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√ 七・岩塩山の町【アルプ・ラークル】ググレ暗黒教典①

 岩肌から露出した岩塩が、白く積もった残雪のように見える【アルプ・ラークル山】を望む町。

【アルプ・ラークル】──その町の近くにある森で、ナックラ・ビィビィたちは星空の下で野宿をしていた。


 揺らぐ焚き火の炎にあたりながら、ナックラ・ビィビィは夢を見ていた。

 夢の中──ナックラ・ビィビィは、民衆を苦しめている西方小国の悪政に、反旗をひるがえし民衆解放のために立ち上がった同志組織の隠れ家にいた。


 泥レンガを積んだ壁の小屋の中で、解放同盟リーダーの男性は、片腕を斜め下に向けて、反対側の足を上げて歌舞伎(かぶき)見得(みえ)を切っているような奇妙なポーズで、円形に跳ね回る。

「おっとととととっ…… おっとととととっ」


 回り終わった男性は、机の上に置かれた大皿に乗っていた大魚の頭をつかむと、そのままズボッと魚の骨を身から引き抜いた。

 同志から拍手が起こる。

「さすが、カナッハ!」

「見事な技だ!」

 カナッハと呼ばれた男が、同志たちに言った。

「さあ、民衆が悪政から解放された第一歩だ、この祝杯魚を調理して。みんなで食べてくれ」


 骨が引き抜かれた魚が調理されているのを、横目で見ながら微笑んだカナッハは、泥レンガ小屋から外に出たカナッハに、壁に背もたれて立っていたナックラ・ビィビィが言った。


「血脈の成せる見事な『骨抜きの技』じゃな……技を使うのに、あの奇妙なポーズと跳ね歩きは必要なのか?」

「いろいろと試してみたが。あの動きが無いと、血族に伝わる、骨抜き技は使えないコトがわかった……オレの孫やひ孫くらいに、血族の骨抜き技が使える者が現れるかも知れないな」


 美少女姿のナックラ・ビィビィが、髪をいじりながら言った。

「それは、隔世(かくせい)遺伝 と言うらしいな──つい最近、修道院でドラゴン豆を栽培していた聖女が発見したと伝え聞いた」


 カナッハは、苦笑しながら自分の手を眺める。

「この力は、小さい生物の中身を無意識に抜く時だけ、あの奇妙な動きをしなくても勝手に発動する時があるから、そこだけは注意しないとな……この間も、眠っている間につかんだ虫の中身だけを抜き取っていた」

「どのくらいの大きさの生き物の中身を、無意識だと抜き取れるのじゃ」


「ネズミくらいの大きさくらいまでだな……眠りながら、果物の皮を剥くように。生きたネズミの皮を頭から剥いていたらしい」

「無意識の時は骨抜きではなく、中身抜きじゃな……ところで、お主」

 ナックラ・ビィビィは、声を潜めてカナッハに訊ねる。


「本当に、逆賊の汚名を被るつもりか……国を軟禁牢状態にされて人質にとられている同志とお主の身内を守るために……『民衆を扇動して、小国を混乱させて王室に反逆の剣を向けた首謀者』などという口実は、卑怯な権力者が脆弱(ぜいじゃく)で飾り物の王室の名を利用した策略じゃぞ」


「わかっている……オレ一人が犠牲になれば済むコトだ……あいつらには、何も知らせないでくれ」


 カナッハは、少し前に手紙を受け取った。

 その手紙には『小国内にいる民衆解放同盟の身内を殺されたくなかったら、煽動したリーダーが逆賊として出頭しろ』

 そう書かれていた。


「お主……連中の所に行けば確実に処刑されるぞ、この小国の民衆が完全に悪政から解放されるには。まだ、お主の力が必要じゃ」

「後のコトは頼む、オレがいなくなっても……残った同志が、最後まで成し遂げられるように知恵を貸してやってくれ」


「損な役回りじゃな……今の儂にはどうするコトもできん、やり遂げなければならん旅の依頼があるからのぅ」

「短い間でも、この腐った小国に立ち寄って、オレの話しを聞いてくれただけでも心が救われた、あんたは自分がやるべきコトをやってくれ」


 カナッハは、ナックラ・ビィビィに背を向けて歩きながら言った。

「もしも、オレの子孫に出会うことがあったら……『先祖は逆賊ではない、誇りを持て』とだけ伝えてくれ」

「わかった……もしも、子孫に出会えて。忘れていなかったら伝えておこう」

 そして、カナッハは逆賊として処刑された。


 ◇◇◇◇◇◇


 夢から覚めたナックラ・ビィビィは、焚き火の明かりに照らされているギャンの寝顔を眺め呟く。

「どことなく、面影は曾祖父に似ておる……血族の成せる技、無意識のうちにあの奇妙な動きを修得するとはのぅ……正しい使い方へ導いてやらないと。あの技は使い方を誤ると諸刃の剣じゃ」

 ナックラ・ビィビィは、焚き火横で背を向けて座って、忍具の手入れをしているリャリャナンシーに向かって言った。

「お主もラブラドの眼力を、思う存分使いたいのであろう……焦らずともリャリャナンシーの力を必要とする。その時は来る」

 リャリャナンシーは、頭に被っている⊥型をした防具の、赤い光点を移動させて後方のナックラ・ビィビィを無言で見た。


 ◆◆◆◆◆◆


 翌朝──アルプ・ラークルの森をナックラ・ビィビィ一行は進む。

 アルプ・ラークルの森の幹や枝には、長年に渡り岩塩が付着して。幻想的な塩の森を形成していた。

 森の所々には、風化浸食されて切り立った尖棒状の奇石も見えた。


 歩きながら、ギャンがナックラ・ビィビィに訊ねる。

「この先にあるアルプ・ラークルの町に行くのか?」

「そうじゃ、塩だらけの森は喉が渇いてしょうがない……水分補給もしなければならん、どうせ森の泉の水は塩水じゃからのぅ……それに」

 立ち止まったナックラ・ビィビィは、三日月型の魔導杖の先ので、岩塩層が斜めの地層に入っている崖の上に建てられている、洋館を指し示して言った。

「あの館に住む者にも用がある。まだ、ググレ暗黒教典の欠片を持っているのなら、燃やしてしまわねばならん」


 ◇◇◇◇◇◇


 岩塩の層が何本も斜めに走る、崖の上に建てられている洋館──日中でも薄暗い黒い森の中を、若い男女が手を取り合って何者かから逃げるように、さ迷っていた。

 頭からすっぽりと被る、奇妙な幾何学文字が描かれた。入院着のようなモノを着た素足の男女は足を小枝や突き出た鋭い石で傷つけながら、必死に洋館の敷地内にある森を逃げていた。

「はぁはぁはぁ、大丈夫か?」

 男が女の身を気遣う。

 軽くうなづく女の顔には疲労感が浮かんでいる『惑いの森』道標を見つけられない者は、同じ場所をグルグル回り衰弱死してしまう魔の森……天然の城壁だった。

 男が何度も通って見覚えがある、樹の根元を指差して言った。

「とにかく、あの樹の下で休もう」

 女はうなづいて、男の言葉に従った。


 寄り添うように樹の根元に腰を下ろす男女。

 目を閉じた男は思い返す。

(いったい、オレたちは誰だ? なぜ、牢に閉じ込められていた?)

 男が最初に意識を取り戻した時──見知らぬ女と一緒に冷たい石牢に横たわっていた。


 食事を持ってきた使用人たちが、話しているのを聞いた。

「あの二人は、身代わりの生け贄だ……祭壇に捧げるまで、死なせるなっていうのが旦那さまと奥さまの指示だ」

「それにしても、気味が悪いな……あれだけ同じ顔をしていると」


 牢の中の男は、固いパンをかじりながら。使用人同士の会話に耳を傾ける。

(生け贄? 身代わり? いったい誰に顔が似ていると言うんだ)

 身の危険を感じた男は、隙を見つけて牢の鍵を壊すと、一緒に牢に入れられていた女を連れて洋館から逃げた。

 どこへ逃げればいいのか……わからないまま。

AIみたいな文章で指摘された問題点


【まずは、「普通に読める文章」を書けることを目指したほうがいい。今の文章では「普通に」は読めない。なお、ここでの「普通に読める」とは、「左から右へ視線を動かすことで文意をつかめる(横組みの場合)」あるいは「上から下へ視線を動かすことで文意をつかめる(縦組みの場合)」を意味する。今の書き方では、前後左右の文章を見比べながら「解読する」必要がある。


以下、気になった点をいくつか挙げてみた。



●『、』と『。』とを使い分けよう


『、』と『。』とをそれぞれ本来の意味で使おう。『、』は一般に文の途中にある切れ目を表すことが多い。『。』は一般に文の終わりを表すことに使われる。これらは小学校の国語の授業で習う内容のはずだ。多くの読み手はこれらのことを暗黙的に仮定している。しかし、本作の文章はこの暗黙的な仮定に基づいていない。『。』が置かれていても文が終わっておらず、次の文章に続いている、という箇所がいくつもある。これでは、「文が終わった」という感覚をリセットせざるを得ず、「この『。』は、実は文の終わりではなかった」と思い直して読み直す必要がある。結果として、目線が行ったり来たりを繰り返し、肝心の内容が頭に入らない。


対策としては、自分が書いた文章を声に出して読んでみる、というのがある。『、』は文の途中での一時停止であり、『。』は文の終わりである、ということを意識して読んでみると、文の不自然さに気づけるかもしれない。もし不自然さに気づけないのであれば……、そのときの対策はわからない。



●一文の途中で改行しないようにしよう


前項『●『、』と『。』とを使い分けよう』とも関連するが、『、』を意味する『。』を『、』に置き換えたら、『、』の直後の改行文字を削除しよう。通常の文では文の途中で改行しないことが多い。台詞が後に続く場合などを除き、改行は段落の切れ目を表す。一文の途中に段落の切れ目が来ることは不自然だ。一文が長いと感じたら、接続詞を挟むなどして適度に短い文に分割すればいい。一文の途中で改行するよりも読みやすくなるはずだ。



●段落を意識しよう


段落はだいたいにおいて一つの話題を表す。同じ話題が続く限り、段落は続く。小説においてもだいたいその傾向はあり、動作の主体が変わらないのであれば段落は変わらないことが多い。段落が変わるのは、話題が変わるときや動作の主体が変わるときなどだ。尤も、最近の小説ではそうとも言えない傾向にあるようではあるが。


段落に関しては、『悪文[第3版]』(日本評論社)に興味深い例が載っている。小学生の作文の授業の際に「段落を意識して書こう」と指摘したところ、指摘の前後で見違えるような変化が見られた、というのだ。書籍中には、例文として児童の作文が掲載されている。確かに、指摘前の文章はほとんど一文ごとに改行する箇条書きに近いものだったが、指摘後の文章では明らかに文章量が増加しており、読むだけでその場の情景を思い浮かべられるほどまでになっていた。


段落を意識するだけでそれだけ変わるのであれば、意識しないのはもったいない。文を単位として文章を構成するのではなく、段落を単位として文章を構成したほうが、よりよい文章を書く訓練になるかもしれない。



●主語、述語、目的語、修飾語、その他の語順を意識しよう


一文の中の語順を意識しよう。だいたいの文においては主語があって述語がある。おおよそ「誰それはどうした」のような形になる(倒置法もあるが、ここでは考慮しない)。文の中には目的語がある場合もある。おおよそ「誰それは何々をどうした」のような形になる。修飾語がある場合もある。おおよそ「これこれな誰それは何々をどうした」のような形になる。日本語の場合、修飾する語は修飾される語の前に来ることが多い。目的語は述語の前に来ることが多い。それぞれの語の関係をわかりやすくするためには『、』を適切に使用する必要があるが、本作の文章ではそれが崩れている箇所がいくつもある。そのため、そのたびに「この修飾語は、一体全体、どの語にかかるのか?」と考えざるを得ず、頭の中で文章を再構成する必要がある。こちらについても、対策としては声に出して読んでみるのが有効かもしれない。



●体言止めの使用はとりあえず封印しておこう


本作の文章には体言止めや「動詞の連用形+助動詞+『。』」のような形が見られる。体言止めを多用すると文章が一気に陳腐化する。極々少数であれば効果的かもしれないが、これでもかと多用されると読むのも辛くなる。後者についても体言止めと同様に、多用するとどうにも拙い文章のように見える。言い方は悪いが、「出来損ないの詩」のようにも見えてしまう。体言止めや「動詞の連用形+助動詞+『。』」の使用は却って文章を損なうものだと考えて、最後まで書き切るようにしたほうがいい。まずはきちんとした文章を書けることを目指すべきだ。



●物語世界にふさわしい語や言い回しを使おう


それぞれの作品世界に合う言葉を使おう。別世界を舞台にしたファンタジー作品の中で現代の流行語が出てきたとしたら、それだけで読む気が失せてしまう(「別世界のことを日本語で表現する」という根本的な問題については、ここでは考慮しない)。普段使用している言葉を登場させるにしても、少々古めの言葉に言い換えたほうが「それらしく」なることもあるし、漢語(熟語)については言い換えたほうがいい場合もある。


ある言葉を言い換えたいときには、例えば、『現代語古語類語辞典』(三省堂)のような辞典が役に立つ。なお、この辞典を使用する際は国語辞典と古語辞典の併用は必須と思ったほうがいい。



●説明するのではなく描写することを心掛けよう


説明と描写との間の線引きは難しいところもあるが、描写することを心掛けよう。「見た目が美少女」とは? どれほどの美しさ? 美しさの決め手は何? 一番目の文章の冒頭でその情報を提示する必要はあるのか? 単に人物名を提示するだけで事足りるのではないか? 書き手の頭の中には確固とした像があるのかもしれないが、文章の中からは読み取れない。読み手はそれぞれ勝手に「美少女」の姿を想像するより他にない。これでは単なる記号に過ぎないことになる。物語の進行上では「美しさ」は関係ないのかもしれないが、そうであればわざわざ「『美』少女」とする必要もないように思える。読み手の想像力に委ねるのであれば、単なる記号のほうがよいのかもしれないが。


加えて、「見た目」という語もあまりにも安直に思える。前項とも関連するが、もう少し別の言い回しにしたほうがいい(見目/顔立ち/容貌/容姿/姿/姿形/……、等々、他は類語辞典などを参照)。「ハイファンタジー」なのに、あまりに残念なことになっている。


また、文章の構造として、

  登場人物の動作の説明

  ↓

  その人物の台詞

という流れになっている箇所が多くある。これでは、読み進めるごとに手品の前に種明かしをされているような気分になる。あるいは、地の文をト書きと見立てて脚本のように読めなくもない。対策として、台詞の後に描写する、あるいは、描写→台詞→描写、など、いろいろと工夫したほうがいい。試しに、テキストエディタにコピーして台詞の部分を消去してみたところ、本当にト書きのように見えてしまった。説明ではなく描写していたとしたら、台詞を消去したとしても印象は異なっていたかもしれない。



●語と語との関係を意識しよう


ある語と別の語との繋がりを意識しよう。前述の『●主語、述語、目的語、修飾語、その他の語順を意識しよう』とも関連するが、ある語には「繋がりやすい語」と「繋がりにくい語」とがある。「繋がりにくい語」があると、そこで文章の流れが淀む。言い換えると、読んでいて引っかかる。引っかかりがあると、「この場所にふさわしい語は何か」と考え始める。場合によっては各種辞典で調べ始める。場合によってはそこで読むのを止める。


語と語との関係を確認したいのであれば、例えば、『てにをは辞典』(三省堂)のような辞典が役に立つ。この辞典には複数の作家の用例を基に、ある語と繋がりやすい語の例が示されている。他にも類語辞典がある。当然のことながら、国語辞典も役に立つ。書いている最中に語の選択に迷ったら、各種辞典を確認してもいいかもしれない】


★書き直せばいいんでしょう……

偉そうに



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