」の話だった。

 仕事でも趣味でもあちらこちらに足を運ぶ友達だが、とある場所でその残る虹に出会ったらしい。具体的に話すと特定されかねないからとぼかされたが、少なくとも人工物は少ない環境であったとか。

 最初は雨上がりに現れたそれを「お、虹だ」と珍しげに眺めていたらしい。ちょうどそこでキャンプする予定があったという友達は、日の高いうちに準備を整えながら、夕飯までを済ませたらしい。

 ところが、陽がほとんど沈みかけたほぼ夜空を見上げてみると、まだ虹がはっきりと見えていて、「あれ?」と思ったそうだ。


 虹の正体が、空気中にある水滴に太陽光が反射したものだということは、知っていよう。

 ゆえに雨のあとなどに現れやすく、昼間にしか見えないもののはず。太陽とは反対の方向に現れるそれは、光なくして見えるはずがないのだから。

 星はなくとも、先よりも暗さを増した空の中でもその七色の光は薄れることなく、とどまり続けている。姿は虹のそれに相違ないのに、在り方は虹のそれとはまったく異なるものだ。

 妙なものを見たな……と思いつつも、珍しいものだしと、友達はカメラを向けたそうなんだよ。

 ところが、撮ったデジタルカメラにはあの虹の姿はさっぱり映らず、暗くなった空が確認できるのみ。少なくとも普通の虹ではないことはますます明らかになった。


 なんら気味の悪いことがあっても、布団や寝袋の中であれば少しは心休まる。そのような経験、君にはないだろうか?

 こいつらは体温を保つのに、とても役立つ存在。そいつをモノにしているというのは安心感を育むことにつながる。

 友達も現象を確認してからはさっさとテントの中へ引っ込み、寝袋に入り込んで寝てしまったようなんだ。起きれば、すべてが自分の見間違いで終わる……そう信じながらね。

 が、その思惑は残念ながら裏切られる。

 虹は残っていた。けれども、空にではない。

 友達の身と、そのまわりにだ。


 光をなくし、あたりの暗さを強めるとあの虹が浮かび上がってくる。

 最初に気づいたのは、寝袋の中だ。起きてすぐ空を見上げ、虹の不在に安心したのもつかの間、いざかたそうとした寝袋の内側。自分が身体を入れていた部分に、例の虹の色が沁みついていたのだから。

 不思議と、光に当たるほどそれらは全然見えなくなる。ゆえにファスナーで閉じようとしたり、押し入れにしまおうとしたりする、その瞬間に目の当たりにしてしまう。

 友達も部屋の明かりを消して、鏡と向き合ってみると自分の身体中に、あの虹の色が浮かぶのが分かるのだとか。


 ――実際に、見たことがないのかって?


 いや、それが友達以外の誰も、話を聞いたうえで確かめても、その虹とやらを目にできないのさ。カメラに映らないっていう話も、フカシじゃないんだろう。

 友達は、あの残る虹を見てしまったとき、自分の目が。あるいはその奥にある脳が、虹そのものにやられちゃったんじゃないか、と思っているようだ。

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